10.とある観察者の報告
さて、ここいらで私の名前を記すことにしよう。
私の名前は壱獄煉荊。
“組織”の創始者であり、この滅んだ世界での仮の神であり、再建のストーリーを綴る記録者である。
この世界に生存しているほぼ全員が集まったところで始まったのは情報の共有会議だった。
まず共有されたのが、様々な出来事のほとんどの鍵となる、因縁との塊ともいえる我殿雹狼について。
次に猫神綾について。当然のことながら、ここで九十九雷が死亡した事実についても全員に告げられることになる。勿論、彼女を殺したのが猫神綾だということも。
猫神綾に関する話が終わると、次に月明葉折についての話が上げられようとした。
その瞬間、月明葉折が嘘誠院音無を襲ったわけだが、目覚めていた嘘誠院音無はそれを防ぐ。こうして対月明葉折の戦闘が開始した。
と、同時に話し合いには参加をしなかった猫神綾と雨宮雪乃の間に異変が起こる。
喧嘩。
雨宮雪乃はそう表現をしたが、猫神綾には確かな殺意があり、その激しさは正に殺し合いそのものだった。
さて、前述した通り月明葉折との戦闘が開始したわけだが、厳密に言えば相手は彼一人ではない。月明甲骨、月明五樹、九十涙目、九十怖目の四人も相手であり、五人とも薬による洗脳を受けている状態である。
ここでは、そんな五人の中でも一番特別であろう月明葉折との戦いについて記す。
月明葉折と対峙したのは嘘誠院音無。
嘘誠院音無は連続して技を繰り出し、最終的に鎖で月明葉折をがんじがらめにすることで無力化を図ろうとした。
だが、一気に多くの魔力を消費し過ぎて、これまでの傷口が開き、血液が流れる。その事については、戸垂田小坂に指摘されて初めて気が付いたようだ。
ちなみに、その隙に月明葉折は嘘誠院音無の鎖を素手で破壊している。中々の腕力だ。
植物を操ることができる月明葉折は、嘘誠院音無、戸垂田小坂の近くに生えていた樹木で攻撃を仕掛ける。それを嘘誠院音無は咄嗟に新たに編み出した技で凌ぐが、それは何が飛び出るのか分からない技だった。
嘘誠院音無の技の威力で三人は一度吹き飛ぶ。
その後、周囲の木の状態から、飛び出たのが凍る雷だったことを知る。
吹き飛ばされた戸垂田小坂は気を失い、月明葉折に殺されようとしていたが、それを昼夜海菜の刃が阻止する。
この時点で、既に他四人の制圧が完了していた。
昼夜海菜に嘘誠院音無を殺害する意思が無いことを確認すると、月明葉折はその場にいる全員を串刺しにしようと樹木を操り、その葉を刃に変えて降り注がせる。が、それを全て昼夜空美によって無限に武器を使うことができる昼夜海菜が切り伏せていく。
昼夜海菜に助けられた嘘誠院音無は、『月明葉折を殴ること』を提案し、昼夜海菜はそれを快諾する。
正面から月明葉折に向かっていく嘘誠院音無の身を案じる昼夜海菜だったが、それは杞憂に終わる。嘘誠院音無を貫こうとしていた葉は、戸垂田小坂の魔力を分断するメスによって、完璧なタイミングで貫かれた。
そして嘘誠院音無の頭突きが決まり、月明葉折は正気を取り戻すことになる。
一方、雨宮雪乃は正気を失った猫神綾と盛大な喧嘩をしていた。
怒り狂い、雨宮雪乃を殺さんばかりの勢いで攻撃を仕掛ける猫神綾だったが、攻撃を回避されるどころか、妹を殺した記憶がフラッシュバックしてしまう。
そんな猫神綾に雨宮雪乃が拳諸々を叩き込むと、猫神綾の態度は急変、一気に弱々しくなる。
そこから口論になるのだが、猫神綾が折れることはなく、再び攻撃を仕掛けようとする。
だが、そんな姿を見ても尚、親友を名乗る雨宮雪乃は強かった。
猫神綾の攻撃をものともせず、雨宮雪乃は猫神綾を叱責する。無理矢理目線を合わせ、現実逃避を続ける猫神綾に現実を突きつける。
そして最後は物理的な手段に出ることで、見事雨宮雪乃は猫神綾を正気に戻すことに成功するのだった。
場にいる全員が正気に戻ると、再び話を始めることになる。
さっきまでとは違うのは、話をするのが“組織”の創始者である壱獄煉荊と、それを補助する風見リユだということだ。
まず最初に伝えられたのは、壱獄煉荊がこの世界の仮の神であるという前提。
次に伝えられたのは、この場にいる者の大半が一度元の世界で死んだあとにこの世界に連れてこられたという事実だった。
それと同時に、源氏蛍仁王自ら、自分が次の神になる存在であることを明かされる。
ここまで事実が明かされると、一つの疑問が浮かび上がってくる。即ち、『戸垂田小坂は一体何者なのか』ということ。
先の戦闘で石碑に頭を強打し記憶を取り戻した戸垂田小坂は自らを『消えた前任の神』だと名乗った。
そして戸垂田小坂の過去が語られる。
戸垂田小坂の話が終わると漸く本題に移ることになる。
それはこれから対処すべき我殿雹狼について。全ての因縁を一つにまとめるときがきた。
更に我殿雹狼は人間ではなく、神のなり損ないであるという事実も告げられる。
彼に纏わる事実が揃うことで、彼の目的が明確になってきた。
神様の話が終わると、次に伝えられたのは、嘘誠院音無について。否、その召喚獣である嘘誠院狂偽についてである。
囚我廃人に倣って結論から言うと、嘘誠院音無はそのうち嘘誠院狂偽を召喚獣として従えることができなくなる、ということだった。
そして、『そのうち』は思いの外早く来ることになる。
束の間の休息。その中で猫神綾は自身のこれからを源氏蛍仁王に訊ねていた。源氏蛍仁王はそれに対して「今はない」と答え、猫神綾はその真意を概ね正確に把握する。
だから、嘘誠院狂偽に対する術が崩壊することに猫神綾はいち早く気付くことが出来たのだろう。
嘘誠院狂偽が独立することで更に大きな魔力を失った嘘誠院音無に応急処置程度の魔力を与えると、次に術式を破壊する雷を放ってこれから放たれようとしていた術を阻止する。
最後に猫神綾は昼夜空美のテレポートを使い、我殿雹狼率いる第三部隊に立ち向かう。
尚、ここで感情を取り戻した猫神綾が己の感情に気付くことが出来たことについても記しておこう。
テレポートにより森の外へ出た嘘誠院音無たちは、囚我廃人の持つ魔力探査機によって状況を理解する。そして、森の中へと再び戻ろうとする意見も出たが、囚我廃人はそれを拒否。襲いかかってきた嘘誠院狂偽の刃を受け止める。
実は、囚我廃人はこうなったときのために作品No.2と作品No.3のベルとクレアを嘘誠院狂偽にけしかけていたのだが、呆気なく破壊されてしまう。
また、黒岩暁、昼夜海菜、戸垂田小坂、雨宮気流子を次々と捩じ伏せ源氏蛍仁王を連れて嘘誠院狂偽は姿を消した。
さあ、決戦のときがきた。
これに失敗すれば、永遠にこの世界が再建することはないだろう。
だが私にはこの戦いに参加する権利はない。私はただ見守り、記録するだけの役目だ。




