幕間 ~ 雲隠れ、そしてふたたび月明かり ~
《 なぜかは知らんが、お前らが話始めるとリナはその場から距離をとって、しばらく黙ってたんだよ 》
ほんの一瞬で居場所が移って相当混乱したのか、アルテは訊いてもいないのに、俺が蒼依たちと話していた間に璃那が何をしていたのかを勝手に説明してくれた。しかしなるほど、それでしばらく璃那やアルテが割り込んで来なかったのか。
《 なのにいきなり『ちょっとごめんよ、アルテ』って言われて何かと思ったら――一体なにがどうなったんだ? 》
「見ての通りだ。璃那が〝モメトラ〟を使ったんだよ」
そうして自分と俺の位置を入れ替えて、同時に、アルテを鳥かごの中に転移させた。
「――というわけだ」
《 てことは何か? いまの一瞬でリナは、三か所の転移をいっぺんにやってのけたのか? 》
「そういうことだな」
《 スゲーな、お前ら 》
「お前ら? 俺もか?」
《 そりゃそうだろう。〝モメトラ〟で三つのことをいっぺんにやってのけたリナもスゲーが、鳥かごの中に移った俺様が浮いたままでいるのはお前のチカラのおかげだろ? こんな真似は、予め転移先を察知出来てなきゃ無理だろうよ 》
「……ふむ」
確かにその通りだが、別にどうってことはない。それはつまり、アルテには俺がどうやって転移先を察知したかわからなかったということか。
「てことは、お前には見えなかったんだな」
《 見えなかった? 何がだ? 》
「璃那の〝モメトラ〟の特徴が」
《 待て。お前は一体なんの話をしている? 》
「わからないなら、今は気にするな。後で話す」
《 さっぱりわからんが……わかった 》
アルテはまるで話の要領を得られず納得いってないようだったが、それでも、真面目な顔をして三姉妹を見つめていた俺に何かしら感じ取ったのか、真顔で同意してくれた。
ここから先は、俺とアルテが転移させられたのと同時刻の話なので、【後から聞いた話】ということになるのだが。俺とアルテを蚊帳の外へやっている間、三姉妹は、こんな話をしていた。
「もう慌てたよ。てっきり再会の挨拶だけかと思って、しばらく黙って蚊帳の外にいたら、話がどんどんレールからそれていっちゃうんだもの」と、璃那。
「ごめんなさい」
たぶん、自分を叱る相手が璃那だったからだろう。蒼依が素直に謝ったのに対して、
「だって蒼依ちゃんがぁ~」
悠紀は半分泣き顔で、言い訳をしようとした。どっちがコドモでオトナかわかりゃしない。
「うん、そうだね。蒼依はいましなくてもいい話をわざわざ蒸し返して、この場の空気を険悪にしようとしたよね。でもそれはわざとだから」
「わざと?」
まるで母親が子供を諭すような妹の言葉に、現在二十六歳のコドモなオトナは半泣きをやめて目をぱちくりさせた。
「ええ。わたしを蚊帳の外から引っ張り込むためにね」
「そうだったの?」
「そうだよね、蒼依?」
「……まあ、そうだけど」
疑問と確信の視線を向ける二人の姉から注目を浴びた蒼依は、それらから逃げるように顔を背け、呟くように答えた。
「ほらね?」
「なぁんだ」
片目を瞬かせて微笑む璃那と、誤解が解けて晴れやかに笑う悠紀。一方の蒼依は歯噛みして、誰にともなく忌々(いまいま)しげにぼやいたんだそうだ。
後日、俺に向かってそうしたように。
「ルナ姉さんだって、悠姉が鈍いフリをしてるのはわかってるくせに。なのにわざわざ本音をばらすなんて、完全に意地悪だわ」
そうして。璃那がこの日何度目かの〝モメトラ〟で俺たちを呼び寄せると。
「じゃあ、本題に入ろうか」
悠紀が高らかに宣言するように、告げた。
口火を切ったのは悠紀の問いと俺の返答だった。
「まず兎季矢くんに確認。昨夜の電話で言ってたこと、本当なの?」
「はい、嘘でも冗談でもありません。お陰さまで、二年前に失った記憶は完全に取り戻しました」