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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
内戦
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2.嘘誠院音無

 目が覚めたのはほんの数分前だった。

 偶然、身体の痛みで起きてしまったのだ。だけど会話に参加する気にはなれなくて。というか、みんなが何の話をしているのかさっぱりわからなくて。だから黙って風景を楽しんでいた訳なんだけれど、奥の木が不自然に揺れるのが分かったのは幸運だったと思う。

……あえてそんな揺れを残して、僕に気付かせたのだろうか、なんて思ってしまわなくもないけど。

 なにがともあれ、お陰で命拾いした。気付かなければ、少しでも遅れていれば、ぶっ刺されていたのは間違いない。


「おかえりなさい、は……もう少し、後、みたいですねッ!」


 叫びながら僕はナイフを振るった。

 女装をしていなくて、髪の毛がボサボサで、真っ黒な服をただ着ているだけで、僕に何の興味も示してくれない彼に『おかえり』なんて口が裂けても言えない。「全員殺ス」? なんですかそれ。いかにも操られてますって口調は。

 降り注いでいた葉の刃も止まった。なんで猫さんがあんなになってるのか気になるところではあるけど、今は師匠の言うとおり雪乃さんに任せよう。僕たちは、葉折君を迎え入れるんだ。

 他の四人も操られてこの戦闘に参加してきたみたいだけどそんなの眼中にない。そもそも向こうが僕をご指名なのだから、ご要望に応えてやろう。


「いきますよ、葉折君ッ──『回宙刃(ジャグリング・ナイフ)』!」


 いつもより小さいナイフをいつもより多く召喚してまとめて葉折君めがけてぶん投げる。案の定全部弾かれるけど、そんなの分かってる。気にしないで次弾を放てばいい。この森のなかじゃ手数で押す以外に葉折君に勝つ方法がない。森全体が武器になってしまうのだから。


「『四神姫札(アリス・トランプ)』!」


 でも、武器量の多さなら負ける気がしない。体術に長けてるわけでも、バカみたいな魔力量があるわけでも、一撃必殺的な力を持っているわけでも、天才的になんでもできるわけでもないけど、同じものを大量に召喚することならできる。

 そして僕の召喚術の最大の長所は、召喚したものがなかなか消えないこと。ナイフもトランプも、出せば出した分だけしばらくその場に留まり続ける。

 ナイフとトランプを大量に放って防がれながらも、僕は徐々に葉折君との距離を()()()()()。大量に残ったトランプとナイフが円を描くように散らばってるので、その円の外に出ることが目的だ。きっと、葉折君はまだ僕の狙いに気付いていない。

 今だ!


「『鎖ノ罠(チェーン・トラップ)』、『鎖ノ嵐(チェーン・ストーム)』!」


 円の外と思わしきところから出た瞬間、僕は二つの術を立て続けに発動させる。鎖が飛び出す場所はナイフとトランプすべて。葉折君が防いでその辺に刺さったり転がったりした全てのナイフとトランプから鎖が一斉に葉折君めがけて伸びて嵐を巻き起こす!

 こんな魔力の使い方をしたのは初めてだ。バカみたいに後先考えず一気に使いすぎて、自分の中の魔力がもうすっからかんになってしまっているのがよくわかる。お陰で脳がぐらぐらと揺れて酔いそうだ。熱中症に似たような感覚がする。


「う、お、おお、おおおおッ!」


 それでも気力で術を継続する。葉折君を休ませてはいけない。きっと彼はこの鎖の嵐の中でまだ抵抗を続けているのだろうから、せめてその抵抗が出来なくなるまでは術を維持し続けなければ。

 鎖でかんじがらめにして動けなくした状態で師匠にパスして洗脳を解いてもらう。さあ、根比べだ!

……なんて、格好つけたのはいいものの、既に目が霞んでいる。地面が揺れているような感覚がしてきた。既に危ういなんて、笑ってしまう。


「ッ、バカかお前!」

「え?」


 どこまで保てるだろうか──なんて考えていたのだけど、唐突に腕を掴まれて怒気の孕んだ声を浴びせられることで僕の集中は途切れた。

 一度瞬きをしてみると霞んでいた視界がクリアになって、眉間にシワを寄せながら僕の腕を掴んで怒っている小坂くんの顔が見えた。掴んだ腕からはポタポタと血が滴り落ちている。


「──え? 血?」

「まさかとは思ったが気付いてねーのか、よッ!」


 僕の腕を掴んでいるのとは反対の腕を小坂くんが振るうと、バツンとかバキッとかそんな音がして足元に真っ二つに折れた枝が転がった。

 数秒してからそれが葉折君の攻撃であることに気付く。下手すれば身体の何処かにこの枝が深々と刺さっていたかもしれない。いや、既に刺さっていて、この滴る血はそのせいで流れている?


「そうじゃねぇよ、バカ。無理のしすぎで傷口が開きまくってんだ。とりあえず──」


 逃げるぞ、と小坂くんが言ったのは聞こえなかった。タックルの要領で僕の腹めがけて飛んできた小坂くんの右肩をかわすことなど出来ず、傷口が開きまくってる人間に与えるようなものではない衝撃で意識が飛びかけた。

 僕の意識を飛ばさずに引き留めてくれたのは、直後に響いた金属の砕ける音だった。音のした方を見てみれば、僕の狙い通りがんじがらめにされていた葉折君が素手でバキバキと鎖を破壊していた。


「うっわゴリラかよあいつ……」


 僕を担いで走れるだけの力は持っていないらしく、小坂くんは僕を下ろしながらげんなりした声でそう呟いた。多分ゴリラじゃ済まないですよ、小坂くん。


「……八ツ裂キニシテヤル」


 小坂くんがゴリラなんて言うから葉折君が怒ったじゃないか。ずっと無言だったのに急に口を開くなんてそうにきまってる。小坂くんのせいだ。

 なんて、悠長にも言ってられない。僕たちの目の前にある木が大きく枝をしならせて、僕たちめがけて降り下ろしてきたのだから。

 逃げるなんて間に合わない。どうにかして降り下ろされる枝を受け止めるなりなんなりしなきゃならない。


「こんッの……! 『道化ノ砲撃(ピエロ・バズーカ)』!!」


 魔力がすっからかんだとかなんとか言ってる場合じゃない。絞り出す絞り出せ!

 空美さんと仙人さんの技をヒントに修行中編み出したこの術は、とりあえず何か適当に召喚してぶっぱなすという最高に雑なもの。だけどこれぐらいしか枝をどうにかする方法が思い浮かばない。


「うおぉ!?」

「ぐっ……!」


 何が飛び出たのかも分からない。分からないまま僕たちは爆風に吹っ飛ばされて、軽く背中を打ち付けて倒れた。痛い……けど、あのまま潰されるよりはマシかな。


「いてて……」


 ヨロヨロと立ち上がると、目の前には焼け焦げてガチガチに凍った不思議な状態の木が見えた。ハハ……なるほど、それが出たのか。修行中はいくら出そうとしても出なかったのに、こういうときに出るんだなぁ。そして相変わらずこれが猫さんの魔法なのかそうでないのかが分からない。助かったのは確かだけど。

 今はそんなこと、どうだっていいや。

 それよりも、いよいよ今ので魔力がなくなった。回復するまでしばらくの間は術を全く使えない。根性でどうにかなるものでも無さそうだ。となると、どうやって葉折君を止める? 渾身の鎖がんじがらめ攻撃はアッサリと筋肉に負けてしまった。そんな筋肉相手に、僕が肉弾戦で勝てるわけもない。……何か、何かいい案はないのか。そうだ、小坂くんなら何か思い浮かんでないだろうか。

 と、完全に他人任せな思考に至りながら僕はやっと小坂くんの姿が見えないことに気付いた。どうやら一緒に飛ばされた気でいたけど、別方向に飛んでいたらしい。え? 不味くないか、それって。

 基本的に小坂くんは戦闘に使える術を持っていないのだから、一人でいるところを葉折君に襲われたら防げるわけもない。しかも、治療が出来る唯一の人間が動けなくなってしまうのは大変よろしくない。


「ッ、小坂くん、どこですかッ!」


 叫ぶ。だが返事はない。僕の声に釣られて葉折君が飛び出る様子もない。不味い不味い不味い不味い!


「小坂くんッ!」


 傷口が開きまくってドバドバと血が溢れる身体に鞭打って走り出す。まずはあの焼け焦げて凍った木の元へ。そこから小坂くんを探す。


「──全く、手を焼かせるな」


 木に辿り着くと直ぐに小坂くんは見つかった。葉折君もいた。

 小坂くんは石碑にもたれかかってぐったりとしている。もしかしたら、頭を打って気を失っているのかもしれない。

 葉折君は、そんな小坂くんの喉元を木の枝で貫こうとしていた。だけど、それは出来ず、木の枝を振りかぶった姿勢で制止していた。


「月明葉折──上司として、命令しよう。今すぐに目を覚ませ」


 葉折君の喉元には銀色に光る刀の切っ先があった。それは少しでも動けば直ぐに葉折君の首を切り落とすだろう。


「あとは貴様だけだ」


 海菜さんはにこりとも笑わずにそう告げた。

 僕たちの後ろでは、確かに他四人の制圧が完了していた。

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