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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
休戦
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3.戸垂田小坂

「まとめると、こんな感じ……ですね」


 “組織”での戦闘を、全員の話を元にまとめると空美は綺麗にホワイトボードに記した。ところでそのデカいホワイトボードはどこから持ってきたんだ。俺も音無も持ってなかった筈だぞ。

 ホワイトボードは戦った相手、使われた魔法や能力、戦いかたが簡単にまとめられている。ところどころ平仮名が目立つのはご愛嬌だ。空美の年齢を考えたらそんなもんだよな。

 そんなホワイトボードに書かれた内容は次の通りだ。


『①地下

 海菜【空間をきる】日本刀が無ければ発動しない。

   【日本刀】中に小刀がはいってた。

・へんな魔法じんを完成させろと言われた。

・魔法じんは気流子がぐちゃぐちゃにした。


 ②広間

 九十姉妹【お札】燃やしちゃったからわからない。

     【呪い】さわられると動かなくなる。どんなに攻撃してもたおれない。自分の攻撃がはねかえってくる。

 月明兄弟【砂】片方が使う。ナイフがのみこまれた。

 アリス【土人形】キョウギさんがほとんどたおした。

    【腕】外れてもうごいた。へんな術がくまれてる。

    【ナイフ】いっぱいでてくる。

 雷 よくわからない。ゲンジュツと岩をくだける。

・広間にはすでに雷がいた。

・天井からみんなでてきた。

・桜月は防火シャッターで足止めをした。

・海菜の日本刀は破壊した。


 我殿 よくわからない。第三部隊を連れていた。気流子のかみかざりをこわした。神の力がほしい。

 黒髪の女の子 敵じゃない? 猫さんと同じ力が使える』


「アリスさんは多分、音無さんの攻撃で魂が消滅してしまったので、もう居ませんけど……。あと、九十姉妹もしばらく出てこないんじゃないかなって思います」


 そう言って、空美は九十姉妹とアリスの名前の横に赤くばつ印をつけた。ん? なんで九十姉妹も出てこないんだ?


「あの二人は多分、『仙人さんが倒れるまで倒れない』って呪いを自分たちにかけてたんです。だから、仙人さんが倒れるまでは無敵になるんですけど……」

「ああ、倒れたら無敵じゃないのか。ダメージが全部身体にくる……」


 いや、そうじゃないな。ダメージはずっと負ってるけど、呪いの力で無視して動けるって感じか。で、呪いがとければ無視できなくなる。

 俺の疑問を察してくれた空美の解説に、俺は俺なりの解釈でそう納得した。この解釈であってるとすると、とんでもねぇ諸刃の剣だな。死ぬんじゃねぇの? こいつら。


「葉折君が連れてかれたってことは、もう双子は出てこないんですか? ……葉折君を取り返すまで」

「そ、それは……ごめんなさい、わかりません……月明はよくわからないんです」


 音無の質問に対して空美は心の底から申し訳なさそうな顔をした。空美が謝る必要はないと思うけどな。

 まあ、双子がもう出てこなければ最高だけどな……逆に、葉折まで敵になって出てくるなんてことが起こったら最悪だよな。あいつの元々の立ち位置を考えればあり得ない話でもない。

 なんの躊躇いもなく襲ってきたら悲しい話だ。それって、アイツにとってここで過ごした日々は何でもなかったってことの証明だもんな。責めて少しでも、何か意味があるものだったと、少しでもためらいが生まれてくれたらいいんだけど。いや、良くないか。


「この、雷さん……九十九雷さんについては、もっとわかることはありませんか?」


 ほとんど情報のない九十九雷について質問を飛ばしたのは音無だ。そして、その質問に対し空美は無言で首を振った。そういえば、これを書き始める前に九十九雷については名前ぐらいしか知らないって言ってたな。

 そして、九十九雷と戦っていた猫神は今も尚昏睡状態だし、雪乃はその猫神にくっついたまま離れようとしない。会話すらほとんど成り立たない。故に、情報を得ることが出来ないのだ。

 チャイナ娘の岩すらぶつかっただけで木っ端微塵にしやがったんだし、とんでもない力の持ち主ってことは確かなんだけどな……。


「今のところハッキリしてるのは、海菜が来たら武器を狙えっつーことですだか?」

「お姉ちゃんは……そうですね、今のままならそうなりますけど、でも多分、武器がなくてもどうにかできるようにはする、と思うんです……」


 今回で自分の弱点が浮き彫りになったのは向こうも同じってことだもんな。そりゃあ、何かしら考えるよな。

 ついでに、よくよく考えれば今回、“組織”の連中は全員出てきた訳じゃないんだよな。仁王が足止めしてた桜月って奴も次は出てくる可能性があるし。つーか、そもそも“組織”には何人いるんだ?


「えっと……私がわかる範囲で答えますね。んーと……」


 そんな俺の質問に対し、空美は記憶を辿るような仕種を見せながら再びペンを持った。そして、ホワイトボードの余白部分に名前を書いていく。


『【第一部隊】昼夜海菜、ことはく桜月、むらさき時雨、風見風、九十姉妹、月明兄弟

 【第二部隊】囚我ハイト、アリス、ベル、クレア

 【第三部隊】がでんひょうろう

 【その他】いちごくれん荊、風見リユ』


 その数十五名。しかも半分以上が知らない奴だった。半分でもこの様なのに、さらに増えるってのか?

 しかも、これは空美が知ってる範囲だ。つまり、空美が知らない奴がいる可能性があり、もっと人数が増えることだってある。なるほど、“組織”と戦うのは無茶だと止めようとした空美の考えがやっとよくわかった気がした。

 俺と同じことを珍しくチャイナ娘が考えていたらしく、チャイナ娘はキュッと口を閉じて難しい顔をしている。全員を倒せるかどうか、考えているのだろうか。

「……すみません、空美さん」そんな中、音無だけは違っていた。シンと静まり返った空気の中、ある一点を見つめて質問をする。「囚我廃人って、どんな人ですか?」


「どんな人、とは……?」

「なんでもいいです。その人の喋り方、特徴、プロフィール……思い付いたことを教えて下さい」


 音無の声は普段よりワントーン低い。どこか怒気を孕んでいるようにも聞こえた。何を怒っているのかは全く分からないが。

 空美はそんな音無に少し戸惑ったような表情を見せつつ、思い付く限りの彼に関する情報を話し始めた。


「囚我先生は天才と呼ばれています。魔法科学者、と名乗っていたような気がします。えっと……第二部隊唯一の人間で、アリスさんたちを作ったのが囚我先生ですね。この中だと、アリスさんと、ベルさんと、クレアさんと、あと時雨さんが囚我先生の作品です。

 性格面は……なんというか、はっきり言ってしまえば難ありって感じ、です……。女の子が大好きで、何時もふざけてて、ヘラヘラ笑ってて。それで、ちょっとへんな話し方をするんです。あとは変なニックネームをつけるのも大好きですね。

 いつも白衣を着てて、メガネをしてて……格好だけ見れば、真面目な人に見えなくもないん、ですけど……」

「ありがとうございます。大体わかりました」


 大体の特徴を聞き終えると、音無は薄く笑った。その笑みを不吉と呼ばずになんと呼ぼう。嫌な笑いかただった。それから、ものすごい小さい声で「やっと見つけた」と呟いていたのは多分気のせいじゃないよな?

 やっと見つけた……ってことは音無とこの囚我って奴は顔見知りってことだよな。音無は顔見知りにすら命を狙われてんのか? うーん、わからん。

 わからんことを何時までも考えてたってどうしようもないよなってことで置いておくことにしよう。そんなこと考える暇があるなら、これからの琴を考えるべきだ。

 この状況を見るに、俺たちが今できることと言えば……


「やっぱ修行しかねぇよな」

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