勇者のお供は最強の○○
俺は小さい頃から王を支えるために親は勿論、騎士や大臣、メイドに執事からも教育を受けてきた。
その結果、俺は国で1番強く、賢くなったと言っていいだろう。
そこには確固たる自信とプライドがある。
なのに!
なのに俺は!
鍛錬の「た」の字も知らぬような少女にプライドをズタボロにされている!
「ふぅ、これで最後だね!フリート!」
俺の名を呼ぶ少女の足元には大量の魔物の死骸。まぁ、俺も同じ状況だが。
いくら力が制限されているからといって、こんな少女と同程度の数しか、魔物を倒せないなんてプライドが傷つく。
「フリージア様、まだ息の根が残っています。相変わらずツメが甘いですね」
俺は少女の足元にいた死にかけの魔物の頭を剣で突き刺した。
こんな風にツメが甘いやつ相手に、同程度の数か。やめよう、嫌になってくる。
「むぅ、放っておいてもその内死んでたよ!
フリートは慎重過ぎ、それとも臆病なの?そ・れ・と!私に敬語はいらないよ!
名前もリーアかリアで呼んでって、いつも言ってるでしょ!」
頰を膨らませ、迫ってくる少女、フリージア。
「善処します」
「じゃあ報告に行くよ!」
言いたい事だけ言い終わると先程までの表情が嘘のように笑顔となり、魔物の死体をアイテムボックスという魔法に収納し歩き始めた。
…全く、嵐のような少女だ。
これが神の寵児、【勇者】というのだから不思議だ。神はどういった意図でこんな少女を勇者にしたのだろう。
そして、王は何故、俺をこんな少女の監視役兼護衛にしたんだ。こんな危険なやつ、守らず今の内に殺してしまえば国にとっても利益があるのに。
まあ、長期的にモノを考える事に対しては他の追随を許さぬ王のことだ。
俺や大臣達の反対を押し切る程に価値があることのはずだ。
そうやって自己暗示をかけて、俺は勇者フリージアの供として旅をしている。
フリージアの旅の目的は世界平和。
なんとも頭が痛くなる理想をお持ちだ。
流石、勇者。今まで苦労をしてこなかったから、そして輝かしい場所しか見ていないからそんな事が言えるんだ。
まあ、そんな考えは嫌いじゃないけどな。
○●○●○
俺とフリージアは偶々立ち寄った村で魔物討伐の依頼を受けて、先程大量の魔物を虐殺した。
その報告をするために村長宅まで来たのでドアベルを押そうとしたのだが…
「村長さーん!魔物の群れを退治してきましたー!」
「っ、うるさいな」
フリージアが大声を出しやがった。
何のためのドアベルだよ全く。
村長も声に驚き飛び出てきた。
「おぉ、流石は勇者様だ!このような僅かな時間で我々が長年頭を悩ましていた問題を解決してくださるとは!」
村の依頼は単純で近くの森から来る魔物の量が多く、作物や人的な被害が絶えないから害がある魔物を退治してくれというものだった。
「とりあえず依頼通り森の中にいた好戦的な魔物は全滅させたが、スライムなどの温厚で森を豊かにするものは残してあるから安心してくれ。それと分かっているだろうが、魔物は稀に自然発生するから警戒は怠るなよ」
「はい!肝に命じておきます!剣聖フリート様もありがとうございました!
それで報酬なんですが」
先程まで元気だった村長が少し下を向いた。
まあ、村の様子からして相場の報酬を出せないから、そのためだろう。
「村長さん!」
と、ここでフリージアが村長に近づいた。
「最初に言ったように報酬は退治した魔物の素材全て…既に受け取っています!
なので追加報酬なんていりませんよ!」
「いえ!ですが!」
そもそも魔物の素材などは、退治した者が所有権を持つため報酬なんかにはならない。
だから、村長は後ろめたさから報酬を出したいのだろう。
まあ、それは建前で本当の理由は、どこかから報酬を受け取られなかったという噂が流れるのを危惧してるからだ。
勇者に救ってもらっておいて、報酬も満足に出せない村。そんな話が出てしまえば行商が減ったりと色々デメリットが大きい。
だから譲れないのだが…
フリージアは頑固だ。
互いに譲らないだろう。
はあっ。
心の中で溜息を吐き少しイラつきながら、今も言い争っている2人の間に入る。
「報酬は食用の魔物の解体と、それを使った料理を提供してくれ。結構、数が多いから村人全員を呼んで作業をしてくれ」
「なっ!」
「…はい!畏まりました!直ぐに村人を集めるので少々お待ち下さい!」
俺の言葉に対し、フリージアは驚愕、そして怒りの表情を浮かべた。
村長は一瞬驚いて固まり少し悩んだ後、返事をして走っていった。
結構、歳なんだから走らなくてもいいのに。
「フリートどういうことなの?」
「そんなに怒らないでください。
可愛い顔が台無しですよ?」
「か、可愛いって…って!そんな世辞に騙されないわよ!」
別に世辞でも何でもない事実だけどな。
まあ、フリージアは勇者だから美しいや凛々しいとかは言われ続けてきて見た目や年相応の可愛いなんて評価は全くなかったから耐性がないのだろう。
その可愛らしい顔を怒りで頰を染めながらフリージアは続けた。
「大体この村の状況みたら分かるでしょ?
半日でも仕事を放置したら食べるものに困るような人が出てくるわよ!」
「だからですよ。幸いにも森の中にいた魔物達の大半は食用のものでしたよね?」
小さい子に諭すように俺は建前の理由を語り始めるとフリージアは小さく頷いた。
「そして魔物の数は相当のものでしたね?
この村の人口を軽く越すほどに…
あの数の魔物を2人では食べ切れません。
さて、どうしましょうか?」
「…あっ!」
俺の意図に気付いたようだが続ける。
「それと、調理後に残った部位は何かに使えるかもしれませんが必要ありますか?
ありませんよね?処分はどうします?」
「フリート!流石、私の相棒ね!
よーし!じゃあ私達も手伝うわよ!」
それじゃ、報酬にならないだろうが。
「いえ、駄目です。調理した魔物を調理した者に配分する予定なので、少しでも村人に多く分けられるように見守りましょう」
「確かにそうね!」
詭弁だが、フリージアはこれで納得してくれたようでアイテムボックスから魔物を取り出した。
その後、村人総出で魔物の解体と調理が行われ、宴会が行われた。
○●○●○
宴会が終わり、俺以外のフリージア含めた村にいる全員が寝静まった頃、そいつは現れた。
「げひひっアイテムボックスなんて魔法を使われた時は困ったが、結果的に好都合!
これなら村人もアンデットに変えて勇者を殺せる!げひひひっ!」
そいつ…全身骨だらけの見た目と魔力からして多分リッチだな…リッチは村の中心で汚い笑いを浮かべていた。
リッチの存在については魔物討伐中に気付いていた。
大方こいつは魔物を操り勇者を襲わせ、討伐後の気が抜けた時にでもリッチ特有の魔法で死体をアンデット化して襲わせようとしたのだろう。
ただ、それはアイテムボックスによって封じられたことで遠巻きに俺達の様子を伺っていた。
それでこいつのじっとりとした視線にイラついた俺は村を救う建前に魔物の死体を村中に分け、リッチをおびき出したわけだ。
と、そろそろ動き始めるな。
「さて!始めよグベガッ!?」
リッチが手にしていた杖を振り上げた瞬間、俺はそいつの顔を右手で掴みながら村の外の森へ飛び出し、そいつから手を離した。
「何者だ!貴さブベラッ!?」
俺が手を離すと同時に叫び出したので蹴りを喰らわすとリッチは簡単に吹っ飛んだ。
「き、貴様!人間の分際でこの魔族様に逆らって済むと思うなよ!?」
「んっ?魔族様だって?
ははっ…お前こそ下等な魔物のくせに魔族様の名を騙ってるんじゃねえ!」
俺は怒りのままヤツの喉を掴んで地面に叩きつける。
「グギャッ!?」
「いいか?魔族様っていうのはな。
顔に邪神様の紋様が刻まれてるんだよ。
こんな風にな!」
俺はそう言いながら人化を解いた。
バキッゴキッグギギッ!
身体中から骨が軋む音が漏れだす。
やっぱ、人化と解除は気持ち悪い
「くくっ仮にも魔族様の名を騙ったんだ。
簡単に死んでくれるなよ?」
軽く甚振るつもりで腕を振るう。
「アガァああああああ!?」
「えぇ、一撃で消滅とか脆すぎるでしょ」
腕をふるっただけでリッチは消滅してしまった。
リッチは魔物の中でも上位にくる強さだから期待したのに…
「せっかく人化を解いたのにストレス発散どころかストレスが溜まってしまった。はぁっ人化して戻るか」
バキッゴキッグギギッ!
俺は再び骨を鳴らしながら人化して村へ戻った。
勇者の護衛兼監視という王の命令を完遂するために…
○●○●○
これは人間最強の勇者フリージアのお供である最強の魔族フリート、2人の物語。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。あらすじにもあるように、評価とか反応があれば連載版を投稿するかもしれないです。