新たな犠牲
曳舟で、近藤俊彦の住所を聞いた佐久間たちは、その足で南千住の近藤を訪ねた。
何度ドアを叩いても不在であるため、大家に鍵を開けて貰い、踏み込んだ。
部屋はもぬけの殻で、貴重品等はなく逃げ出した後のようだ。
また、部屋には監禁に使用したと思われる縄や手錠、里美の携帯などか残されていた。
「やはり、近藤俊彦が犯人か。山さん、至急本部に連絡し、非常線を!」
山川は、パトカーの無線機で連絡。
「こちら、三合車。緊急連絡。河村正利及び飯島里美殺害事件の犯人を近藤俊彦と断定。速やかに非常線を張り犯人確保の要請をお願いしたい。繰り返す・・・・」
捜査本部に戻った佐久間は、本部長に近藤俊彦の部屋を家宅捜査した結果を報告した。
「やはり、近藤俊彦が犯人です。非常線に掛かってくれれば良いのですが」
佐久間と山川は、車での移動を洗うのは別の班に任せ、交通機関での逃走を図ったか各鉄道事業者に防犯カメラによる録画の開示を求め、確認作業を行った結果、近藤はの足取りがわかってきた。
防犯カメラの記録から、近藤俊彦はまず南千住駅で、常磐線普通列車に乗り、北千住駅で常磐線快速に乗り換え、成田方面に向かった。
「警部、ここまでは何とか判明しました。しかし、この常磐線は水戸行きと成田行きで我孫子駅でルートが分かれます」
佐久間は、駅舎の駅員に尋ねた。
「この映像の記録時間に写っている電車は水戸行き、成田行きどちらの常磐線かお分かりになりますか?」
駅員は、列車ダイヤ表を取り出して、
「ああ、この時間なら、成田行き快速です」
「警部、やりましたね」
「ああ、問題はここからだ。我孫子駅から成田駅までの各駅で防犯カメラの記録を捜査班を総動員して、至急確認しよう」
二時間後、成田線の下総松崎駅で記録確認を行っていた捜査班から、連絡が入った。
駅員が、近藤俊彦を見ており、覚えていたらしい。
佐久間たちは、下総松崎駅に向かい、駅を出た所で、思わず立ち尽くした。
下総松崎駅は、周りが広大な田んぼなのだ。
「警部、近藤俊彦は、この田舎でどうするつもりなのでしょう?普通身を隠すなら都会に紛れた方が見つかりにくいと思いますが」
「何かあるな。田舎は防犯カメラが少ない。死角を突くのかもしれないね。聞き込みをしてみよう」
聞き込みの結果、タクシーの運転手が近藤俊彦を一時間くらい前に乗せたらしい。
「運転手さん、すぐ同じルートを走ってください。お願いします!」
タクシーは、佐久間たちを乗せ、急発進した。タクシーの中で事情を聴く。
「運転手さん、この写真の男は、どこに向かったんですか?」
「成田湯川駅です」
「成田湯川駅?成田駅の近くですか?」
「いいえ。成田駅近くは近くですが、鉄道駅での直結はしてないですよ。JRとこの駅が直結していたら、便利なんですが。この駅は、京成本線が走っていて、成田スカイアクセス線なら、日暮里駅から成田空港第二ビル駅まで、確か三十分以内に着くと思いますよ」
「ーーーー!しまった。」
「警部?どうされました?」
佐久間は、捜査本部に連絡し、警視庁から成田空港に要請し、近藤俊彦の身柄を見つけ支度、確保する旨を依頼してほしいと少し早口ぎみに話した。
「やられたよ。間に合えばいいが」
「・・・?どういう事です?」
「成田空港には、南千住駅からなら、単純に日暮里駅まで行き、成田スカイアクセス線で成田空港に向かえば早い。しかし、近藤俊彦は防犯カメラから足が付くことを想定したのだろう。このスカイアクセス線に乗れば、成田空港に向かうのは、明白だ。だから、わざと一度常磐線で時間を掛けてでも、下総松崎駅に向かい、タクシーに乗り換え、成田湯川駅から、成田空港第二ビル駅に向かったんだ。地域を知っていないと、中々出てこない発想だ。おそらく、捜査の手が自分に伸びて来たのを、忠明を観察して察したのだろう。頭の切れる犯人だ」
タクシーで、成田湯川駅に到着した佐久間たちは、急ぎ電車に乗り込もうとした。
しかし、電車は三十分に一本の間隔でしか来ない。
佐久間たちは、約十二分、この駅で足止めとなった。
『さっきのタクシー運転手の話だと、一時間前くらいと言っていたな。うまく時間が合わなければ、この駅で三十分は足止めされたはずだ。果たして、高飛びを止められるか?』
その時、佐久間の携帯に、本部長から連絡が入った。
「佐久間警部、成田空港で近藤俊彦の身柄を確保した。今何処にいる?」
「間に合いましたね。今、成田湯川駅です。あと数分で電車に乗り、空港第二ビル駅に向かう所です」
「急いでくれと言いたい所だが、電車だから無理か」
「どうかされましたか?」
「身柄を確保出来たようだが、刺されているようだ」
「ーーーー!どういう事です?」
「成田空港のチケット売り場で、何者かに刺されて倒れたところを、成田空港職員が発見し、近くを捜索していた警官たちが駆け付けた模様。なるべく早く現場に到着してくれたまえ」
「わかりました」
「警部、どうされました?」
「近藤俊彦が、チケット売り場で、何者かに刺されたらしい?」
「何ですって!」
「とりあえず、現場に向かおう」
佐久間たちは、成田空港に到着した。
すぐ待機していたパトカーで、搬送された病院に向かった。
「君は、刺された状況を見たのか?」
「・・・はい」
「話が出来る状況か?」
「わかりません。既にグッタリとしてましたから。厳しいかもしれません」
「・・・そうか、ありがとう」
佐久間たちは、あと一歩の所で間に合わなかった。
搬送先の病院で、近藤俊彦は死亡が確認された・・・。




