表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/36

1-2 小鬼の秘密

「警察や他の先生の増援を待ちたいところだが、もう猶予が無い。山岸、妹を助けられるか? だが無茶はするなよ。俺が先頭に立ってこいつで牽制する。海堂、山岸の援護を頼む」


 本来なら先生も生徒にそんな事をさせたくはないのだろうが、ここは少々無謀でもやらないと女の子達が危ないのだ。


 先生も、もうとっくに血塗れだ。本来なら、こんな事をやっていていいわけがない。すぐ救急車を呼ばなくてはと思いながらも、そんな場合ではなかった。僕も今は果帆の事で頭がいっぱいだ。


「真央、お前は女の子達を引っ張って来い。奴らとやりあうのは俺に任せろ」


 光一もそう声をかけてくれる。こいつほど、この学校で僕のへたれ具合を知るものもいないだろう。僕は奴の忠告に大人しく従う事にした。


 蛮勇は勇気にあらず。そのくらいの知恵を学ぶ経験はこれまでの人生でかろうじて積んでいた僕だった。そして光一の頼れる性格もよく知っているのだから。


「わ、わかった。任せたぜ」

 それを見届けた岡田先生が号令をかけた。


「よし、いくぞ。お前ら、絶対に無茶するなよ。危なかったら構わず逃げろ。せえの!」


 今この世界(この場所限定)で最強の戦士、岡田先生は大きく一歩を踏み込んでモップの槍で血路を開いた。


 光一も踏み込み、先生に向かった小鬼を跳ね飛ばし、自分の前に立ち塞がった2匹を手首の返しだけで弾いた。


 軽い小鬼どもはそれだけで転がっていった。もっとも光一だからできるだけで僕には何年かかってもできない芸当だ。


 小鬼どもがまた先生に向かって行った。倒された子鬼も突きを食らった奴以外は起き上がり、それに加わった。


「うおおおお~」

 先生は吼えながら左手を盾にしながら、反対の手で無茶苦茶に槍を振り回す。


 先生には悪いけど奴らがそのパフォーマンスに惹かれている間に、僕は椅子を振り回しながら何とか妹の所にまで辿りついた。


「みんな、今のうちだ。早く!」

 僕は片手に椅子、片手で妹の手を引きながら走った。女の子達も必死に後をついてくる。


 そして、瞬時にこっちへ向かってきた小鬼の一匹へ目掛けて死に物狂いで椅子を投げつけた。


 当たりはしなかったが、避けるために子鬼が飛んで逃げたのでなんとか出口まで辿りついた。幸いにして二人の奮闘で3匹ほど子鬼が転がっていたので、何とか戻ってこられた。


 小鬼を倒したのは全て光一だ。それも鬼神の如くの気合で間合いのある得物を振るう先生の奮闘が大前提での殊勲だ。


 岡田先生が体を張って小鬼を止めたので、また一回咬まれていたのを目の端で捕らえたが、僕にはどうしようもない。


 半端に叩いたのでは埒が明かないので、光一も狙える時は突きを食らわせていた。先生に咬み付いた奴は、そこを狙って仕留めていた。もう既に囮役になってしまった勇者岡田。もはや噛ませ人か!


「真央、先に行け。俺達はここにいる奴だけでも倒して後から行くから」

 ここにいる奴だけだって?


 まだ他にもいるのか。まあそう考えるのが普通か。こいつら、一体どこから沸いてきやがったんだ。そして、光一の後姿に決意の色が滲んでいた。


「山岸、上へ行くんだ。他にも小鬼がたくさんいる。警察とかが応援に来るまで、何とか教室に立て篭もって持ちこたえるんだ」


 今もふらつきながらモップの槍を振るう先生から指示が飛んでくる。うわあ。マジで!? それで皆、上へと避難してきたのか~。


 その時、校舎の外から鋭いような軽いような音がした。あれは確か銃声ではないだろうか。どうやら、もう警察が来たらしい。少し心強い。もう猛獣使い、いや魔物使いの真似はしなくてもいいようだ。


「上に行くよ、3人共!」

 僕は妹と、へたりそうになっている子の手を掴んで教室を出て走った。


 もう一人の子は気丈に走ってついてくる。顔色はほぼ青いけど、言葉で誘導してついてこれるだけマシな状態だ。


「がんばれ、みんな! 階段を登ったらすぐの2Dの教室まで行くよ!」


 息を切らしながら僕は女の子達を励まし、階段を走って逃げた。3人共、怪我は無いようだ。あの先生のお陰だろう。


 階段から一番近い僕らの教室の中から様子を伺っている半白髪で眼鏡の先生がいた。うちの担任の大川先生だ。


 こういう事態で戦力として役に立つような人ではないが、どっしりとした落ち着きのある人なので、この人が指示を出してくれれば生徒は落ち着くだろう。今も慌てた様子は一切見られない。


「山岸、こっちだ」

 先生は素早く戸を閉めると、聞いてきた。


「下に岡田先生はいなかったか? 一人で残された生徒を救出に行ったんだが」


「いましたよ、それはもう血塗れの有様で。今も光一と一緒に小鬼と戦っています」

「なんだとっ」


 さすがの担任大川も少し慌てたようだ。多分あちこちで先生が生徒を引率して立て篭もっているんだろう。


 他の学年の生徒もいたので、自分の教室にばかりいられないようだ。うちの副担任の先生も今ここにはいない。


「救急車は呼んでありますか?」

「いや、まだだ。警察は呼んだが、はたして本気にしてくれるかどうか。校長が顔見知りである警察署長に直接電話してくれていたから、警察も来てくれるとは思うが」


 そこまで大事になっていたのか。まあ、それが堅いかな。普通は悪戯だと思うだろう。


 男子はモップや箒にバットなどで、無いよりはマシな武装をして顔を強張らせていた。ゲームの世界で無く本物の小鬼なんかと戦う破目になるかもしれないのだ。


 生憎ここにはゲームの中のような強力な武器はない。いや、あったとしても戦う覚悟がある奴なんて何人いるものか。


 女子は机を積んだ、これもまた無いよりマシなバリケードの向こう側、窓際の方に震えながら真っ青な顔色で固まっていた。


 大川担任が119番に電話をしてくれている間は僕が代わりに見張っていたが、すぐに光一が岡田先生に肩を貸しながら階段を上がってきた。


「おーい、こっちこっち!」

 僕は彼らが小鬼に追われているのではないかと警戒しつつ叫んだ。


 いざとなったら僕も突撃して援護してやらないといけないので、大急ぎで急造のモップの騎士からその聖槍を借りた。


 勇者岡田はもう青い顔でふらふらしながら覚束ない足取りだ。緊張の糸が切れたのだろうか。無理も無い。全身血塗れで凄惨な格好だもの。なんか、さっきよりもまた傷が増えている! 


「おい、ちょっとこれ頼む。何かあったら宜しく!」


 階段と教室の間にあるトイレの向こう側に小鬼が来ていないのを軽く確かめてから、隣にいた元モップの騎士に一声かけてモップを返し援護を頼み込むと、僕も助けに走った。


 彼は剣道部で光一の友人だが、生憎と騎士クラブの人間ではなかった!


「うわ、先生ったら大丈夫? 今、救急車を呼んでもらったからね!」


「ああ、あれから先生は俺を庇って奴らに咬まれたんだ。何かのヤバイ病原菌が入ったのかもしれない」

「岡田先生、大丈夫ですか!」


 だが無言の返答が全てを語っていた。大川先生が電話を終えて手助けをし、その後で見張りを代わってくれた。


 岡田先生は意識が朦朧としているようで、返事もまともにできない有様だった。僕達は先生を急遽学生服を集めて作った寝床に寝かせて服を脱がせながら聞いた。


「光一、下の方はどうなった? 警察の銃声らしき音が聞こえたけど」


「ああ、俺も聞いたよ。周辺は奴らでいっぱいだ。警官は予備の弾は持っていないから、すぐ弾が無くなったろう。基本は一丁で5発しかないからな。応援が弾持って駆けつけるまで時間がかかるよ。


 それまでは立て篭もりだ。まあ警察が来てくれたお陰で無事二階に上がってこれたけどな。それにあいつらには拳銃じゃ戦い辛い。チョロチョロするから簡単に当たりはしないし。生徒や周辺の住民に当たるのを懸念して警察も無闇に発砲できないだろう」


 なんて事だろう。多分、防具を着込んだ特殊部隊か何かが白兵戦をするのが一番なんだろうけど、奴らはすばしっこいのでそれもなんだ。防具が邪魔で隊員もうまく動けないだろう。


 僕達は先生の応急手当てを始めた。幸い医者の娘が一人いて、少し心得があるようで先生に指示されるまでもなく手当てを始めた。


 なんと、自分のロッカーに救急箱まで持っていた。しかも包帯多めの非常時体制だ。凄いな、この子は。


 傷はきちんと消毒できて出血の酷い部分は止血した。他にもスポーツ用のバンテージとか持っていた奴がいたので包帯は何とかなった。


 しかし、酷い有様だ。全身26か所くらいに傷があって、包帯もすでに血塗れだ。細かい傷は数え切れずで、みんなで提供した救急絆創膏でやっと何とかしたほどだ。


 消毒薬も丸々1本を使い切ってしまった。足りなければ、あとは保健室まで取りに行くしかないが、とりあえず今はこれでいいだろう。


「よかった、大きな血管はやっていないわね。でも傷と出血も酷いけどそれだけなら命に別状は無いわ。ただ、咬まれた傷が良くない感じね。未知の病原菌の可能性もあるから、早く病院に搬送しないと」


 彼女が筆頭となり女子生徒が何人かついて、かいがいしく汗を拭いて世話をしていたが、生憎な事に本人はその幸せな状況にまったく気がついていないだろう。


 特にその幸せを代わっては欲しくない気分だけれども。さすがに支払う対価が厳しすぎるよ。


「しかし、あの小鬼共、どこから沸いてきたんだ。何なんだ、ありゃあ」

 すると、この教室に避難していた青い顔をした1年の女子生徒が言った。


「私、見ていたわ。あの子が、あの1Aの留学生の子の中から小鬼が出てきたの。口から小鬼を吐いたのよ」


「はあ?」

 この子は何を言っているんだろう。それじゃ、まるで人間の中から、あの沢山の小鬼が出てきたみたいに聞こえるじゃないか。


 しかし、嘘を言っているようには見えない。その光景を思い出したものか彼女は青い顔で震えていた。


 それを聞いた光一は真面目な顔で考え込んでいる。


「そうか。今、ネットで噂になっている与太話は、もしかして本当なのかな」

「噂?」


「ああ、人間がある日突然に怪物を吐き出すようになるんだってさ。色んなパターンがあるぜ。


 浮浪者から頭が犬の怪物が湧いて出た話、プールの中で一つ目のでかいピラニアが沸きまくった話とか。もしかして、こういう事件があちこちで起きているのかもしれないな」


 周りの人もみんな顔を見合わせた。なん……だよ、それ。しかし、小鬼が現われたのは紛れもない現実なのだ。少なくとも、目の前で唸っている岡田先生の惨状は夢ではないのだから。


嬉しいですね。一応、ローファンタジーのランキングには載っていました。


ダンジョンクライシス日本

http://ncode.syosetu.com/n8186eb/

こちらも書いております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ