介護ヘルパー
次の日曜日。
忠明と里美は千葉県北柏駅に来ていた。
ここには、東京慈恵医大附属病院があり、この大学病院に忠明の母親、貴子が入院している。
「お母さん、中々退院出来ないね」
「ああ、でも抗ガン剤が効いて、腫瘍が小さくなったから、やっと手術出来たんだ。助かったよ」
受付で、面会証を受け取りC棟病棟に向かった。
「母さん、具合はどうだい?」
横になっていた貴子は、息子の声を聴くとパッと表情が緩んだ。
「まあ、里美ちゃんも。ありがとね。忠明、みんなに迷惑掛けてない?」
「掛けてないと・・・思う」
「いえ、お母さん、大丈夫ですよ。ご無沙汰しています。これ、母からです」
里美は、和子から渡された見舞いのお茶を貴子に差し出した。
「まぁ、和子ったら。私の好きなお茶覚えていてくれたのね。嬉しいわ。よろしく言ってちょうだい」
「はい、わかりました」
「母さん、医師からも聞いたよ。順調だってね。あと一ヶ月の辛抱だよ」
「・・・頑張るわ。退院したら、早く家に帰って掃除やら庭手入れやらが溜まっているから、ウズウズするの」
「・・・父さんは?また研究?」
「タッくん?」
「・・・いいのよ、里美ちゃん。父さんは相変わらずよ。研究しか能がないの。仕方ないわ。悪く言わないで。ねっ」
「・・・わかったよ。母さん」
三時間ほど、病棟に滞在し、忠明達は病院を後にした。
「タッくんは、お父さんのこと、いつも良く思わないのね。だから、反発して大学院に行かなかったの?」
「それもあるよ。でも考古学の教授になるよりも、母さんの介護をしたかったんだ。介護ヘルパーは、給料安いけどごめんな」
「いいわ。あなたの好きな事をして。私は好きで黙って付いていくから、気にしなくていいのよ」
二人は、腕を組んで、川沿いに遠回りしながら、駅まで歩いた。