飯島家
十九時すぎ。
仕事を終え、曳舟駅から東武スカイツリーライン線で二駅移動し、浅草駅で下車。
そこから、路地伝いに歩いていくと、『お茶の飯島』老舗の茶店がある。
そこが、里美の実家である。
浅草寺からも近く、浅草二丁目の中でも、お茶の品質に定評が高く、常連や一見さんが集う、繁盛店だ。
「こんばんは。おじさん。いつもスミマセン。お言葉に甘えて来ました」
「おー、来たか、忠明くん。おーい、里美!母さん!未来の若旦那が来たぞ!」
店の奥から、里美が出迎えた。
「おかえりなさい、タッくん。今日もお疲れ様でした。もうすぐ、閉店だから先に奥で母さんと話してて。私は、お父さん手伝うから」
「ただいま、里美。うん、わかっよ」
店の奥に歩いていくと、突き当たりが食堂だ。
和子は、夕飯の用意をしていた。
「こんばんは、和子おばさん。いつもスミマセン。助かります」
「おかえり、タッくん。いいのよ。未来の息子が遠慮しないの」
和子は、上機嫌で食事の準備を進める。
いつものように、忠明は全員分の食器を並べている所に、正志と里美が、店から上がってきた。
「はい、ちょうど出来たわ。みんな座って。頂きましょう!」
家族揃っての団らん。
正志は、上機嫌で酒を飲み忠明に尋ねる。
「忠明くん、こいつとはもうヤッたかね?」
忠明は、思わず酒を吹いた。
「もう、お父さん!食事時に何を?」
「何を言ってるんだ?忠明くんは、若旦那。いつでも里美をくれてやると言ってるんだ」
「はあ。まだ半人前なので。やっと仕事も慣れたばかりです。もう少し、里美には待っていて欲しいかなと」
「そうですよ、あなた。貴子からも、一人前になるまでは、甘やかすなと言われてるんですから。まだ結婚はいいんじゃないかしら?里美もまだ二十歳だし」
「和子おばさん?母さんから電話あったんですか?」
「ええ。元気そうだったわよ。来週顔出すんでしょ?会いたがってたわよ」
「はい。日曜日に里美と見舞いに行こうかと思ってます」
「そう。貴子に会ったら、来月には私も顔出すよと伝えてね」
「はい、ありがとうございます」
飯島家の楽しい団欒時間がそっと流れて、心地よい雰囲気で忠明も疲れが取れるのであった。