6.囚我廃人
荊が俺の部屋からでると、つっきーも盗聴をやめたらしくて魔力の反応がなくなった。そして俺は一人になる。
寂しくはないんよ? ただ、静かになったなぁって思っとるだけ。
娘のように可愛がってたアリスさんが死んだのは割と、いや、かなりのショックだ。アリス、ベル、クレアを三姉妹として作ったわけだけど……まさか一番頑丈に作ったアリスさんがなぁ……。ま、オトがあの技を使ったんじゃ当然っちゃあ当然の結果なんやけどな。
オトに召喚術のなんたるかを教えたんはこの俺や。だから当然、オトがどんな技を使ってくるのか、その技の対処法と弱点はほとんど把握しとるつもりや。ただ、オトがどれを使うんかは分からんかったなぁ。
オトが偶然にもあの右目をそういうものにしてしまったとき、俺はオトに『それを使うときは、自分が死ぬとき、どうしても殺さなきゃいけないやつがいるときにしろ』と教えた。死ぬと確信したとき、確実に助かることがないと確信したときに使えと。でなければ、無意味にオトが死んでしまうことになるから。
なのにあんにゃろう、こんなところで使いおった。まだまだお前は生きなきゃならんっつーのに。
生きてるからエエんやけどな。
「狂偽、なぁ……」
資料を適当に見ながら呟く。オトもとんでもないことをしやがったもんや。一番後悔してるんは他でもないオトなんやろうけど、俺もこの事態には責任を感じざるを得ない。
オトは愛されない子供だった。
それは兄である狂偽があまりにも出来すぎて、あまりにも他から好かれ過ぎていたからだ。
何でもできる狂偽と、何にもできないオト。
親として、そのどちらかに偏るのはあまりいいことではない。ましてや、片方を無いものとして扱うなんてもっての他や。けど、オトの両親はそうした。
オトを愛さず、食事を与えず、衣服を与えず、時には家から追い出し、終いには捨てた。捨てて、狂偽を愛するための金と引き換えに俺に実験体として売った。売りやがった。
あの日、俺がオトを買うことを拒んでいたら、オトはどうなってたのやろうか。他の誰かに売られてたのやろうか。もっと高い額で臓器を売られていたかもしれない。そう思うと、俺がオトを買うのは正しかった。そう思える。せやけど、それは俺が、俺の行為を正当化したいだけや。正当化して、自分は悪くないんやと罪悪感から逃れたいだけ。
オトはいつも兄である狂偽を恨んでいた。でも同時に尊敬もしていた。何でもできる彼を、兄として誇りにも思っていた。しかし残念なことに、オトの中では彼を恨む気持ちが余りにも大きすぎた。そりゃそうだ、狂偽さえいなければ、きっとオトはもっと幸せな人生を歩むことができたのだろうから。両親に愛され、食事を与えられ、衣服を与えられ、自分の居場所を持てる。そんな生活を送れただろう。
ああ、全く。そんな少年に、召喚術なんてもんを、召喚獣なんてもんを教えたんは誰だ。俺や。
お陰でオトは最も憎い兄を、オトの知る限り最も力の持った兄を、自分の支配下に置くことを考えてしまった。自分が遣えるようになれば、少しは世界が変わるんじゃないかなんて考えてしまった。
ああそうさ、世界は変わった。滅ぶという形でな。
しかも、狂偽を召喚獣にしたばっかりにこんな面倒ごとに巻き込まれている。死にかけてすらいる。せっかく見つけた居場所を壊されようとしている。
「とことん上手くいかないやっちゃな」
笑い事ではない。しかも、俺も状況を把握できているわけではないが、命すら狙われている。
オトを殺せば狂偽も死ぬなんて考えたアホは誰や?
いや、そういうデマを流しておいて、狂偽を手に入れるのが本命か?
荊が動かない以上、俺は下手に動くことができない。荊の邪魔になっちゃあ元も子もないからな。……ったく、荊も荊や。どこまで見通してて、何を考えてるかまるでわからん。少しは俺に分かってることを言えっちゅーの。ま、それがタブーになるから出来ないんは分かっとるけどな。
資料を机の上に広げて、今度はしっかり見る。
そこにはオトの側についてる奴等全員のプロフィールが事細かに記されている。
「神様殺しに、神様に愛された子に、神様を降ろした子。ついでに神様みたいな力を持った子ねぇ。随分と濃い面子やな」
この中から新しい神様でも探すつもりなんかねぇ。いやー、流石に神様殺しが次の神様になるんは嫌やよ、俺。
この中で選ぶんとしたら普通は神様みたいな力を持った子にいくと思うんやけどな。でも荊が違うって言ったから違うんやろなぁ。
そうなるとあり得そうなのは神様に愛された子かな。でもこの子大分厄介なんよなぁ。そのうちちょっくらちょっかいでもかけにいくかなぁ。するとしたら急がないとならんけどな。
こっちの神様降ろした子は全くわからん。そもそもその片鱗が見えない。海菜っちに聞いた話でもその力を使った様子はなさそうやしなぁ。やっぱ、どうにかなったあとじゃないと分からんもんかね。その時がいつくるんかは知らんけど。
俺個人としては案外、時雨さんがそのポジションになるんやないかとか思っとる。
確かに時雨さんは俺が産み出した子や。俺の最高傑作っちゅーことになっとる。けど、それは少し違う。
時雨さんは世界が滅んだあの日に生まれた。世界が滅んだ日、オトが狂偽を召喚獣にした日。
あの日、神様はどういった干渉の仕方をしたんやろな。オトの術が上手くいくようにしたんやろうか。そうでもなきゃオトがほぼ無傷で狂偽を召喚獣にするなんてこと出来なかったやろうな。
けど、もしその神様の干渉がもっと大雑把なものだったら?
干渉できた範囲に、俺も含まれてしまったとしたら?
その結果、時雨さんが生まれたのだとしたら?
もしそうなのだとしたら、時雨さんは俺の子やない。神様の子や。次の神様になる可能性だって十分あり得る。
そうなったとき、つっきーはどんな顔をするんやろうなぁ。
世界が滅んで、一人ぼっちになったあとに出来たつっきーの家族のようなものが時雨さんや。家族のようなものか? もうちょっと特別な感情かもしれんなぁ。ま、その辺は置いておくとして。その時雨さんが手の届かない存在になってしまうとしたら、つっきーはどんなことを思うんやろうな。アイツもアイツで、上手くいかないやっちゃな。
「さて……」
広げた資料を片して、別のファイルに手を伸ばす。そこに入ってるのはオトの家の周辺地図。オトの家の目の前にある森まで詳細に記されている、この世界の為だけにあるものや。
次、いつオトのところへ仕掛けにいくのか、その日取りはもう決まっている。作戦も粗方決まっている。俺がやるべきことと言えば、権利を乱用してその戦いに便乗して潜り込み、オトに会わないようにして目的を果たすことや。
「ついでに、変なこと考えてる奴も見つけ出すかね」
きっと、次の戦いで全てが変わる。荊がそう仕込んでいるはずや。
もしかしたら、荊も次の戦いに顔を出すかもしれんなぁ。
ところで、九十九雷ちゃんはどこへいったんやろ? 海菜っちにはどうにかなるからいいとか言ったけど、そもそもあの子の行方誰も知らんな?




