里美の死
佐久間と山川は、捜査本部に戻って、本部長に一連の経緯を説明した。
「すると、飯島里美は事件に巻込まれた可能性が高い。そう言いたいのかね?」
佐久間が回答する。
「はい。犯人は、河村正利に恨みを持ち息子の忠明や飯島里美に近い関係者と思われます。もし、里美が事件の核心について気が付いたとして、犯人に近づいた場合、十中八九消されてしまうでしょう」
「里美が事件の真相に近づくことはあるのかね?」
「息子の話を聞く限りでは、殺された正利と里美は、会ったことがないようです。だとすれば、正利ではなく、忠明が目的なのかも知れない。これなら、彼女である里美を呼び出す道理が立つ。逆を言えば、二人の関係者である可能性が高いと言えます」
「では、飯島里美の居所は、二人に関係した人物が知っている可能性もあるという事だな」
本部長は、無線で各捜査班に伝令した。
「各班は、全力で飯島里美の行き先や行動パターンから、怪しい所を洗え。河村忠明の関係者も同時に洗え。二人の接点からもアプローチして、犯人像を割り出すんだ」
「佐久間警部、残った我々は、会議で事件について、もう一度整理だ」
〜 一方、その頃 〜
忠明は、職場に復帰していた。
里美がいつ現れても大丈夫なように、職場に待機するつもりだった。
「忠、無理はするな。今日葬儀だったんだろう?こんな日に仕事なんて・・・」
「・・・トシ兄。ありがとう。いいんです。今、俺に出来ることをしないと。里美がきっと心配すると思うから」
「里美ちゃん、最近見かけないな?喧嘩でもしてるのか?いつもは、あんなにお前にベッタリなのに」
「・・・いえ。お店の方が忙しいから」
忠明は、気丈に振る舞って、周囲に悟られ
ないように。それしか出来なかった。
(里美、頼むから無事でいてくれ。失くすのは父さんだけで沢山だ。お前まで失いたくない)
二十時二十分。仕事が終わり、帰宅した所に、忠明の携帯が鳴った。里美からの着信だ。
忠明は、犯人からかもしれないと、一瞬身構え、そして冷静を保つように、口で息を一呼吸吐き出してから、電話に出た。
「・・・タッくん?」
「里美?・・里美か?無事なのか?」
「・・・声が聞けて良かった。・・・タッくん、あのね」
無情にも電話は切れた。
「もしもし、里美?もしもし!」
忠明はリダイヤルで何度も、電話をするが
『お掛けになった電話番号は、電波が届かない場所におられるか、電源が入っておりません』しか応答がない。
(・・・・里美)
これが、二人の最期の会話となった。
数時間後、佐久間から電話が入った。
・・・里美の死を告げる電話が。