包囲網
翌日の十時に、佐久間は電話会社に赴き、忠明と里美の通話履歴から、二十時二十分の居場所を割り出した。
確かに、忠明の供述通り、二人は通話をしていたようだ。
この時の二人の居場所は、曳舟駅から南へ二キロの箇所と南千住駅から一キロといった所である。
佐久間は、それぞれの箇所へ行き、実際に歩いて検証した。
曳舟駅から通話ポイントまでは佐久間の足で約二十五分。
また、南千住駅から通話ポイントまでは約十三分。
更に、通話ポイントから、遺体発見現場までは約十八分であり、合計で約五十六分。
自転車を利用した場合、曳舟区間は、約十三分であり、南千住区間は、約七分。
通話ポイントから遺体発見現場までは自転車を利用しないと考えて約十八分、合計で、三十ハ分。
次に検証したのは、移動手段だ。
各駅間は、電車のはずである。
徒歩の場合と自転車の場合をそれぞれ加味した電車発着時間を割り出した。
ケース1 東京スカイツリーライン急行、東京メトロ日比谷線で約十五分。
ケース2 東京スカイツリーライン急行、つくばエキスプレスで約十六分。
ケース3 東京スカイツリーライン急行、常磐線快速で約十八分。
最短の移動時間は、五十三分=約一時間
二十時二十分に通話ポイントから、里美を殺そうと動いても最短で二十一時十七分。
警官が遺体を発見したのが、二十一時十三分だから、間に合わない。
司法解剖からも、死亡推定時刻は、二十時四十分前後だったから、物理的に不可能だ。
逆を考えると、二十時二十分から二十時四十分間の二十分しかない時間のなかで里美を殺害しようとすると、二十時二十分前後に、通話ポイント付近にいなければ、不可能である。
(ということは、犯人は、忠明と里美の顔見知り、かつ、南千住付近に家がある人物だ。里美を三日監禁する必要もあるため、殺害現場から徒歩二十分前後に住む者、あるいは通話ポイント付近に住む者か?)
佐久間は、山川に電話を入れた。
「山さん、犯人像が見えてきたよ。すぐ戻る。河村忠明は無実だよ。但し、彼に聴かなければならないことがある。そのまま、拘留をしていて欲しい)




