7.黒岩暁
《グオオオォォォォアアアアァァァァッ!!》
むおぉ!? 儂の声が竜っぽい雄叫びになってるですだ!?
くっくっく、あの嘘つきも中々手が込んだことをしてくれたですだ。思いっきり暴れてやるですだ!
目の前にいる空美に似た空美じゃない奴が多分、ヘタレに傷を負わせたやつですだし、その分の痛みは負ってもらうですだ! つーかそもそも三人を誘拐した時点でこいつにはむかっ腹ですだしな。
正直空美ににてる時点で腹が立つですだ。誰だテメェはって言いたい気分ですだ。言えないですだが。
「……発動さえできてしまえば、やはりこっちのものだな」
あん? 何か言ったですだか?
なんかよく聞こえなかったですだが、ため息つかれてるしちょっとムカつくですだな。ここは軽く一発お見舞いしてやるですだ。
《グオオオオォォォォ!!》
何処からともなく降ってくる、炎を纏った巨大な岩。儂が一番得意とする技で、一番好きな技ですだ。派手だし一番破壊力が高くてスカッとする。
「……造作もない」
その瞬間、スガァァァァン! と、とんでもねー音がして、一瞬儂の視界が爆発したですだ。
たった一言。たった一振りで儂の放ったメテオはバターのように簡単に斬れて、それどころか木っ端微塵になって消えていった。
おかしいですだな……一番破壊力が高くてスカッとする、筈だったんですだがな……?
パラパラと木っ端微塵にされた岩が転がって、煙と共に出てくる無傷の空美に似たアイツ。その手に持ってる日本刀でぶった斬られたってことですだかな? でも、刀ごときで魔法が斬れるですだかなぁ……。
ふむ。考えるのは儂の趣味じゃねーですだ。ここはもう一発、他のやつをぶちかませばいいですだな! 岩がダメなら岩をやめればいいですだ。日本刀で斬ってくるなら、日本刀で斬れないものを放てば問題はないですだな。
《オオオオォォォォ!!》
焼き尽くせですだ!
儂が思い描いた通りなら、恐らくドラゴンの口から炎が噴射されてる筈ですだ。儂自身はドラゴンの顔よりも少し下にいるから、口許が見えないんですだよな。しかも、これをすると儂自身の視界が炎に遮られるのが難点ですだ。まあ、ブレスを突っ切って来なければ儂に直接のダメージはない筈ですだし、平気ですだかな。
《グオォ……?》
「ほう、ドラゴンでも疑問を感じることはあるのだな」
とかなんとか思っていたら唐突に儂の視界が晴れたですだ。真っ赤な炎が真っ二つになって、そのまま左右に別れて消えていったですだ。
そして、その分かれ目から飛び出してきたのは日本刀を構えたアイツ。ソイツは儂――ドラゴンの頭の高さまで飛び上がると、刀を降り下ろしてきたですだ。
《ッグオアアアアァァァァ!!》
それをギリギリのところでドラゴンの右腕を犠牲にすることで回避したですだ。お陰で右腕はザックリ斬られちまったですだが、すぐに生やせるから問題ないですだな。それに、こいつにもまだ利用価値がある。
《ガアアアアァァァァッ!!》
「ッぐ」
斬られた右腕をそのまま着地する前の空美に似た奴に向けて飛ばす。炎の噴射もつけてスピードアップですだ!
残念というべきか、案の定と言うべきか、それはまた刀で木っ端微塵にされちまったですだが、追撃は免れたですだ。よかったですだ……一撃目が失敗したと思った瞬間、着地しながらの横薙ぎの二撃目を構えていやがったですだ……。位置によっては儂の首が飛んでたですだ……。
いや、しかし。しかしですだ。
炎まで斬られちまうってことは現状で儂に打つ手がねーですだ。斬られないほどの手数でごり押しすればいいですだか……? いやはや、ちゃんと空美の言うことを聞いて戦わずにとっとと逃げるべきだったですだな……すまんですだ。
ここはきっちり責任をとらないと帰れねぇですだな。
「盛り上がってるところ良いかしら? 脳筋おバカさん」
『なんですだか、嘘つき。今からちょっとどうにかするから待ってろですだ』
いつの間にか背中に乗ってきた嘘つきに儂はそう返さざるを得なかったですだ。どうにかするって言ったって割とどうしようもないのに。しかしまあ、こんな時に話しかけてくるなんて離脱するから囮になっとけとかそんなことだろうですだなぁ。
「人の話を聞かないから脳筋って言われるのよ。いい? 派手に色々ぶちかました後天井をぶっ壊して上にあがって頂戴。その後どこに向かうかは空美ちゃんが教えてくれるわ」
『あん……? 儂は囮じゃねぇですだか? 儂が適当に立ち回ってる間にお主らだけ……』
「そんなことしたらこの後誰が壁になるのよ」
視界の端で鎖やら葉やらが飛び交って空美に似た奴を翻弄しているのが見えた。しかし、それだけでは弱いですだ。全部刀に薙ぎ払われてしまっていたですだ。
「それに」話は終わっていなかったらしく、嘘つきは続けた。「貴方を置いてったら気流子に殴られるわ」
何故か、その時雪乃は笑っていたような気がしたですだ。表情なんて背中に乗られてるんだから見れねぇですだのに。
「雪乃、話は纏まった!? そろそろ海菜ちゃんがこのドラゴンがなんなのか気づきそうなんだけど!」
「あら、早いのね。でも遅いわ」
へぇ、空美に似たアイツは海菜と言うですだか。とか悠長なことを思っちまったですだが、結構ヤバイ状況ですだな? 最悪儂、叩っ斬られるんじゃねぇですだか?
遅いわとか嘘つきは何故か余裕たっぷりなのも怖いですだ。やめろ、儂の背中の上でそんな会話をしてるんじゃねぇですだ。急に話が変わって逃げるのに壁は要らないとか、他の壁を用意するとか言われたら泣くですだよ、儂。
「いい? 言った通りにするのよ」
そんな儂の気持ちも知ってか知らないでか、嘘つきはそう言って指をならしたですだ。
それを合図に現れたのは蛙。蛙、蛙、蛙、蛙、蛙、蛙、蛙。天井にも蛙。床にも蛙。壁にも蛙。儂の肩にも、腕にも、海菜の頭にも。
視界全部を緑で染めてしまうほどの蛙がげこげこと、それ以外聞こえなくなってしまうような音量で鳴いていた。
「ぎゃああああぁぁぁぁッ!?」
「ぎゃああああぁぁぁぁッ!?」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
蛙が現れると一拍おいて、何処からともなく悲鳴が聞こえてきた。ついでに発狂したような声が背中から聞こえてきて、急にひんやりしてきたかと思えば大量の巨大な氷柱が雨のように降ってきたですだ。
ぎゃああああぁぁぁぁッ!?
ちょ、ま、何が起きたですだか!? 氷柱なんて降らせるのは一人しかいねぇですだが……ちょ、刺さってる! ドラゴンの肩にも氷柱が刺さってるですだよ!?
「かえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえるかえる」
ヒイィッ!? 背中からなんか呪いの言葉が聞こえてくるんですだが!? やめろですだ、落ち着けですだ、つーかそんな状態で儂の背中に乗ってるんじゃねぇですだ!!
《グオオオオォォォォアアアアァァァァ!!》
「……ック、なんなんだ今度は!!」
そんなこと儂が聞きてえぐらいですだよ! テメェには悪いですだが、もう相手してる場合じゃないですだ! 一刻も早くここからとんずらしてやるですだよ!!
つーかこの蛙共攻撃しても消えねぇですだな!? あの嘘つきの幻術ですだか!? あの野郎何てことしやがるですだか!!
儂は一刻も早くこの恐怖の蛙空間から逃げ出すため、大量のメテオをぶちかましながら天井を無理やりぶっ壊して上の階に上がっていったですだ。
もうしばらく蛙はこりごりですだ……。




