和子の告白
飯島正志の最期のから二日が過ぎた。
静かになった捜査本部で、飯島和子の事情聴取が始まった。
飯島和子の希望で河村忠明も同席した。
話の前に、佐久間は深く頭を下げた。
「この度は、ご主人と娘さんの両方を救えなかったことについて謝罪します」
「・・・いいんです。」
「それでは、事情を聴かせて頂けます」
「その前に・・・。タッくん。この話はあなたには酷な事実になるけれど、聴く覚悟はある?心の傷は、一生消えはしないわよ?それでも聴くのなら、この場で全てをお話しいたします」
忠明は、躊躇った。
数分迷って、膝が震え出した。
しかし、膝を抑えつけて顔を上げた。
「腹を決めます。聴かせてください」
「・・・わかったわ。里美の出生の秘密なの。私は、二十年前にあなたのお父さん、つまり河村正利と付き合っていたわ。・・・不倫よ。その時に身籠もったのが、あの子なの。つまり、里美はあなたの、母親違いの妹なの」
「ーーーーーー嘘だ。嘘だ。嘘だ!」
「・・・・ごめんなさい」
「あの子を身籠もったまま、あの人とは別れたわ。私しか知らない秘密。上手くいくと思ったわ。飯島正志の娘として育てるつもりだった。だって、飯島にはすでに別れた奥さんに子どもがいたの。でも、私との間には出来なかった。だから、里美が出来た時は本当に
嬉しかった」
「勝手に産んで、勝手に育てたのか?」
「・・・そうなるわ。でも、誰に何を言われようと、私はあの子を選んだわ。でも、十数年経って、あの子があなたを私の前に連れて来た時、一目であなたが河村正利の息子だとわかったわ。そして、運命の糸はやはり、続くと思ったの。私の勝手な考えだけれど、あなた達なら、運命に負けないで私が叶えられなかった絆を二人で築いて欲しかった」
「・・・・ありえないだろ」
「そう?私は少なくても、本気でそう思ってたわ。あの子が、何千何万といる男の子から、あなたをピンポイントで見つけたのよ。我が娘ながら、見る目があると思ったわ」
「狂ってるよ。和子おばさん・・」
「そうかも、知れない。飯島が、里美のことをどこで、いつ知ったのか知らないけれど、きっと私の知らない所で、DNA鑑定でも行ったんじゃないかしら。いつだったか、急に飯島の態度が冷めたから」
「・・・もう、十分です。わかりました。心を整理するには、時間が掛かりそうです。でも、里美の月命日には、伺います」
「佐久間警部、今まで里美共々、本当に捜査して頂きありがとうございました。里美はこの世を去りましたが、お礼しか言えません」
「忠明くん。君はまだ若い。人生は何度でもやり直せるんだ。だから、後追いなんて馬鹿な考えは起こしてはダメだよ。今日はゆっくり眠りなさい」
「・・・はい」
河村忠明は、無言で帰って行った。
佐久間は、忠明のうしろ姿を眺めながら和子に尋ねた。
「・・・これで良かったんですか?」
「はい。あの子が私を恨んでもいい。生きていてくれれば。後悔はしません」
「・・・河村正利さんを心から愛しておられたんですね」
「・・・はい。貴子には、悪いけれど私の大事な最愛の人でした・・・」




