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すごくあたまのわるいはなし

作者: 朝霧

 その青年は美少女のように美しかった。

 馬鹿みたいな表現なのに、あまりにも的を射たその表現を思いついた時、思わず爆笑していた。

 あんまりにも可笑しくて、おかしくて、腹が捻れてお陀仏しそう。

 「うっひゃ、ヒャハはくきゃきゃきゃははははっははは」

 狂ったような笑い声が聞こえてくる、当然自分のものだ。

 唐突に頭にズゴーンとインパクト。

 「ふごへっ!!?」

 意味のわからない変な声が自分の喉から漏れる、やっべえちょおおかしい。

 腹がぐるぐる捻れて捻れて、お腹がギュルギュルみちみちと引きちぎられてるようなイメージ。

 「うばははははは」

 ギュルギュルにネジ巻かれた自分の体がぷっちーんと引きちぎられるイメージがおかしくておかしくて、笑い声が止まらない。

 「うっさい、黙れ」

 もっかい頭に重い衝撃がズドドドーン。

 意識がふっ飛んだ。


 「ふええ?」

 そんなよーわからん声が自分の口から垂れ流されたという事実に少なからず驚いて、驚いて、身を起こそうとして。

 「ふぁっ!?」

 手になんだか嫌な拘束感を覚える。

 腕が上に上がっていた、両手首にはチクチクとした何かが強く締めついているような、そういう変な感触がする。

 けど、悲鳴をあげた理由はそれではなかった。

 自分の胴体、その下っ側。

 位置的にいうと、多分臍のあたり。

 その辺りから、ぴちゃり、ぴちゃりと、湿った何かが蠢くような生ぬるい感触が。

 「うぼぎゃーーーー!!? うぎょえーーー!!?」

 悲鳴をあげて体を起こそうとするけど、両手首を締め付けている何かのせいで体が起き上がらない。

 そして、その時になって脚側がなんか重いことに気づく。

 「うるさい、黙れ」

 お脳みそがドロッドロに融解しそうな、ひどく蠱惑的な声が聞こえてきて、私は一旦黙りこんでしまった。

 「もっと静かに目を覚ませないのか?」

 声とともに視界にひどく美しいかんばぜが視界に写って、視界がぐるぐるしそうだわん。

 美形への耐性、ほぼゼロですゆえ。

 美少女は大好物ですけど、ぺろぺろぺろぺろしたーい、顔真っ赤にさせたーい、ぐっちゃぐちゃのドロッドロにとかしたーい。

 二次元と妄想に限るけど。

 だって私、ノーマルだもの。

 可愛い女の子はぺろっと平らげたいくらい大好物だけど、いざ本気で愛せるかと言われたら多分無理なクズだもーん。

 百合は自分が干渉するものではなく鑑賞するものだし、可愛い可愛い女の子をこんなクズが汚すなどありえないのだフハハハハ。

 可愛い女の子は小動物と同じ扱いですゆえとバッシングを受けそうなことを考えつつ現実逃避っひ。

 そいそい、こんなの現実なんかじゃあーりません、私さんのよくわからない妄想が生み出した夢ですゆえ?

 だから視界がグールグル、さっきお酒い〜〜っぱい飲みましたし? そのせいではないのでありませうか???

 くきゃきゃきゃきゃ、と笑っていた記憶しかちっともちっとも思い出せぬのでありますよー? ちょーかわ美少女な同級生の家で飲み会してそうなったのはかろーじて思い出せるのでありますが?

 はてさてさてさて? マイフェイバリイットな美少女ちゃんは何処へ? ここはあの子の自宅のはずでは? ではでは?

 何故なぜゆえ? 美少女ちゃんはいないのか?

 そして視界に写った上半身裸の男性はどちどちどちらさま?

 美少女ちゃんのおにいさまかしらん?

 ご挨拶せべばぬぁ。

 「始めますて、川島さんの同級生でっす」

 恥ずかしいことに噛んでしまった。

 お酒のせいだろうと全ての責任をおそらくさっきがぶ飲みしたカシオレになすりつけておいた、これでオールオッケー、オッケッケー。

 「何を言っているんだお前は」

 わー、おにいさま美少女ちゃんと声がクリソツー、ひゅーひぃー。

 「噛みました」

 「それはどうでもいい」

 「確かにどーでもいいです。手首痛い」

 チクチクしてて痒いし締め付けられてる感覚が痛いのよう。

 「ああ、あんまりにも腹が立ったから少しきつめに縛ったんだ。さすがに壊死はしないだろうけど、少し窮屈かもね」

 犯人お前かーい。

 「おにーさまは私に一体なんの恨みが」

 「……むしろ何もないとでも?」

 「冤罪ですよう。私さんあなたの妹さまの体には手を出してないゆえ」

 妄想の中ではマイフェイバリットな美女さまと絡ませてあんなことやこんなことをしてもらっていたけど、現実のあの子には一切手を出してないのである、だから我無実也、なりなり。

 「…………」

 おにーさまが私の顔をまじまじと睨みつけた。

 いやーんそんな目で見ないで、本当に何もしてないからあ。

 「……おまえ、気絶する前のこと覚えてるか?」

 「バッチリっす」

 川島さん家でカシオレがぶ飲みして寝落ちした、多分おそらくきっとそれだけ。

 「……本当に?」

 「うっすうっす」

 おにーさまは何故か盛大なため息をついた。

 「……僕が誰だかわかるか?」

 「川島さんのおにーさまです?」

 「オーケーわかった、なんも覚えてねーなてめえ」

 こきゅ、っと首を片手で締められた。

 たいして苦しくはなかったけど、きゃーと悲鳴をあげておいた。

 「おにーさまではないのです? ではおとうとさまでありましょか? 私さんあなた様に何かご粗相を?」

 悪いけど全く見に覚えがないのである。

 だいたい私男の方苦手ですゆえ? 積極的に絡むとかありえないでありますよよよ?

 「……兄でもなければ弟でもない……本当にわからない?」

 「……いとこさま?」

 「違う!!」

 怒鳴られた、こあい。

 「ではまさかおとーさま? お若いのですね?」

 「……よーし、一度黙れ?」

 半ギレ気味に口を塞がれてお口チャック。

 「えわ、まふぁふぁおひーさふぁ?」

 だけど意外と喋れた、やったぜ。

 「だ、ま、れ」

 鬼の形相で睨まれた、こあい。

 ガクブルしちゃう、プルプルプルプル。

 「そええ、どひらはまえす?」

 結局お前は誰なんじゃーいという問いをしてみると、おにーさま(違)は盛大にため息をついた。

 「……僕は川島だ」

 それは知ってる。

 川島誰さまであるのが聞きたいのであり、美少女ちゃんとの関係を聞いているんだけどぬえ〜。

 あったま悪いのかしらん。

 「お前の同級生で、今日お前をここに呼んだ川島真琴だ」

 ………………?

 「はひ?」

 この美青年は何をおかしなことを言っているのでありませうか?

 川島真琴は美少女ちゃんのお名前で、けしてお前の名前ではないのでありまするが?

 わけがわからないよん。

 美青年を見上げていたら、美青年が私の口から手をどかした。

 ぷはあ、と息をついてから、冷静に。

 「川島さんは超絶ぷりちーな美少女ちゃんで、あなたさまは美青年ですよね? 美少女ノットイコール美青年……つまりあなたさまは川島さんではないですよ?」

 とてもとても当たり前な事を指摘すると、額にバッチーン。

 「ひぅんっ!?」

 デコピンされた、ちょお痛い。

 「……まず、その認識が間違っている」

 美青年が鬼の形相でぼそりと。

 「ふぇえ?」

 額抑えたいのに手が動かせなくてただただ涙目。

 暴力はんたーい。

 「僕は男だ」

 「見りゃわかりますよう」

 何を当たり前のことを言っているんだろう、わけわからんち。

 「ああもう!! 違う、そうじゃない!!」

 「ふぃっ!?」

 突然の大声にめっちゃビビる。

 何この人、ヒステリー? ヒステリック美青年?

 その後美青年はとってもイライラした様子で何かをブツブツボソボソブツブツ。

 この人こあいお。

 「いいか、お前」

 「あい」

 「川島真琴は男だ」

 「……あい?」

 「生まれた時から男だ」

 「…………?」

 「女顔だが正真正銘男だ。だが馬鹿で阿呆なお前は出会った時から今日までの約一年間、ずっと僕の事を女だと思っていたらしいな?」

 …………うぬ?

 うぬぬぬぬ?

 うぬーぬぬぬぬぬ?

 うぬ? うぬうぬ?

 言われ見れば目の前の美青年の顔は美少女ちゃんとおんなじで、声もおんなじで。

 ちょっと高圧的な話し方もおんなじで?

 あるぇれ?

 そういえば……起きる前……

 私みたいなクズが川島さんみたいなきゃわいい美少女ちゃんのお部屋にお泊まりできて幸せですなあ、とかいったら。

 なんかスッゲービックリした美少女ちゃんが、僕は男だ、とかわけわかんない事を言いだして、冗談だって笑ってたら。

 右手を掴まれて? その右手を美少女ちゃんの胸に押し当てられて?

 つるつるぺったんだね、とかしょぼぼぼんと酔った勢いで口走ったら美少女ちゃんがブチ切れて?

 美少女ちゃんが勢いよく服を脱いで? きゃー美少女ちゃんだいたーんとか言って目を背けつつガン見したら、細いけど普通に鍛えられてる野郎の身体が見えて?

 全く理解不能で錯乱して、錯乱したままわけがわからないほど愉快な気分になって?

 大爆笑のち、気絶……したような?

 うん?

 うううううん?

 はれれ?

 じゃあ、

 美少女ちゃんは美少女ちゃんじゃなくて?

 私のお友達の美少女ちゃんは美少女ちゃんじゃなくて美青年で?

 一年ほど付き合いのある私の友達のきゃわいい美少女ちゃんは……現実じゃ、ない?

 ……夢オチ、かなあ?

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