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1-1 妹のスカートの中

 僕、山岸真央は間抜けにも、今自分の妹のスカートの中に頭を突っ込んでいる。年齢一つ下である妹の果帆は顔を真っ赤にしてしまっていた。


 その両手で軽く膝上まであるスカートの裾を持ち上げて広げながら。何故こんな事になってしまったというのか。話は一週間前に遡る。


 その日、僕はいつものように妹の果帆と一緒に学校へ向かう途中だった。果帆は可愛いけど大人しそうな顔や性格をしているせいか高一になってもまだ彼氏はいない。未だにお兄ちゃんと一緒に学校へ通っている。


 髪は黒髪ストレートで、セーラー服の後ろの襟と同じくらいまで伸ばしている感じだ。二重の大きめの瞳をしていて目鼻立ちもはっきりしているので、笑うと結構可愛いんだけどなあ。


 充分過ぎるほど美少女の範疇に納まるはずだ。最低でもクラスで3本指には入るはずだ。まあそのうち売れるであろう。


 性格に問題があるわけではないので、御嫁の貰い手の心配はしていない。どちらかというと買い手が付かないのは僕の方ではないだろうか。


 ああ、僕は名前こそ真央だが立派な男の子だ。まあ顔はフツメンといったところか。ちょっと痩せていてあまり頼り甲斐はない感じだ。


 兄妹揃って大人しい性格なのでお互いに付き合っている相手はおらず、高校になっても一緒に学校へ行っているのだ。さすがに、この歳でお手手は繋いで歩いてはいないが。


 その僕達の背後より聞き慣れた声の持ち主から声がかかる。

「おっす、真央~」


「おう、お早うー」

「果帆ちゃんは今日も可愛いね~」

「ありがと。光ちゃん」


 声をかけてきたのは隣の家に住んでいる幼馴染の海堂光一だ。こいつは、朝のんびりしているので呼んでも絶対に出てこないが、足は速いので大体こうなる。


 もう、毎朝このパターンがすっかり染み付いている。ちなみに果帆から見て光一は男のうちに入っていない。もう一人のお兄ちゃん枠だ。


 光一の方はわからない。あまり、そういう話はしないからな。僕も果帆も、浮わついた話は苦手だ。でも、そのうちにそうも言っていられなくなるだろう。僕達もいつかは大人になっていくのだから。


 もう夏休みも近く、梅雨明けの少し蒸し暑い風が僕達3人の頬を優しく撫ぜた。今年もまた仲良し3人で色々と遊ぶ計画は立てているんだ。


 僕はそんな浮かれた気持ちで学校へと向かう道のりを消化していた。この後に一体何が起こるのかもまったく知らずに。


「ふわあ~あ。ああ、やっぱ月曜の朝は、かったるいなあ」

 光一は口に手を当てながらカピパラのように大きな欠伸をした。毎晩ネットでゲームに勤しんでいるらしい。


 頭はいいんで、授業中はほぼ寝ているのだ。目を開けたまま寝ていて先生に指名されると自動で覚醒してきちんと応える。


 はっきり言って奇人変人の類である。だが性格はまともなんで友人にしておくのに吝かではない。俺達兄妹と一緒で、家から近いというだけで今の学校を選んだ馬鹿である。


 3人共、もっと上の学校に行けたのだが、ゆったりした人生を望むあたりは生まれた頃からの似た者同士だ。


「ボヤくなよ。もっとゲームの時間を減らせばいいだろう」

「真央~。俺に死ねって言うつもりか?」

「そこまでかよっ」


 まったく。だが、そんな弛緩した空気が大好きな俺達だった。ゆっくりと昔ながらの坂の上にある学校へ向かい歩いていると、自転車で追い越していくヤツがいる。


「お早う、3人組」

 同じクラスの早坂亜紀だ。学年で3本指には間違いなく入る快活な美少女なので狙っている奴は多い。


 もっとも本人は人間の雄よりも犬猫ハムスターの類に夢中なのだが。僕なんかは、もちろん当然のように圏外だ。僕はハムスターになりたいとか時々思う事もある。


「おう、お早う」

「おっす、早坂」

「お早うございます、早坂先輩」


 そして彼女は手の平を軽く振って挨拶しながら、華麗なダンシングで若干短めのスカートをヒラヒラさせて男子の視線を集めながら、外装6段変則のシティサイクルを駆り、シフトダウンで一気に急な登り坂を駆け上がっていった。


 下駄箱で挨拶してマイシスターと分かれた僕と光一は、二階にある自分達の教室へと向かった。そして僕は大事な事に気がついた。


「あ、物理の宿題やるの忘れてた。うっかり現国を先までやってたぜ。光一、ちょっと写させてくれよ」

 だが光一の奴は無情に手の平でそれを振り払うと俺の願いを撥ね退けた。


「本当の友達っていうのは、答えじゃなくて解き方を教えてくれるもんなんだぜ」

「ちぇー、それはそれで正しいんだけどさ。それくらいだったら、今から自分でやるわい! 解き方がわからない訳じゃないんだからな」 


 だが、その時何か遠くから悲鳴が聞こえてきた。女生徒のものか? 階段の方からだ。

「なんだあ?」

「下の階からか?」

 1年のクラスからか。僕はちょっと妹が心配になったので見にいくことにした。


「相変わらず、子煩悩なやっちゃなあ」

「うるせえ。麗しい兄妹愛って言えよ」


 なんだかんだ言って光一も付き合ってついてきたが、逃げながら上へ駆け込んでくる大勢の生徒達に押されてしまって上手く進めなかった。


「なんだあ?」

「おい、どうした」

 光一に腕を掴まれて引き止められた1年の男子は、慌てたような様子で答えた。


「ば、ばけもんが出たんだ。D組で。みんな逃げてきて、体育の岡田先生が一人で対応してる!」

「何っ」


 D組って果帆のクラスじゃないか。俺と光一は顔を見合わせたが、どちらともなく走り出した。


 避難する生徒が邪魔でうまく進めなかったが、なんとか階段を抜けて、階段のすぐ隣にある一階のD組へすっ飛ばしていった先には、血みどろの体育教師岡田が腕を押さえて座り込んでいた。


 床に落ち飛沫のように飛び散った血の量が酷い。それが放つ濃厚な独特の香り。気の弱い人間なら失神しそうな空気だ。


 その前には、今まで見た事もない緑色の醜悪な小鬼が石のナイフらしき物を持って立ち塞がっており、その向こうに果帆がいた。


「うおっ?」

「なんだ、こいつらは!?」


 教室の後ろの開いたスペースだ。机も乱されていつもよりも広くなった場所に青ざめた顔で佇んでいた。なんてこった!

「果帆!」

「お兄ちゃん、光ちゃん!」


 俺はとりあえず、手近な椅子を持ってそいつに踊りかかろうとした。だが、横から光一に突き飛ばされた。


「何をする!」

「馬鹿、よく見ろよ」


 そして見回したあたりには、5~6匹もの小鬼がいて今俺が突っ込もうとしたところに3匹くらいが、ナイフをチラつかせて集まっていた。


 チンピラかっ! 手足を曲げてギャアギャア言っている。粗末な腰布、いやボロボロな革のような物を身につけていた。


 概ね体長80cmといったところか。手足を曲げたような格好なのでよくわからない。教室にそんなものがいるのは違和感有り過ぎだ。しかし、紛れもない現実なのだった。そして果帆が人質になっているのだ。


「ヤバイぜ、こいつはよ」

「ぐっ、でも果帆が!」

「わかってる」


 見回すと、他に果帆と一緒取り残された女子が2人、青い顔して体を寄り合わせている。


「先生、まだやれる?」

「あ、ああ。なんとかな」

 光一の情け容赦無い問いに、かなりブラッディな様相を呈している体育教師は気丈に答えた。


 普段なら光一だって、そんな事は聞かずに迷わず先生を助け起こすんだろうが。


 増援が来たのが心強かったのか、彼も気力で立ち上がるが、その惨状は見ていても痛々しい。あれだけ血を流していると本来なら貧血を起こしているはずだ。


 先生も長くは持たない。気力と、アドレナリンだけが武器だろう。女子生徒が向こうにいるのでなかったら俺達を避難させる為に自らが盾になって撤退するだろう。させてもらえるかどうかは、また別だけれど。


「果帆ちゃん、こんなシーンでなんなんだけどね。ちょっと御願いがあるんだ」

 冷静な声で光一が、能面のように白い顔色の果帆に語りかける。


「な、なあに? 光ちゃん」

 親しい光一が話しかけてくれたので、なけなしの勇気が湧いたのか少し震える声で果帆が答える。


「そこの木刀を取ってくれないか?」

 光一が指差した教室の後ろ、作り付けのロッカーの上に剣道部の奴の持ち物なのか、木刀が一本無造作に置かれてあった。こっちから見て一番左側にいる果帆からはすぐ手が届く位置だ。


「う、うん」

 まだ震える声で短く答えると、果帆は木刀に手を伸ばした。


 その小鬼は果帆が木刀に手を伸ばした途端、短く鋭く野犬か何かのように唸って威嚇した。

「ひっ」


 だが、果帆もわかっているのだ。ここで勇気が必要なシーンだという事に。


 僕も勇気を搾り出して前に出ると椅子を拾い上げ、それでサーカスの猛獣使いか何かのように振り回して床を叩き、そいつらの注意を僕の方に引き威嚇した。


「そらっ、シッ!」

 奴らの注意が僕に逸れた隙に果歩は夢中で木刀をひっ掴み、こちらへ向かって投げた。


 それを手早く空中で掴み取った光一は電撃の突きを敵の一匹の喉に食らわせた。もんどりうって飛んだ小鬼。起き上がってくる様子はない。


 さすがは剣道部のエースだな。果帆や女の子達がいるんじゃなかったら、こいつだって無理はしないんだろうが。


 怪我をした先生を連れてスタコラと逃げるシーンだろう。俺は光一の援護をすべく椅子を振り回したが、先生から鋭く声が飛んだ。


「お前ら、気を付けろ! そいつらは小さくて素早い。下から潜り込まれて俺もこの様だ。石のナイフは切れ味も良くないからな。むしろ痛みはきついぞ。切れ味の悪い刃物を体に捻じ込まれるようなものだからな。それに奴らは牙で咬み付いてくる」


 先生は既に血塗れの上着を左手に巻いて、まるで野良犬相手にするような体勢を取り、目は真剣そのものだ。


 身を持って味わった経験から来る忠告だ。僕の額と背中に、脂汗と冷や汗が同時に流れ出た。横目で見たら光一も僕と同様のようだった。


「真央、先生の言う通りだ。こいつらは野良犬みたいなもんなんだ。まともに相手をしたって始まらない。叩き伏せて果歩ちゃん達を連れて逃げるぞ。先生だって怪我している。早く消毒とかしねえとヤバイぜ」


 いや、消毒ではすまないと思うぞ。光一も人間相手の構えはやめて木刀を片手に構えて犬を叩き殺すかのような体勢を取っている。


 僕も覚悟を決めた。ぐっと椅子を握り締め直す。僕は妹を守らないといけないんだから。


 先生はややふらつく足で起き上がると、入り口にあるロッカーからT字型の箒を出してきて先を床に叩き付けてへし折った。


 うわあ、先端は鋭く裂けて、まるで即席の槍だ。そうして僕達の戦争、小鬼との殺し合いが唐突に幕を開けた。


 3対7、そして人質3。勇者1怪我人1にほぼ戦力外が1。戦力外はもちろん僕のことだ。


またしょうこりもなくこんな作品を書いてしまいました。

お気楽に読んでいただけたなら幸いです。


ダンジョンクライシス日本

http://ncode.syosetu.com/n8186eb/

こちらももダンジョンものです。




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