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1-4 衝撃の午後

 副担任の松村先生が教壇に立ち説明を始めた。若い美人の先生で男子からも女子からも人気がある。髪をロングストレートで綺麗に流しているので、真似して伸ばしている女子もいた。


「はいはい、みんな静まって頂戴」

 パンパンと手を叩き、生徒を静まらせる。


 明るくリーダーシップも撮っていくタイプなので、こういう時にはいい雰囲気を作ってくれる。さっきの騒ぎでも生徒達をしっかり誘導していたのを見た。奥の教室へ一年の生徒を誘導していたので、一緒にはいなかったのだ。


「えー、先ほど大川先生から連絡がありまして、岡田先生は命に別状は無いそうです。ただ、色々検査もあり、また未知の病原菌の可能性もありますので隔離されますからお見舞いは遠慮するようにとの事です」


「そうかあ、岡田先生には凄く御世話になったから見舞いに行こうと思っていたんだけどな」

「ああ、俺も身代わりに噛まれてもらった手前、見舞いくらいは行きたかったな」


「はいはい、そこ。またお見舞いの許可が出たら行きましょうね。そうでないと大川先生の二の舞になるから」


 俺達が奇妙な顔をしたのを見て、松村先生も溜め息をついて説明してくれた。

「大川先生も隔離が決定しました。まあ検査結果が出るまでの話なのですが」


 こんな時ではあるが、あまりにツボに入ったので教室を爆笑が渦巻いた。


「ひでえな。ただの付き添いだったのによ」

「いや、でもここに運び込まれたんだから、担任の大川が行かないわけにはいかないよね~」


「松村先生、臨時担任に昇格だね!」

 生徒達に冷やかされた松村女史は呆れたような顔で、そいつらを睨みつけた。


「あなた方、他人事じゃあないのよ? 午後からの検査結果次第では私達も、このまま学校に隔離されるかもしれないんですから」


「「えーー!」」

 予想外の出来事に教室がどよめいた


「マジで!?」

「マジです。ただ、あくまで検査結果次第ですから。あの小鬼に噛まれた人はいませんね?」


 俺と光一は顔を見合わせたが、お互いに無事は確認されている。ただ、光一はあいつらの血を浴びてしまっているかもしれない。手当てをしていて岡田先生の血に触れた生徒はたくさんいる。ゴム手袋なんて無かったし。


「先生、子鬼とか岡田先生の血を浴びてしまった場合はどうなんですか」

それを聞いてみたが、松村先生も首を振った。


「それは私にもわからないわ。とりあえず、検査を待ってちょうだい」


 それから検査が始まるのを教室で待っていたが、校内放送で体育館に集まるように言われ、体育館シューズと筆記用具を持って全校生徒がだらだらと集まった。


 今から多分採血を含むだろう検査があるのだ。足取りが軽い奴なんていやあしない。さすがに逃げるのは許されないだろう。


 逃げて、後からヤバイ病気の保菌者だったなんて事になったら、へたをすると新聞沙汰になってえらい事になってしまう。全員渋々と採血針の待つ刑場へと引っ立てられていった。


「はーい、各クラス別に先生の指示に従って並んでくださーい」

 そして、保健所の人らしき白衣を来たおばさんが問診用紙を配っていた。それにはクラスと氏名を記入するようになっていた。


「何々、小鬼に噛まれた方・小鬼の血を浴びた方・小鬼と至近距離で遭遇した方・小鬼に噛まれた方の血に触れた方。おまけに本日どこかに外傷がありましたか、だと? ヤベエ、2つも該当しているわ」


「まだいいじゃないか。俺なんか3つだぜ。ちょっとだけど小鬼の返り血を浴びちゃったんだよなあ。先生が庇ってくれなかったら、噛まれていて該当箇所がもう一つ増えていたところだ」


 ボヤく光一。まあ無理も無いけどさ。二人共傷は負っていなかったので、そういうところから病原菌にやられてはいないようだ。岡田先生の具合から見て、そうだったら今頃こうして無事にはいられないはずだ。


「よっ、勇者の勲章だな、光一。でも咬まれてたら岡田先生と一緒に病院行きで、そのまま仲良く隔離されていたね」


 光一は僕の指摘にありがたくなさそうに顔を顰めた。そうこうするうちに、あっという間に順番が来てズンズンと検査が進んでいた。


 近隣の医者も借り出されてきたようで何十人もの白衣の人が検査を実施していた。はあっ、これは絶対に果帆の奴も溜め息物だな。


 目を覗かれ、口の中を見られて粘膜を採取された。そして、やっぱり採血されてしまった。幸い僕の担当の人はベテランで上手な人だったが、隣の列は夥しい悲鳴が上がっていた。危ない、危ない。日常の中にこそ危機は潜んでいるのだ!


 よくこんな短時間で問診表を作ったり、医者を掻き集めたりできたものだ。まるで時間との勝負だ、みたいな感じで。もしかしたら、本当に光一の言うように既に何件もこのような事例があって、政府が迅速な処置を取るように指示しているのかもしれなかった。


「ああ、いててて」

 光一が止血の絆創膏の張られた部分を揉んでいた。


「あんまり揉んじゃ駄目よ」

 早坂が笑って嗜めたが、光一はジト目で返事を返した。


「お前や真央はいいよな。いい人に当たったんだから。こっちは新米の看護士さんらしき人に当たったんだぜ。痛えったらありゃあしねえ。血管を捜すのに夢中で胸を押し当ててくれるなんて素敵イベントも特に無かったし。結構美人だったのが、せめてもの慰めだ」


「あっはっは。勇者光一も注射針には散々ねえ」

 美少女早坂にあっさり笑い飛ばされて、少し恨みがましい目で見る光一。そんなものは歯牙にもかけない早坂。さすが学年で三本指に入る美少女は貫禄充分だな。


「これでまた教室待機だな」

「ああ、どれくらいで結果が出るのかなあ」


「しかし、消毒くさい。なんか遠慮なく消毒されている感じだ」

「滅茶苦茶よね。机の中の教科書とかも消毒されてるっぽいわよ」


 俺達はわいわいと教室で騒いでいたが、いつもなら下校のチャイムが鳴る時間になって、ようやく松村先生が姿を現した。


 その顔が浮かないことから、碌でもない話が始まりそうだ。僕達の顔も自然に浮かないものになっていくのを抑えられない。


「皆さん、帰宅して結構です。帰り道には気をつけて。あと、何人かの生徒は隔離されることになりました」

 教室が再び雑多な喧騒にどよめいた。


「え、何人くらい?」

「誰が隔離されるの?」


 皆、別クラスの友人とかが気になるようだ。僕のように兄妹のいる子とかもいるのだ。


「全部で4名。全員、1年生の生徒です。それと、この件についてはあまり口外しないでください。重要な問題ですから、報道管制が敷かれているそうです。噂を聞いている人もいるかと思いますが、今回以前にもこういう事件はあったとの事です。必要になったら政府から発表があるでしょう。世の中には流言飛語を取り締まる法律もありますから、ネットでの書き込みも自粛してください。今回に関しては政府もマジです。実際に逮捕者も出ているようですから」


 一斉にざわめく教室。何か思ったよりも重大な事が始まっていたらしい。それより、全員が1年生? 果帆は小鬼と一緒にいたのだ、ちょっとマズイかもしれない。思わず光一と同時に顔を見合わせた。


 そして、松村先生が俺に素早く歩み寄って囁いた。いきなりの異性との距離感と大人の女性の香りにドキっとしたが、それも囁きの内容を理解するまでだった。


「妹さんが隔離されたわ。山岸君、君は残ってちょうだい」

 僕は、まるで脳天を鍛冶用のハンマーでぶん殴られたかのような衝撃に襲われた。果帆が!?


ダンジョンクライシス日本

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