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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界百合小説[短編集]

乙女ゲームの世界に転生したけど私は百合好き。

作者: 彩音

 最近流行りの女子高生だったり、オフィスレディだったり、社畜だったりな女性が交通事故に遭って乙女ゲームの世界に異世界転生する物語。

 そんなファンタジーな出来事がまさか自分に起こるだなんて思いもしなかった。

 私、相沢若葉。18歳の大学1年生は大学から自宅への帰宅途中、横断歩道を渡っている最中に信号無視のタクシーに撥ねられて即死。

 そんな私は乙女ゲーム「恋の魔法☆星々の瞬き」の世界に転生した。


 私がそれに気づいたのはゲーム開始時と同じ白星学園への入学時だった。

 入学式会場の体育館に足を踏み入れた瞬間、妙な既視感を覚えると同時に前世の記憶が溢れるように蘇ってきて、それで気付いた。ここが乙女ゲームの世界だってことに。

「恋の魔法☆星々の瞬き」は白星学園が舞台となっており、入学から卒業までの間に正ヒロインこと男爵家の一人娘である星乃明日香が第一皇子との身分違いの恋、幼馴染との純愛、先生との背徳的な恋、騎士の卵とのありふれた恋、侯爵家跡継ぎとのヤンデレ気味な恋。

 いずれかの恋を最終的に成就させることが物語の目的となっている。

 勿論、やりようによっては逆ハーなんてのも可能。

 近頃の物語では正ヒロインに転生した女性がその逆ハーを目指して悪役令嬢に転生した女性にギャフンと言わされるまでがテンプレ。

 しかしそれは正ヒロインに転生した女性の性格が悪いからこそ成り立つことで、自分で言うのもなんだけど、私のように特別良くも悪くもない性格の女性がその正ヒロインに転生した場合はそんなテンプレは成り立たない。

 ならこの場合は私の立ち回り次第でゲーム通りに事が進んで攻略キャラと恋を実らせる物語となるのだろう。



 そう......。私が三度のご飯よりも百合が好きという女性じゃなければ!!



 神様はなんてことをしてくれたんだろう。

 転生するなら百合ゲームの世界が良かった!!!

 なんで乙女ゲーム!? 考えられるとしたら、多分事故に遭ったその日に友達に勧められたスマホアプリ「恋の魔法☆星々の瞬き」を無理矢理ダウンロードされてプレイさせられていたからかな。

 神様は交通事故に遭った私を憐れんで私が好きなんだろうと思われる「乙女ゲーム」のこの世界に転生させてくれたんだろうけど勘違いもいいところです。私乙女ゲーム好きじゃなのに。付き合いの一環でやってただけなのに。

 男性は好きじゃない。正確には好きとか嫌いとか以前にまったく興味が持てない。

 例えるなら花に全然興味がない人に花の名前とその美しさを説いても結局はどの花も同じに見えるのと同じ。

 イケメンとかフツメンとか言われても私にとって男性は霊長類・人科。男性種でしかない。格好いいとか全然思えない。

 そんなだから嘆息しながらやってたのになぁ。神様にはちゃんと見てて欲しかった。

 神様、転生させてくれたことには感謝しますけど、私貴女を少し恨んでもいますよ!!


 こうして私は「恋の魔法☆星々の瞬き」の世界に足を踏み入れた。

 最初の1日は悲観に暮れていたものだけど、2日目にはせっかく異世界に転生・学園に入学したのなら楽しまないと損だと思い直し、もし攻略キャラとフラグが立つようならへし折ればいいと開き直った。

 そして月日が経つにつれ実際にいろいろやった。

 予め言っておくと私はこのゲームのことを殆ど知らない。

 内容なんて以ての外。だから何がフラグになるのか分からないし、どの言動が選択肢に結び付くのかも知らない。

 そんな中でのフラグ回避。どうやったかっていうと、これは多分フラグだろうなぁと思った時に攻略キャラが嫌いそうな行動をしただけ。

 例えば生徒会に入るよう勧められたときに「嫌です」とにべもなく拒否したり、例えば学園の行事の球技大会で重たいものを運ぶことになった時には重たいものは全部攻略キャラに任せて私は軽いものだけを運んでみたり、例えば食事を奢ってもらえることになった時にまるで遠慮なしにその店で一番高いものを頼んでみたり、遠回しに告白らしきものをされた時にこちらは堂々と相手に興味がないことを分からせる発言をしてみたりなど。

 その甲斐あって正しく攻略キャラ達とのフラグは順調にバッキバキに折れていっていた。


 その一方で「恋の魔法☆星々の瞬き」ではモブキャラでしかなかった女の子達との好感度を上昇させようと私は奮闘した。

 この世界は剣と魔法のファンタジーな世界。

と言っても異世界転生物によくある中世的な世界ではなく、中世と平成の世の近代日本が混ざったような感じの世界。

 街並みは地球ベネツィアを連想させる感じの中世後期っぽい建物が並んでいる。

 生活は科学の代わりに魔法が発達しててある意味日本より優れたところもあるけど逆に微妙なところもまだまだある。特に食文化は日本には追い付いてない。主食のパン硬いんだ。後お米食べたい。

 話がそれたけど、正ヒロインの私は生まれつき魔力が普通の人より多く魔法操作と感知に長けている。

 ゲーム上でもこの現実でもそれは同じで本来は有力貴族しか通えない白星学園に下級貴族の私が通えているのもそれが理由。

 それを学園の授業の一環として取り入れられている魔法対魔法の大戦模擬試合で巧みに操って先生達や男子生徒に勝利して格好いいところを彼女達に見せてみたり、何かで怪我などして傷ついた子達に回復魔法を使用するなどして優しくしたり、この世界と前世で身に着けた作法を時と場所と場合によって使い分けることで私と言う人物を優雅で気品漂う人物に見せる努力をしてみたり、兎に角女生徒には笑顔を絶やさなかったり、悩み事を親身になって聞いてあげたり。


 無いのなら作ってしまえ百合ゲームの精神。百合好き舐めんな!!


 頑張ったおかげで数ヶ月後には攻略キャラ含む男性陣そっちのけ。

 身分差も越えて女性陣に慕われる私が爆誕した。やったね!

 でも「白星の聖女」とか「麗しの君」とか称号も付いた。恥ずかしい。本当にお嬢様ってそういうの好きなんだなぁって実感した...。


 さて、正ヒロインの私はこんな調子。

 恐らく攻略キャラの誰とも上手くいっていないから正ヒロインのライバルである悪役令嬢こと美月アイリスは何の障害もなく順調にゲームの攻略キャラでもあり、彼女の婚約者でもある第一皇子と愛をはぐくんでいるのだろうなぁと思っていたのだけど...。

 その噂が私の耳に入ってきたのはつい最近だった。

 有力貴族が参加する社交会での場。第一皇子と結ばれようとしているアイリスを他でもないその第一皇子が突然糾弾したという。

 理由はアイリスがとある伯爵令嬢を階段から突き落としたり、あることないことを学園内で言いふらして名誉を貶めているという内容のもの。

 それを聞いた時は第一皇子に呆れてしまった。

 少し考えればアイリスがそんなことをする意味がないことくらい分かる筈なのに。

 だってアイリスは公爵令嬢。たかが伯爵令嬢くらい自ら手を汚さなくても他に幾らでも彼女の名誉を貶める方法はある。

 この国の行く末が少し心配になった。

 アイリスは絶対犯人じゃない。だけど彼女は全部それを肯定したらしい。

 そのせいで婚約破棄。一時社交会の会場は騒然となったという。

 私は友達になった子がそう話している間、アイリスがその伯爵令嬢から弱みか何か握られているのかなとそう感じた。

 しかし実際はどうも違うらしい。

 その子が見たところによるとアイリスは第一皇子から婚約破棄を告げられ、更に父親から不名誉なことをした罰として卒業後には縁切りの上で国外追放と言い渡されている間笑っていたのだという。しかも小さくガッツポーズまでしていたとか。

 訳が分からなかった。

 明らかにアイリスの評判は地に落ちた筈だ。なのに笑顔? どうしてなんだろう。


 私は友達がまだ話を続けているのを上の空で聴きつつ考えた。

 もしかしてアイリスは私と同じ転生者で百合好き、或いは腐女子で恋愛は自分がするより外から見ていたいタイプなのかな?


 放課後、私は噂の主であるアイリスに呼び出された。

 黄昏時の学園の中庭。そこには桜の大木が植えられており、その木の下で告白をした者は必ず相手と恋人になれるという伝説の場所。

 最も、私はここで攻略キャラの一人をフっていることから私にとってはすでに都市伝説の場所と化しているけれど。


「急に呼び出してごめんなさい」

「いいえ、気になさらないでください。美月様」

「まぁ。わたくしの名前を知ってくださってるのね」

「常に学年首席の成績を残していらっしゃる方なんですもの。この学園で美月さんの名前を知らない方はいませんわ。それでなくても王族に最も近い公爵家の方ですし...」


 魔法学以外は。


「でも魔法学では貴女に一度も勝てたことがありませんわ。生まれつきのものとはいえ貴女は凄いですわね。星乃さん」

「美月さんにお褒めいただけるなんて嬉しいですわ。あの、それで...私にご用と言うのはどのようなことでしょうか?」

「そうね。あの............」

「はい」

「・・・・・」

「・・・・・」


 アイリスは口を開こうとしては閉じる。

 私達の間を通り過ぎていく涼やかな風。

 アイリスの腰まである艶やかなプラチナブロンドの髪がそれで軽く棚引く。


 ゲーム内では見たことあるけど現実では初めて。

 整った顔立ち、角度によってあどけなくも凛々しくも見える。

 海の様な青の双眸が美しい、透き通った白い肌も。

 私のただの童顔、栗色の瞳と肩までの髪とはまるで次元が違う。

 胸の膨らみは互いに大きくもなく、小さくもなくだけどくびれは私よりアイリスのほうがくびれている。

 お尻の大きさだって。


 アイリスを見ているとこのゲームを開発した人間はバカなんじゃないだろうかと思えてくる。

 正ヒロインよりも圧倒的に敵役のアイリスのほうが女性らしい女性で可愛らしくも美しい。

 そんなアイリスより正ヒロインを選ぶ攻略キャラ達もバカだ。まるで何も分かっちゃいない。


「星乃さん?」

「あっ! ごめんなさい」


 ついついアイリスに見惚れて呆けてしまっていた。


「わたくし...」


 こちらを照らす夕日のせい? アイリスの頬が紅い。


「・・・・・」

「.........?」


 一歩、又一歩。アイリスが私に近づいて来る。


「わたくし、貴女のこと...」

「もしかして私が転生者だってバレたのでしょうか?」

「...? テンセイシャ?」


 アイリスが"こてん"と首を傾げる。可愛い。何それ可愛い。転生者の話かと思ったのに違うんだ。ああ...可愛い。


「星乃さん」


 ついにアイリスが私の目の前。近い近い。顔がすぐそこにある――――。


 私の首に両手を回すアイリス。

 顔が近づいてきて彼女の唇が私の唇に重ねられる。


「!!!!」


 すぐに離れるアイリス。

 何が起こったのか理解できず茫然とする私。

 数秒してキスされたことが分かり、私はそっと自分の唇に自分の右手中指を這わせる。


 ファーストキスだった。柔らかかった。なんで? どういうこと?


 アイリスを見る。


「わたくし、貴女のことが...好きです。恋人になってくださいませんか...」


 アイリスの右手が私に差し出される。

 夕日にも負けない真っ赤な頬。瞳は潤んでいて、私に差し出された右手は僅かに震えている。


 きっと勇気を振り絞って告白してくれたのだろう。

 私はアイリスのことは正直何も知らないと言っていい。

 ゲーム上の設定だってろくに知らないのだから、現実のアイリスのことなんて尚更のこと知らない。

それでも...。


「はい。喜んでお受けいたします。アイリス様」

「....! ああ、夢ではないかしら。ありがとう、星乃さん」

「そんな。私こそありがとうございます。アイリス様」

「アイリスと呼んでくださらないかしら?」

「はい。では私も明日香と呼んでくださいますか?」

「分かったわ。明日香」

「アイリス」


 お互いの首に手を回す。

 知らないことはこれから知っていけばいい。


 夕日に照らされて伸びた私達の影。

 二つの影はゆっくりと近づき、やがて重なりあった。


 学園の卒業後。

 貴族である身分の剥奪の上、予定通り国外追放となったアイリス。

 私はアイリスについていき、ここである意味お約束とも言える転生者のチート能力を活用し始めた。

 最初からやれって? 変な感じにあまり目立ちたくなかったんだよ。

 でもアイリスとのこれからの生活の為、ここに来て使うことにした。

 実は国外追放となる前日にアイリスのご両親。つまり公爵家から数ヶ月は何もしなくても暮らせるだけのお金をこっそりと持たされてはいたのだけど、それはもっと未来の為に取っておくことを二人で決めた。

 前世で大学生だった頃は将来は女性が心からくつろげるカフェを開く夢を持っていた為に食物学を学んでいたのでその知識を活かしてみた。

 カカオ豆からチョコレートを作る方法、黒糖が主だった世界に白糖を作る技術の齎し。

 プリンやケーキの作り方、日本の家庭料理をアレンジした貴族向けメニューなど。

 それを追放先の国の王城城下街の店で売り込んでお金を得て私とアイリスは店舗と住居が一体となった小さいながらも居心地の良い建物を購入した。

 そこでこの世界初の柔らかいパンを目玉商品として他に僅かばかりクッキーなどの甘味を販売。

 そうしたら瞬く間に私達の店は評判が評判を呼んで大繁盛。出店は大成功した。


 忙しく店内を動き回るアイリスを見て私は思う。

 箱入りの貴族令嬢らしく最初の頃は何をやらせても正直足手纏いだった。

 それが余程悔しかったのか。1ヶ月の間に私と共に訓練して今ではもう立派な店員。


「アイリス」

「なぁに? 明日香」


 話し方も砕けた感じになった。

 昼時のお客さんによるパン争奪戦戦争を終えてほんの一時のお客さんの途切れ。

 私はアイリスに微笑む。アイリスも私に微笑み返してくれて私は彼女に顔を近づけていく。

 目を閉じるアイリス。キスをしたところでタイミング悪くお客さんが店内に入ってきて...。

 私達の店は別の意味の甘味処としても評判となる――――。


◆◆◆

 「恋の魔法☆星々の瞬き」の攻略キャラたちは第一皇子は伯爵令嬢と結ばれるが後に彼の性格の悪さに辟易した令嬢が破談を申し込み、彼は一人となったという。

 尚、頭の悪さも災いして王は彼に王位を継がせることはなく第二皇子にその後を継がせた。

 この後第一皇子は歴史の表舞台から姿を消す。

 暗殺されたとも監禁されたとも平民に落とされたとも言われているが真相は定かになっていない。


 他のキャラ達は生涯誰とも結ばれることはなく寂しく暮らすことになったとか。

 その原因はとある一人の女性にあると言われているがこれもまた理由は謎のままである。

 ただくだらない価値観、刷り込みから解放されたの。と女性達は話している。


END.

コメントのほうで一部説明書きが足りないというものをいただきましたので訂正いたしました。

最初の投稿(2018/11/15現在)と少し変化(2018/11/16現在)しているところがございます。

この度はご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。

深く反省しています...。

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