忠明と里美
「タッくん!お昼だよ?」
介護ヘルパーで、休み無しで働く河村忠明に今日も恋人の里美が弁当を届ける。
「もう、お昼か?いつも、サンキューな」
安月給のため、一円でも節約したい忠明を
里美は優しく助け、もう一年にもなる。
どんなに助かっていることか。
「里美ちゃんも、こっちへどうぞ。食べて行くんでしよ?席空けたわよ!」
「えへへ〜。スミマセン」
周囲にも、すっかり顔馴染みだ。
忠明に昼飯を届けるだけでなく、人手が足りない時には、気さくにお年寄りの散歩を手伝う姿勢に、たちまち人気者だ。
中には、里美をヘルパーだと勘違いし、わざわざ電話で指名してくることもある。
「忠、ホントお前には勿体無いな。この幸せモンが?泣かしたら、承知しないぞ」
「トシ兄、茶化さないで」
「アハハ。里美ちゃん、ごゆっくり。忠、昼から浅草一丁目の清水ばあちゃんの訪問に回るから、準備しておいてくれよ」
「はい。準備しときます!」
この業界に入って、忠明は一から十まで、この近藤俊彦に教わった。
近藤は、仕事の悩み以外にもプライベートな相談まで乗ってあげるため、兄弟のいない忠明にとって、肉親と同じくらい、この男を慕っている。
二人はいつものように、介護の合間に昼食を取る。
「今日は、夕飯どうするの?」
「・・・まだ計画中」
「どうせ、タッくんカップラーメンでしょ?母さんが、連れて来なさいって。今日はすき焼きよ」
「和子おばさんが?里美だけでなく、和子おばさんにも敵わないや。もちろん、顔出すよ」
昼食が終わり、里美はソソクサと帰り仕度をすると、忠明に誰も見ていない事を確認し、そっとキスをした。
「じゃあ、お仕事頑張って。また夜にね。あ・な・た?」
万遍の笑顔で里美は、自宅へ帰っていった。
「あいつめ。どこで覚えた?ここ数年で急に女房面だな。・・・まぁ、いいか。今日も、あと半日頑張りますか!」
こうして、忠明の一日は、平穏に過ぎるのであった。