2.昼夜海菜
「はぁーッ!? 乗り込んできたオトたちと全面戦争になったァ!?」
アリスが魂ごと消滅させられてしまったので、その報告も兼ねて囚我先生に話をすると、思い切り驚かれた。何やってんだ、とでも言いたげな表情までされた。
「あと、囚我先生に頼まれた魔方陣は拒否されて水でぐっちゃぐちゃになった。雨宮気流子があそこで力を使うのは想定外だった。……いや、戸垂田小坂の方が想定外だったな。なんなんだ、アイツは」
「あー……海菜っち脅迫したろー? ま、今度やるからええけども。そうかぁ……あれも作り直しかぁ……。戸垂田小坂は俺でも分からんなぁ。アイツ、なんなんだろうな」
「囚我先生でもわからないとは……お手上げだな。荊様はなにも言わないのか?」
「ん? 荊も分かってないんとちゃうかな? わかっとったら多分俺にかるーく教えといてくれるやろ」
「それもそうだな」
囚我先生はどういうわけか荊様と仲が良い。その関係を囚我先生と荊様それぞれに聞いてみたのだが、二人とも『親友だ』と答えた。そんなに仲がいいのか。
ちなみに、この“組織”のNo.2である風見風の姉、風見リユさんも荊様と『仲良し』だそうだ。リユさんも囚我先生も荊様のことを呼び捨てにしており、初めはこの方をなんだと思っているのだと恥ずかしながら思ってしまったこともある。
「そういや最近リユを見ぃへんなぁ……どこ行ったか知っとる?」
「知らん。リユさんのことだ、きっと旅行にでも行ってるのだろう」
自由奔放にも程があるが、彼女はそういう人である。行きたいところにいって、やりたいことをやって。面白そうなら“組織”として動くこともあるし、そうでないなら拒否することもある。そんなのがNo.2でほんとうに大丈夫なのか? この“組織”……。
「ほんで? 全面戦争になったまでは分かったわ。具体的に何が起こったか、海菜っちがわかる程度に教えてくれん? 俺の仕掛けがちゃんと発動したなら、力を抑えられた状態の嘘誠院狂偽が強制召喚されたはずや」
「嘘誠院狂偽……? ああ、そういえばアリスが嘘誠院音無の腹に腕をぶっ刺して発動させていたな。あれのことか」
「え、アリスさんそんな使い方したん……? そんなバイオレンスなやり方せんでもいけるはずなんやけど……」
「確かその前に嘘誠院音無がアリスの腕を切り落としてた」
「何やってん……」
囚我先生がドン引きしていた。誰からでもドン引きされる、ドン引きされることに関しては天才的な囚我先生が、だ。相当だな。
さて、戦いの最中に何があったかということについての報告だが、説明がとても難しい。私だって戦っていたのだ。全てを把握しているわけでもない。特に、雷と猫神綾、雨宮雪乃のあたりはさっぱりだ。何をしていたのか全く分からなかった。戦って、殺しあっていたとは思うのだが。
「あー、そこはええわ。そこはそこだけで勝手にどうにかしてくれるやつやからな。どうにかなったあとに手ェ出すわ」
どうにかなったあと?
様子がおかしいとは思っていたが、あの三人はどうにかならなくてはならないほどの因縁があったのか。そこまでは分からなかったな。既にどうにかなっている感も否めないことだし……。しかし、囚我先生がまだと言うのだからまだなのだろうな。手を出す、というのがよくわからないが。何をするつもりなのだろうか?
多分、私が理解できる日は来ないのだろうけど。
「なあ、俺としてはあのチャイナちゃんをどうしたんか聞きたいんやけど」
「チャイナ……ああ、黒岩暁か」
彼女であれば、囚我先生が気になるのも分かる。あの女は色々とおかしい。何をどうしたらあんな化け物が生まれるのか聞きたいものだ。あの身体能力といい、魔力量といい、おおよそ並以上の人間でも持っているようなものではない。
しかもドラゴンの姿で現れたし。
本当に人間をやめてるではないか。
「黒岩暁は九十姉妹が担当した。彼女たちはしばらく使い物にならないだろうな……生きているのが奇跡と呼べるくらいだ」
「あん? あの子ら呪いを使ったん?」
「ああ。どうやら『黒岩暁が戦闘不能になるまで倒れない』なんて呪いをお互いに掛け合ったらしい。致命傷級をいくつか喰らっていたから、黒岩暁が倒れた直後から昏睡状態になったよ」
「バカや……でもそんぐらいせんと倒せんっちゅーことか。なるほどなぁ」
囚我先生は苦い笑みを浮かべながら頷いた。言いたいことは分かる。私も概ね同意見だ。彼女たちは自分をもっと大事にすべきである。
命を懸けなければどうにもできない相手にぶつけた私も私だが。
「多分だが、九十姉妹は黒岩暁の力をそっくりそのまま返して倒した」
「はぁーん? 目には目を、神殺しには神殺しってか」
神殺し? 何故、いまここでそんな単語が出てくるのだろうか。と私が頭を捻らすと、囚我先生はそれを予測していたのか、楽しそうに言った。
「なぁ、知っとる? あのチャイナちゃん、神殺しやりよったんよ。あのバカみたいな力はそのせいとちゃうんかなぁ」
「知らない。初耳だ。そもそも私は神の存在を信じてない。……世界が滅んだというふざけた理由も、な」
神が消滅したから世界が滅んだ。
仮の神が世界をギリギリのところで保っているから私たちは生きていられる。
まったくもって訳がわからない。荒唐無稽なお伽噺だ。それを理由に嘘誠院音無を殺そうとしているのだから、あまり文句は言えないが。
しかし、そんな私に囚我先生は緩く首を振って、真っ直ぐに私を見て、そして珍しくとても真面目な顔で「おるよ」と言った。
「神様はおるよ。それも、すごく近いところに。そんで、神様は俺たちのことをよーく見とるんよ」
「……どうだかな。神がいるというなら、もう少し優しい世界でもいいんじゃないか?」
神がいるにしては、この世界は少し厳しい。嘘誠院音無の境遇一つをとってみてもそうだ。彼にとって世界は優しくなさすぎる。神がいるならもっと優しくしたっていいだろう、と思わないことはない。空美のため、慈悲は与えないが。
そうだ、空美だ。
神がいるというのなら、空美を救ってくれたっていいじゃないかと思ってしまうことがある。しかし救われることはないのだから、私はその存在を信じない。
なんて私の、いかにも子どもらしい、自己中心的な考えに「分かってないなぁ、海菜っちは」と囚我先生は優しく諭すように笑った。
「この世界の神様は消滅しとるんだから、そんなこと出来るわけないやろ? だから、その為にも世界を救って新しい神様を探すんよ」
囚我先生の話はやっぱりよくわからない。
なんなのだ、新しい神様を探すって。初耳だぞ。




