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第8章 ~ 西南西:葬儀の日。それと再会前夜 ~ 4

 

 朱海さんとの会話の一部始終を聞き終えて最初に口を開いたのは、ルナではなかった。


「いかにも、魔女っ子もの好きな母さんらしい去り方ね」

「まったくだね」

「そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ」


 悠紀とルナが冗談めかして言ったが、蒼依だけは違った。


「いまの母さんとの会話、あたしにはほとんど要領を得なかったのだけど。結局のところ、トキが璃那姉さんを振った本当の理由は、子供のころのトキの疾患にある。っていうことなの?」

「え?」

「ああ。そういうことだ」


 反応したルナを意識的に無視して、俺は蒼依の的を射た問いかけを肯定した。


「子供のころ、俺は先天性のある疾患のため、親元を離れ、独りで入院生活を送っていた。その疾患名は、漏斗胸(ろうときょう)


「胸骨や肋骨が漏斗状に陥凹(かんおう)してしまう、いわゆる形成不全疾患よね。トキの場合は日常的な猫背がたたって、陥凹具合いがひどくなってしまったのよね。ちなみに漏斗というのは、理科の実験で薬品をビーカーに移すときに使う道具のこと」

「ああ」

 《 それなら、俺様もミヤコから聞いて知ってるぞ。》

「でも手術は成功して、肋骨は普通通りになったんじゃなかった?」

「俺もそう思っていたんです。でもそうじゃなかった」

「どういうこと?」

「漏斗胸の手術って、凹んだ肋骨を翻転(ほんてん)させるっていう大して難しくない手術なんでしょう?」

「その辺は症例にも寄りますが俺の場合はそうでした。いや、そのはずでした」

「そのはずだったって?」

「なかったんだよ。(ひるがえ)すべき部分の肋骨が」

 《 「「「!」」」 》


 やはり、ここまで言えばみんな気づいたようだ。当然だな。



 ーー(いにしえ)の時代。肋骨の一部が欠けた人間は、神かそれに近い存在として(あが)められていた。

 彼らは皆、例外なく、人智を超えた力を有していた。

 欠けた部分は男女によって異なり、女性は右脇腹の肋骨の一部が、男性は心臓部の肋骨の一部が、それぞれ欠けていた。

 その影響か、男性は成長とともに心臓の肥大化が進むために長い寿命を持てず。

 もって、二十五歳が限界だった。ーー



 欠けた肋骨。

 この場には、この言い伝えの【肋骨の一部が欠けた人間 】がツキビトとその子孫のことを指していることを知らない者は誰もいない。

 なにせ皆、月の都の一族の子孫か、それに関わる者なのだから。


「そんな……でも兎季矢くんは……」

「ええ。当初は俺も、ツキビトと恋に落ちた地球人の子孫なんだと信じて疑ってませんでした。けど、それは間違いだったんですよ」

「そんな……」


 すなわち――


「本当は俺も、月の都の一族の子孫なんだ」

「じゃあトキくんは……」

「あと何年かしたら心臓の肥大化が限界に達して」

「この世から、いなくなっちゃうっていうの?」

 《 マジかよ…… 》

「冗談でこんなこと言うか。――だけどこれでわかったろ? 俺と一緒になったところで、すぐそこに不幸が待っているんだ。あのまま別れていた方が、ルナ――じゃない、璃那には幸せだったんだよ」

「…………」


 とうとう打ち明けた本当の理由によって、この場はまたしても重い沈黙で満たされる――と、思っていたのに。


「…………呆れた」


 蒼依のこの一言で、沈黙はすぐさま破られた。


「――え?」


 次の瞬間には景色が変わり天地が逆転し、背中に強い衝撃を受けた。



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