新たな疑惑
佐久間は、あと一歩の所で犯人を挙げられなかったことを悔やんでいた。
しかし、一連の殺人事件は近藤俊彦が刺殺された事で、終息ではなく、新たな疑惑へと変わったのだ。
「山さん、この殺人は私怨によるものなのか、口封じのどちらになるのかな。前者なら、飯島正志や河村忠明、または縁者が考えられる。後者なら、近藤俊彦から新たに追いかけるしかあるまい」
山川は、少し考えてから、口にした。
「もし、前者なら、近藤俊彦を刺して現場から逃走するでしょうか?仇を討て満足し、その場で逮捕されても、動じない気がします。私ならそうします」
「山さん、ありがとう。参考になるよ。もう一度、近藤俊彦の遺留品や部屋を捜索して、手掛かりを洗おう」
翌日、朝から佐久間と山川は近藤俊彦の部屋を捜索していた。
昨日の司法解剖で、飯島里美の体内から検出された体液が、近藤俊彦のものである事が判明した。
また、河村正利の衣服に付着していた成分についても、近藤俊彦の衣服と成分が一致した。
「これで、近藤俊彦が二人の殺人事件の実行犯で間違いないですな。」
「ああ。後は裏で操ってる黒幕を探し出さなければならないね。・・・ん?山さん、昨日の刺殺される一時間前に誰かと話をしているね」
「掛けてみますか?」
「この携帯ではなく、公衆電話からにしてみよう」
山川は、公衆電話から、履歴の携帯に掛けてみたが、応答はなかった。
「電話会社で詳しく調べてみよう」
佐久間たちは、近藤俊彦の家宅捜査を他の刑事に任せ、電話会社に向かった。
調査の結果、何と飯島正志が浮上した。
「どういうことだ?何故、実行犯と被害者の父親が、このタイミングで繋がる?」
「警部、二人の関係を洗いましょう」
佐久間たちは、近藤俊彦の過去の通話履歴や銀行口座、戸籍、聞き込みを念入りに行い、全貌が少しずつ判明してきた。
近藤俊彦と飯島正志は、昔から関係があったのである。
まず、通話履歴から、飯島里美が失踪した時点から殺害される時点まで、二人は連絡を取り合っている。
次に飯島正志から、近藤俊彦に対して定期的に二十万円ずつ送金されたことが判明。
戸籍を調べた結果、近藤俊彦は飯島正志の子であることがわかった。
飯島正志が現妻の和子と籍を入れる前、近藤智美と結婚しており、その時の子供が近藤俊彦だ。
「驚きました。こんな繋がりとは」
「驚いたね。飯島正志は、実の子供に腹違いの子供を殺させたのか?でも、何故、河村正利を殺害させた動機がわからんね。周囲の聞き込みからは、河村忠明を将来、婿養子にして店を継がせようとしていた程、仲が良かったらしい。理解に苦しむよ」
「警部、飯島正志を逮捕しましょう」
「そうだね。裁判所に逮捕状を請求しこの事件を終わらせよう」




