悪役令嬢とヒロインは幸せになります
私は、エリアナ・リード、17歳。平民ですけど、裕福な家に育ちました。
加えて、自分で言うのもなんだけど、道行く人々の多くが思わず振り返るような容姿に恵まれました。困っている人を放っておけない性格なので、気立てが良いと皆に好かれて幸せに育ちました。
幼い頃から父さまに、これは立派な玉の輿に乗れるかもしれないと期待され、貴族の子女に負けない教育を施され、両親を喜ばせたくて、その期待に沿えるよう頑張り、一流のレディと人に言って貰える位の教養を身につけました。
私自身にはそれ程欲はないけれど、もしかしたら本当に玉の輿に乗って、すごく幸せになれるのかな? なんて、少しは期待も芽生えてたんだけど……。
ある日、何気なく、人気の占い師にみてもらったら……、
『そなたはヒロインの宿命。王太子の心を奪うけれど、悪役令嬢からざまあされる。王太子に近づけばそうなる』
と宣告されました。
悪役令嬢とかざまあとか、意味は良く判らなかったけれど、よろしくない事だとは解ります。
王太子殿下? 元々平民の私には、何の縁もない存在なのに。
この頃、私の良い噂を聞きつけた貴族の方が、平民の私を、特別に、王族貴族の通う学院に入学を、という話を持って来られました。
まじですか。
私の望みは、同じような環境で育った商家の跡取りに嫁いで、ゆったりした家庭を築く事なのだけど、そんな学院に入ったら、間違って王太子殿下の目に留まってしまうかも。
私は全力でこのルート(ルート……?)を回避しようとしたけど、玉の輿に目がくらんだ両親は必死です。王太子殿下とまでは思ってないだろうけど、有力な貴族の子弟に見初められれば、家は一層繁栄間違いなし。反抗も空しく、私は学院に放り込まれました。
王太子殿下の名はオズワルドさま。
見目麗しく、振る舞いも立派で、年頃の娘なら、誰でも惹きつけられるでしょう。
私の初恋の相手は、オズワルドさまになりました。でも、『近づけばざまあされる』という、なんか呪いのような占い師の言葉は今も耳に残っています。まあ、そもそも近づける筈もないのですが。
オズワルドさまは既に婚約している身。お相手は、フィオリーナさま。公爵令嬢で宰相閣下の長女。お美しいし、いっつも数人のお気に入りの取り巻き以外は寄せ付けず、オズワルドさまにべったりです。
なのになのに。
オズワルドさまは、どこかで私を見て、気に入って下さったらしいのです。
恋文が届けられ、いつしかそういう仲(あくまで清く、ですよ)になってしまいました。
オズワルドさま曰く、
「フィオリーナを嫌っている訳ではないが、子どもの頃から婚約を決められて、結婚について、互いに自由な意思を表明できなかった。でも、わたしはいま、自分の意思でそなたを后に、と願っている」
と。
「でも……わたくしはしがない平民ですわ。フィオリーナさまが、愛妾の存在を認めて下さるならばいいのですが……」
「何を言う。私はそなたを正妃にしたい」
「えっ、それは無理ですわ。わたくしは平民です」
「それでも! そなた以外の女性などいらない!」
殿下のお気持ちは嬉しいけれど、困ります。私自身は、フィオリーナさまを敵視する気はないけれど、この流れでは、なんだか、占い師が言った通りに『ざまあ』される予感がします。オズワルドさま以外にも、私を好いて下さる貴族の男性はたくさんいらっしゃって、私はただでさえ、女性貴族から目の敵にされていて居づらいのに。
『ざまあ』を回避する為、私はフィオリーナさまに面会を求めました。
私はオズワルドさまの正妃になりたいなんて身の程知らずな事は思っていないと伝える為に。
フィオリーナさまは金の髪の美しく穏やかな方。
「そなたがエリアナ? 名前はよく聞いていました。オズワルドさまからも。想像通りに優しく謙虚な人柄のようね」
「えっ、オズワルドさまからも……?」
「ええそうよ。オズワルドさまとわたくしに隠し事はないわ。オズワルドさまがそなたを愛し、正妃にと望まれている事も知っています」
「……! わ、わたくし、そんな事は望んでおりません! しがない平民ですもの!」
「エリアナ。オズワルドさまは、周囲が認めない結婚をごり押しするような愚かな方ではないわ」
「えっ……そ、それはそうでしょうけれども……」
「良い方法があります。わたくしはこれから、そなたを暫く苛めます。服を破いたり、悪評を撒いたりします。ああ、でも服は弁償するし、皆には裏できちんと真実を伝えておくから心配しないでね? 階段は危ないからやめておくわ。それで、そなたが卒業パーティで、わたくしを断罪すれば良いのです。わたくしは、言いがかりだと、証拠もないのにと泣いて、そなたを、オズワルドさまを誑かした頭からっぽヒロインとして『ざまあ』します。でも、そこで本当にわたくしがそなたを苛めていたという証拠や証人が出れば、そして追い詰められたわたくしが罪を吐けば、逆にわたくしは悪役令嬢として追われるでしょう」
「あの……仰っている意味がよく……」
「あら、知らないの? じゃあ、そのジャンルの小説を貸してあげるからよく読んで、ヒロインぶりを身につけておいてね?」
「……」
何だかよく解らない事になりました。
その後、『ざまあ』と『悪役令嬢』について知った私は、フィオリーナさまはどうなるのかと心配になりました。
でもフィオリーナさまは笑って、
「オズワルドさまとも相談済よ。わたくし、オズワルドさまは幼馴染として大好きだけれど、本当に結婚したいのは弟のエドワードさまなの。オズワルドさまはわたくしを学院から退学にして、ほとぼりが冷めれば、わたくしはエドワードさまと婚約出来る手筈になっています。周囲の人は皆事情を知って、協力的になってくれているの。そなたの素行や成績は調査されて、国王陛下ご夫妻も、そなたを王太子妃としてお認めです。身分は、わたくしの両親が、わたくしの苛めの詫びとしてそなたを養女にすると言っています。両親としても、わたくしの幸せを望んで下さっているし、養女が将来の王妃、娘が王弟妃ならば文句はないわ。そなたの実家も引き上げられるし、そして、ふふっ、エドワードさまもすごく喜んでおられる。この『悪役令嬢・ざまあ』はとても素敵で誰もが幸せになれる物語なの」
―――
そして、全てはフィオリーナさまの描いた筋書き通りになりました。
王太子の婚約者になった私は、義理の姉妹として、今日もフィオリーナさまと仲良くお茶しています。
私たちは本当の姉妹みたいに仲良くなって、誰もフィオリーナさまを『悪役令嬢』とは思っていませんし、私を『頭からっぽヒロイン』とも思っていません。
皆から祝福され、それぞれの婚約者にとても愛されて、私たちは幸せな未来へ進みます。