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MineMakeWorld ~ようこそ、あなたがつくるせかいへ~

作者: くうや

 



「へぇ……これが流行りのマイメか」


 学校が終わり、俺は自分の部屋に戻るとヘッドディスプレイを頭にセットし、目の前に広がるグラフィックを前に思わず声を上げた。


「帰っていきなり家事やれとか言われたけど、やっと入れるよ」


 予想外の手伝いをさせられ、不機嫌極まりなかったけどそんなものは一瞬で吹き飛んだ。


 目の前には、先日サービスが始まったばかりのMineMakeマイメイクWorldワールドの世界。

 プレイヤーは村で暮らす住人たちとコミュニケーションを取りながら、自分の家を発展させたり、土地を広げたりするゲームだ。

 ほのぼとのマイペースでやるもよし。

 RPGのようにダンジョンを探して探索するもよし。

 自分が好きなように作り、自分だけの世界を広げられる、自由な世界。

 それがMineMakeマイメイクWorldワールドで、このゲームの最大の売りだ。

 

 元々、PCゲームで大人気だったのだが、今回の新作はVRと連動して今まで以上にリアリティを追求した仕様だ。


 色々と長いゲーム説明がやっと終わり、視界が明滅する。

 そして画面が暗転したかと思えば、青々とした草原がどこまでも広がっていた。

 視点を動かせば、ドキュメンタリーを彷彿とさせる色合い。

 しかしそれはリアルな3Dだけども、どこか温かみを帯びる。

 今から始まるゲームを前に、ただのキャラ選択画面だと言うのにワクワクが止まらない。


「えーっと……キャラか」


 自分は手を動かして顔のパーツなどをセレクトして行く。

 にしても、瞳だけでも50種類以上あるって凄いな。

 髪の長さもスキンヘッドからロングまであるし、髪形も加えると相当の数がある。


「でもめんどいから適当で良いよね。名前もリアルまんまスバルにしとくかな?」


 色々こだわりたい気もしたが、早くゲームをしたい気持ちに駆られ、実際の自分の顔を反映させた。

 ワンポイントにも後から外見は変更出来ますってあるし、リアルまんまの方がノボルと合流しやすいだろう。

 すると性別の選択が現れ、性別はのちに変更出来ませんと注意が表示される。

 

「男、っと」


 そして全ての選択が終わった俺の視界は一気に切り替わり、『ようこそ、MineMakeあなたがつWorldくるせかいへ』の文字と共に、ゲームの世界へ降り立った。



 □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「んー……まさかノボルの奴が入ってこれないとか」


 意気揚々とゲームを始めたのも束の間、俺はぼうっと村を眺めていた。

 と言うのも、ゲーム内で落ち合う予定だった友人のノボルがまだ来ていなかった。

 親の説教受けてるとかで、来るのが遅れるとSNS経由でDMメールが来た。

 こないだテスト平均以下だったし、多分それで怒られてるんだろうけど、どうしよう。

 一人で始めちゃっても良いんだけども……せっかくならバカ騒ぎしながらやりたいんだよねぇ。


 そんなこんなで俺は軽く1時間近く、チュートリアルやらないで村の中をウロ付いていた。

 しかしあれだなぁ。

 チュートリアルポイントなだけに、通り抜けていく人がめっちゃ多い。


「暇だな」


 ログアウトして待っていようかとも考えたけど、それも嫌でゲーム内を意味もなくフラフラ。

 そんな中、ふとバザーをやっているNPCが目に付く。


「はーい! 今ならなんとタイムセールで初期設定衣装が50%オフなの! 

 元の服お引き取りでお洋服セット500マニなのお得なの! 

 是非買ってって欲しいの!」


 そこにはこのシリーズで必ず出てくる、商人あきんど少女のミクちゃんの姿が。

 彼女はピンクのショートを揺らし、長い袖をパタパタさせながら、一生懸命客引きをしていた。


「あ、そこのお兄さん! 是非見てってほしいの! お得なの!」


 すると俺をターゲットにしたミクちゃんは笑顔と共にこちらへ駆け、ぐいぐいと俺を引っ張る。


「50%オフつっても俺の手持ち、500マニしかないよ」


「今ならどれでもセットで500マニなのお得なの!」


 俺を見上げながら、にっこりと天使スマイルでオススメをしてくる。

 50%オフ、しかもセットで500マニか。

 ……悪くないかも。


「って全部女服じゃない、これ?」


 お得かなと思ったのも束の間、目の前に並ぶ服は全部可愛らしい女の子服。

 いやまぁ好きなデザインばっかだけどさ。

 特にこの、やたら凝った童貞スレイヤー風のとか。

 ……とは言え、ノボル来るまで暇だしなぁ。


「じゃあちょいと着てみようかな」


「どうもなのー!」


 周りは人居ないし、暇潰しで試着してみようと手に取る。

 すると画面切り替えをしたように、目の前にスカートの裾が、ふわりと広がる。

 グラが綺麗からか、足に風がすり抜ける錯覚まで覚える。

 そしてキャラ画面を開いてみれば、女服を着た自分のグラが眼前に。


「ちょ、流石にコレはひどい」


 冴えない中学男子が女の子の服を着ている酷い画像に、思わず爆笑。

 その姿を前に、中1の時にやった演劇思い出す。

 男女入れ替えシンデレラとか言って、女子が王子やって、男がシンデレラを演じた。

 内容は男子がギャグな見た目にしかなってなくて、終わりから最後まで観客も役者も大爆笑と言ったカオス劇となった。


「あー笑った。元の服に戻そ」


 1年前の思い出を振り返りながら、暇潰しが出来た俺は、商人あきんど少女のミクちゃんへ声をかける。

 すると、


「はーい! 今ならなんとタイムセールで初期設定衣装が50%オフなの! 

 元の服お引き取りでお洋服セット500マニなのお得なの! 

 是非買ってって欲しいの!」


 と、天使スマイルと一緒に先ほどの台詞を向けてくる。


「えっと、元の服に着替えたいんだけど」


「はい! 今ならセットで500マニなの! お得なの!」


「いや、購入じゃなくて―――」


 微妙に噛み合わない会話に、ちょっとイラっとするも一気に血の気が引く。

 先ほど、童貞スレイヤーセットがあった場所には、


「え、俺の服……?」


「はーい! 今ならなんとタイムセールで初期設定衣装・・・・・・が50%オフなの! 

 元の服お引き取りで・・・・・・・・・お洋服セット500マニなのお得なの! 

 是非買ってって欲しいの!」


「なぁあああああああああ!?」


 またリピートされる内容に、慌ててウィンドウを開く。

 すると、先ほどまであった500マニは―――。


「ゼ、ゼロ!?

 ちょ、待ってよ、俺、買った覚えな……」


『おーいスバルーやっと入れたわー。

 お前今どこ?

 俺、今ミクちゃんの近くなんだけどさー』


 気が動転する中、自分に向けたチャットが飛び込んでくる。


「だぁああああああああああああああああああ!?」


 そのチャットを前に、自分はヘッドディスプレイを投げ捨ててゲームから強制ログアウトした。



 □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 ―――それから5時間後、夜の1時を過ぎた頃に再びマイメにログインするも、俺は呆然とした。


MineMakeマイメイクWorldワールドは同アカウントで新しくキャラクターを作成する場合、1体目のキャラ作成より1週間の日にちを空けなければ作成が出来ません」

MineMakeマイメイクWorldワールドは作成3日未満のキャラを消去した場合、1週間の期間はキャラ作成が出来ません』

MineMakeマイメイクWorldワールドはキャラの性別変更は出来ません』


 キャラを消した場合、1週間プレイ出来ない事実を知った。

 

「どーしよ、金もないし……」


 そして先程、俺のキャラが着ていた服はミクに買い取られてしまった。

 早い話が、500マニ+着ていた服の売却価格で新しい服を購入させられたのだ。

 更にはチュートポイントじゃマニは稼げないので、服を新しく購入できない。

 かと言ってチュート終えると、ここには戻って来れない。


「詰んだ」


 チュートリアル村の外れにある、人気のない広場のベンチで、独り絶望する。

 確認しないで服を着た俺も悪いけどさ、あまりにも酷いこの展開。

 意気揚々と期待を胸に最新ゲームを始めたら、女装スタートとか冗談じゃない。


「こうなったらグラいじって女の子っぽくするしかないかぁ……あれ、名前の変更も出来るんだ」


 キャラウィンドウを開き、また溜息が出る。

 ここまで細かな変更が出来るのに、性別の変更はダメなんだこのゲーム。

 意味が分からないんだけれど。

 まぁ良い。

 こうなったら外見を出来るだけ女キャラっぽくして、1週間乗り切ろう。

 そしたらキャラデリリセットして、男キャラ作り直そう。

 数ある髪型から、女の子っぽいロングを選び、顔も丸みを帯びた女の子っぽい顔を選ぶ。

 そんな中、


「……やっと、見付けたぁ!!」


 と、操作をする中でオープンチャットで発言が飛ぶ。

 何かと思い、ウィンドウを閉じれば、目の前に長髪の男が突っ立っていた。

 NPCのイベかと思えば、


「その服返して!!」


 突然腕を掴まれる。


「え、あ……だ、誰!?」


「その服、数時間もかけて私がメイクしたお気に入りなの、返して!!」


 動揺しながらも問いかければ、更に強く腕を握られる。

 何だ、もしかして変な人に目を付けられた?

 くそ、こうなったら、また強制ログアウトするしか―――


「あれ、もしかしてその顔、あなたって……3組のヒザクラ、スバル……くん?」


「!?」


 まさかの実名を叫ばれ、ヘッドに手をかける。

 これは迷っている暇はない。


「待って、落ちないで!

 私、1組のノミヤマ! ノミヤマナツミ!

 1年の時に一緒だったの、覚えてない!?」


 必死な形相で詰め寄るその人物は、1年の時に一緒だった、クラスメイトのノミヤマさんだった。

 


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「何か笑えるねー、他にもワールドあるのに昔のクラスメイトと遭遇して、こうやって話すのも」


「……そーだね」


 そして元クラスメイトのノミヤマさんとわかり、俺は事情を聞く事に。


「にしてもふざけてるよね。

 チュートリアルマップで着た服が初期衣装になるとかさ、全然説明無いしさ。

 最初のキャラリメイクの時に服リメイク出来るのに、ほんと意味わかんない。

 あとで運営にメールしなきゃだよ、コレ。

 他にも色々説明抜け過ぎだもん」


 彼女はぷくっと頬を膨らませながら、先ほどからこんな調子でずっとお怒りだ。

 ……いや、キャラ性別で言えば、なのか?

 どっかのクールキャラみたいな顔で、「だもん」とか言っちゃうから笑いそう。


「でもさ、何でまたノミヤマさんは男キャラなの?

 こう言った可愛い服好きなのはまぁわかるけれど……」


「え!?

 い、いや、ちょぉっと冗談で、男キャラで女の子の服着れるのかなーって遊んでみたの。

 そしたら問題なく着れて、チュートリアルマップでカッコいいセットがあったから着てみたら、購入になっちゃって……」


「あれさ、完全に罠だよね。

 試着って選択無いし」


「そ、そうだよね!

 あれはほんとね、先行情報じゃそんなバグ無かったのに」


 仕様なのか不具合なのかわかんないけど、あれは修正が必要だと思う。

 彼女の言う通り、運営にメールするにしても……1週間か。


「折角、作った服が見つかったのは良いけど、これじゃ回収しようがないしどうしよう。

 あぁ~もうほんとショック」


「ここじゃお金稼げないから、服をまた買って入れ替えるって出来ないし。

 それなら俺のアカウントと交換しちゃえば良いんじゃ?

 そしたら服も消えないと思う」

 

 頭を悩ます中、ふとそんな名案が思い浮かぶ。

 が、


「無理だよそれ。

 私、SNS連携しちゃってるもん。

 それにアカウントの交換は不正扱いになると思う」


 良い考えだと思ったけど却下された。


「それにヒザクラくん、キャラ消す気だよね?」


「え、まぁ……うん」


「ダメだからね!?

 すごく時間かかったんだよ、その服!

 フリルはまだテクスチャあるから良いけど、色なんて何番使ったか覚えてないし、絶対同じの作れないもん!」


「待ってよ、消したらダメってノボルになんて言うの俺!?

 バレたら絶対笑われるってか、アイツ面白いの好きだから学校でバラされて大変な事なるからね!」


 引き留められ、顔面蒼白する。

 そりゃノミヤマさんはクラス違うから良いさ。

 でも俺はノボルと同じクラス。

 バレたら言い触らされて、公開処刑確定だよ!


「あーそっかぁ……ノボルくん、後先考えないでネタにするもんね」


「悪い奴じゃないんだけど、暴走するとほんと」


 改めてその事を口にし、バレる訳にいかないと実感する。

 好きな子をこっそり教えたら、次の日に隣のクラスまで言いふらすようなヤツだ。

 俺が女キャラ使ってるとかバレたら絶対弄られる。


「うんわかった。

 それじゃあもうヒザクラくんはキャラ作れるまでの1週間、女の子やるしかないね?」


 と、理解してくれたかと思えば耳を疑う言葉が。


「何を言ってるんですかねノミヤマさん」


「だってその服消されたら私、困るし」


 ニマっと笑いながら、彼女は追い詰めるように顔を寄せてくる。


「どっちにしても1週間はキャラ消せないじゃない?」


「まぁ、うん」


「じゃあ決まり。

 女の子の細かい事なら、女の私が色々教えてあげるし!」


「そうは言われても、俺は普通にゲームしたいんだけど……」


「あーでも折角作った服が消えちゃったら私、ショックの余りカエデとか、エリに愚痴っちゃうかも―――」


「わ、わかった!

 お願いします1週間お願いしますから言わないで下さいほんと何でもしますから!」



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 ……そして次の日。

 ちなみにノボルへは、VRが壊れたと嘘を吐いた。


『やっほーノミヤマです。

 昨日と同じところで7時に待ってるねー』


 昨日の夜、落ち際にノミヤマさんとLINEを交換したのだけど、帰宅すると早速お呼び出しされた。

 入らないって選択肢もあるけど、マイメしたいしなぁ……。

 まぁ女装してると言っても、ゲームは出来るし、いっか。


「やっほヒザクラくん。

 そいじゃ女の子に見える準備しよっか!

 あ、でもその前に顔とか女の子っぽくしなきゃだ。

 チークグラとか入れて、ほっぺ赤くするのもアリだね!

 私のチョイスだと、目は47、輪郭は32、鼻は3、眉毛は55でー、唇は33にしてー」


 が、マイメ関係無い流れに。

 メイクはメイクでも、作るメイクじゃなくて化粧メイクになってしまった。


「ノミヤマさん、何で詳しいの……?」


「うーん? どんなのが良いかなって調べておいたの」


 わざわざ調べてくれたのか。

 助かるけど、何とも複雑な気持ちを覚えながらも指示通りのナンバーを選んで女の子顔を完成させた。

 そこにはあどけない感じだけども、どこか清楚な雰囲気のある俺が好きなアニメの少女の顔が。

 おっとこれは、今流行りの魔法少女アニメのエレクゥトラ・マイヤじゃん。


「……で、見た目の設定が出来たの良いけどこの後どうするの?

 俺、そろそろ普通にマイメしたいんだけど。

 ホーム作って、ダンジョンとか行ってみたいし」


「あ、そうそう。

 8時にカエデ達がこっちに来るから、合流しようって話してたんだよね。

 あ、そうだ。

 ヒザクラくん、名前も変えないとバレちゃうよ」


「あぶな、忘れてたよ。

 って、カエデってもしかしてスズキさん?

 俺そんな話聞いてないんだけど……」


「言うの遅れちゃったごめんね。

 名前はアニメのエレクゥトラ・マイヤをイメージしたし、そのままエレで良いんじゃない?」


 あははと可愛らしく笑うが、男キャラのせいか彼女の笑い顔は何とも言い難い感じで。

 イケメンフェイスなのに明るい笑顔って、凄いアンバランスだ。

 そして俺は彼女の言う通りに、名前を変更してエレにする。


「8時過ぎたけど、カエデ来ないなぁ。

 メールも無いし、どうしたんだろ……あ、来た来た!

 ……あれ?」


 心の準備がまだ出来ていない中、こちらへ人影が歩いてくる。

 思わず俺は、ノミヤマさんの後ろに身を隠し、


「ごっめーん遅れちゃった、エリは今日無理だってー。

 んでんで、アズマくんと途中で会ってさー、一緒にやろうって話になって連れてきちゃった。

 いぇーい」

 

 と、ショートヘアの少女が変なポーズを取る後ろには……。


『ちょっとノミヤマさん、ちょっと良いですかちょっと』


 俺は咄嗟に個人チャット欄を開いて会話を飛ばす。


『どうなってんの何でノボル来てんの!

 アイツにバレないように嘘まで吐いたのに、何なのこれ!?』


『し、知らないって私も聞いてないもん!

 カエデには話してないし、偶然だって!』


 問い詰めればそんな返答が。


『と、とりあえず落ち着いてヒザクラくん。

 いえ、エレちゃん・・・・・

 今ヒザクラくんは見た目完全に女の子。バレないよ!』


 その言葉で我に返る。

 そうだ、今は顔も変えて、名前も変えた。

 俺要素はどこにもないんだ。


「ところでナツミ、その子って誰ー?」


「え、あーこの子ね、あーっとその、私の親戚の子って言うか。

 いとこ?

 ちょっと恥ずかしがり屋でね!」


 何その唐突のアドリブ。

 そんな設定で行くとか聞いてないよ先生。


「あーなるほどね。ウチはナツミとクラス一緒のスズキカエデ、ヨロシクねー。

 えっと、何て呼んだら良いのかな」


「あ……う、いえ、ハイ、エ、エレです、ドウゾヨロシク」


「お、もしかしてエレってエレクゥトラ・マイヤ?

 俺好きなんだよねあのアニメ、俺アズマノボルって言うんだヨロシクーっす!」


 と、おずおずと自己紹介すれば食い気味にノボルの奴が自己紹介してくる。

 俺と同じでお前もあのアニメ好きだもんな、ヒロイン大好きだもんな。

 これミステイクだったんじゃ。


「んでー、この後どうする?

 ウチら先にチュート進めちゃったけど」


「私たちまだだから終わらせてきちゃうかな?

 行こっかエレちゃん?」


「う、うん……」


 そして俺はノミヤマさんの言葉で、逃げるようにその場を後にする。

 すれ違いに、ノボルの奴がスズキさんに「いやーエレちゃんまじかわ」とか言ってるのが聞こえたり、どうしてかノミヤマさんが満足そうな笑顔浮かべていたが……すぐ忘れるようにした。


 それからチュートを進めながらエレの設定と、今後の予定を決めた。

 エレはノミヤマさんの3つ下の従妹で人見知りが激しい。

 なので基本的に自分から余り喋れず、ノミヤマさんとしか喋れない。

 彼女の事はナツおねえちゃんと呼ぶ。

 そして今後の予定は出来るだけノミヤマさんと一緒に行動。

 もしフレンドに誘われても、人見知りを理由に断る流れにする。

 他の対応に関しては、個人チャットで対応すると言った事になった。



 □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「そう言えばエレちゃんって、大人しい顔してるけど時々豪快だよねー。

 男の子っぽいって言うか」


「うぇ!?」


 翌日、素材集めで木を切り倒してると、スズキさんがそんな一言を投げかけてきた。

 

「上にお兄ちゃんが居るからかなー多分?」


 それに対し、ノミヤマさんが咄嗟に新設定を追加する。

 そして、個人チャットで、


『あんまり大股で走っちゃダメ。

 あと、何でもかんでも豪快に掴んで投げちゃダメ。

 もう少しオドオドした感じで、わかんない時は無言で首傾げて』


 と、指示がバンバン飛んでくる。

 ……ハイ、気を付けます。


「なるほどなー。

 だから甘えん坊な感じあるんだなエレちゃん。

 まぁそれくらい元気でも、可愛いから良いと思うぜ俺?」


 そしてノボルがしれっとフォローを入れてくれるが、これまた反応に困る。


「にしてもスバルのヤツも一緒に出来たら良かったんだけどなー」


「あれヒザクラくんもやってんの?

 それなら呼んだら良いのに」


「いや、あいつヘッドぶっ壊れたらしくてさ。

 修理で1週間くらいかかるとかで、今無理なんだよ……。

 それのせいでPCも調子悪いらしい。

 今日もずっと凹んでたしな」


「そうだったんだ。早く直ると良いねー」


 マジごめんノボル。

 俺、今目の前に居るんだわ。

 あと、凹んでたのはマイメで女装を1週間やらなきゃいかんからだ。


「でもま、1週間すれば来るし、我慢だなー。

 アイツもエレクゥトラ大好きだから、エレちゃん見たらくそ喜ぶぜコレ」


 理由があるとは言え、友人を騙している事実に心が痛む。

 ってかいつもは人の事を弄り回すのに、こんな時だけ良いヤツっぽくなるのはズルいだろコイツ。

 今日だって、学校で「VR壊れアニキちっすおっす!!!」とか俺を煽ってたクセに……。

 

「それで一回戻る? まだ探索しちゃうー?」


 と、ノミヤマさんが上手く話をそらす。

 流石ですナツお姉ちゃん。

 それからは昨日と同じくまた素材集めとなった。

 少し変わった事と言えば、ノミヤマさんの女の子演技への指示が妙に細かかったくらいか。

 上目遣いをしろとか、スカートの裾握りしめながら「エレ、出来ないよ……」と言えとか。

 ノボル相手にそれをしろって言うのだから困ったものである。

 流石に恥ずかしくてそれは出来ないよナツお姉ちゃん……。



 □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 それから2日が過ぎ、土日の休みを挟んで月曜日となった。

 女の子を演じながらのマイメは最終日。

 マイメを始めてから今日の8時で1週間となり、新キャラを作成した。

 ノミヤマさんとはキャラを消さない事が約束だったし、やっと解放されたのだ。


『おーやっと来たかスバル。

 もうVR壊すなよー?』


『うっせ!

 好きで壊したんじゃねーし。

 てかチュート終わったらどこ行けばいい?』


『チュート村前で待ってるから、そんまま出て』


『おけ』


 いつものノリで会話を交わしながら、俺はチュートリアルをこなす。


『ああそうだ、チュート村で服着ない方が良いぜ。

 不具合で試着の選択肢消えてるらしくてさ、下手すると男でスカート初期衣装で固定になるぞ。

 バグらしいから、来週には修正入るらしいけど』


 と、1週間遅れの情報を教えてくれる。

 出来れば先週に知りたかったが、仕方ない。

 そして俺はノボルと合流し―――


「おー!

 ヒザクラくんやっほーいぇーい!」


「ヒザクラくん、元気?

 待ってたよー」


 と、スズキさんとノミヤマさんが出迎えてくれる。


 合流した俺は、皆の案内で拠点の村へ向かう。

 歩く傍ら、ノボルとスズキさんが色々教えてくれるが、エレだった俺は全部知っているので淡白な返答しか出来ない。

 けどそれをノミヤマさんが上手くカバーしてくれて、自然な流れで会話が進む。


 それから昨日と同じように探索したり、素材集めをしたり、土地を広げたり。

 各々で、自分がやりたい事を言って、協力してこなして行く。

 エレの事に関しては、ノミヤマさんが上手く理由を付けていた。

 残念がる2人を前に、心苦しかったが……2人ともごめん。

 そしてそうやってる内にあっと言う間に時間が過ぎて、寝る時間となってみんなログアウトした。



 □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 ―――それから数週間が経ち、みんなとは前ほど一緒に行動する事は減った。

 同じ時間にみんなログインはしてるが、やりたい事が違う。

 なのでどうしても別行動になる事が増えた。

 とは言え、俺とノボルはダンジョン探索がメインだから大体一緒だが。

 んでノミヤマさんとスズキさんは作成系の事をやっているので、女子男子で分かれてるような状態だ。


 やりたい事が出来、何も不満はない。

 けど、


「……うーん。何で入ってしまったのやら」


 表現しづらい何かが晴れず、皆が落ちた後にまたログインしていた。

 人目に付きたくない俺は、一番人が来ないチュート村の外れに足を向ける。

 しかし何だろう、あれだけ嫌だったはずなのに……


「エレでインしたらモヤモヤが晴れるとか、どういう事だよ」


 広場にあるベンチに腰掛け、童貞スレイヤースカートを弄りながら、思わず溜息が出る。


「いらっしゃいませなのお客さん!」


 ぼーっとする中、あまり良い思い出の無い商人セリフが。

 慌てて振り返れば、そこにはこのシリーズで必ず出てくる、商人あきんど少女のミクちゃんの姿が。


「―――なーんてね。

 私の作った服、気に入ってくれた?」


 ではなく、ノミヤマさんの姿が。


「……俺が入ってるってよく気付いたね」


「うーん、何となく」


 すると彼女はくすりと、イケメンフェイスで微笑む。


「ほら、中1の時に男女逆のシンデレラやったの覚えてる?」


「カオス劇だったよね、覚えてる」


 ノミヤマさんはカオス劇の事を語りながら、俺の横にかける。


「あの時さ、他の男子が苦笑いしてる中で一番楽しそうな顔してたのヒザクラくんなんだよね」


 と、覚えにない事を口にされる。

 そうだっけ……と思う。

 しかしあんなカオスな劇を前に、笑うなと言う方が無理な気もするんだが。


「それでさ、ミクちゃんのところで試着してる時、服の回収したくて隠れて見てたんだけど……その時もヒザクラくん、同じよう笑ってたんだよね」


「え、いや、え!?

 あー……確かに劇を思い出して爆笑はしてたっけ」


「ほんとにそれだけかな?」


「いや、それ以外って無いじゃ―――」


 否定をしようとするが、じゃあ何で自分は今ここに居るのか、と自問が返ってくる。

 ならば最近晴れなかったものが、エレでインした事ですっきりしたのかと、更に問い詰めてくる。


「別に気にする事ないと思うよ?

 私だって女なのに男キャラだし、それにこれはゲームだもん。

 好きなように楽しんだモノ勝ちだよ、ね?」


 ノミヤマさんはそう言って、整った顔で屈託の無い笑顔を見せる。

 それは自分も同じく、楽しんでいるんだと言った顔。


「そう言えばさ、エレちゃんに似合うかなって思って服作ったんだけど、見てみる?」


 ああそうだ。

 これはゲーム。


「あー……うん、見るだけなら、見てみよう、かな?」


 そしてここはMineMakeマイメイクWorldワールドの世界。

 ほのぼとのマイペースでやるもよし。

 RPGのようにダンジョンを探して探索するもよし。

 自分が好きなように作り、自分だけの世界を広げられる、自由な世界なのだ。

「また女装系っすか?(´・ω・`)」

「すまない、またなんだ(´・ω・`)」


スマホ版どうぶつの森でスカートしかはけなくなると言うツイをTLで見かけ、そこから勢いで書きました。

世界観的にはリアルよりのマイクラなイメージです。

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