4.源氏蛍仁王
「ねーねー、かくれんぼしようよ!」
「はぁ?」
『案内役』として僕についてきてる桜月お兄ちゃんに言うと、すごい顔をされちゃった。冷たい人だなぁ。
「いや……うん、かくれんぼ自体は良いんだけどさ……何で?」
「んー……だってつまんないし」
本当はそうする選択が一番だから、なんだけどそんなこと言えるわけないよね。桜月お兄ちゃんはぼくの能力のこと知らないんだったかな? 能力のことを疑うそぶりを見せないし、ここは誤魔化さないとだね。
じゃないと、かくれんぼする意味がなくなっちゃうもん。
「桜月お兄ちゃんが鬼ね! 一分数えたら探しに来て!」
「ちょ、一分!? 長すぎるんだけど!」
「そこはハンデだよ。ぼくこの中よく分かんないもん。はい、けってーい」
「……まあ、いいんだけどさ……」
納得してくれちゃった。これで一分間、桜月お兄ちゃんを足止めできて且つ、ぼくは桜月お兄ちゃんから離れることができる。
ちなみにこの中がよくわからないって言うのは嘘。だってぼく、ここに来たことあるもん。それに、さっきここの図面もらったしね。
うーん……でも、構造は分かっても、ここに誰がいるのかっていうのを知らないのはちょっと困ったところかなぁ。
今回のぼくの選択肢は『琴博桜月を広間に連れていかないこと』なんだよね。分かるのはそこまでで、ぼくはここから色々と読みといていかなきゃいけない。
まずは広間にいけってことは確定してるんだけど……んー、広間でみんなと合流できるのかな? まだ出会って間もない人たちだから、ぼくのことを助けに来てくれるかが心配だなぁ。
ああでも、小坂お兄さんと気流子おねーさんも一緒にここに連れてこられたって聞いたな。じゃあ大丈夫だね。きっと、その二人を助けにみんな来る。そこに合流すればいいや。
「よーい、しょっ」
走って階段まできたぼくは防火シャッターをなるべく静かに下ろした。一先ず、これが降りてれば桜月さんは遠回りをしなきゃいけなくなる。この防火シャッター、普通ならある小さな扉が付いてないからね。侵入者を閉じ込めるための仕組みらしくて、外側……階段側からじゃないと操作できないんだって。
さて、これを下ろしたらあとは時間との勝負。もう桜月お兄ちゃんは動き出してる頃だ。防火シャッターが降りているのに気づけばぼくが下に行ったことぐらいすぐ分かる。その前にちょっとでもこの階でぼくを探していてくれると嬉しいんだけどなぁ。
さて、桜月お兄ちゃんが降りてきてしまう前にすることと言えば、反対側の桜月お兄ちゃんが使ってくるであろう階段の防火シャッターを下ろすこと。これで桜月お兄ちゃんは一階にある広間には来れなくなる。ちなみに、ぼくたちがさっきまでいたのは四階。
「うわぁっ!?」
なんとか一階まで駆け降りて、反対側の階段までの長い廊下を走っていると、地震のような衝撃でぼくは転んだ。
地震? それとも爆発? この下の階で何が起こってるんだろう……。
気になるけど気にしてる場合じゃないね。こうしてる間にも桜月お兄ちゃんが来ちゃうかもしれないんだから。
この廊下、あとなんメートルあるかな。とりあえず全力で走らないと間に合わないのは確かだよね。
「……っは、間に、合った……」
反対側の階段に辿り着いた頃にはぼくはヘロヘロになっていた。もう走れないかも。でも防火シャッターを下ろせたからとりあえず選択肢の条件はクリアーできたかな……? あとは、広間にいってみんなと合流しないと……。
「ッ!」
来た道を戻ろうと身体を半回転させて一歩踏み出した、その瞬間だった。床が大きく揺れてぼくは立ってられなくてその場にしりもちをついた。
それだけじゃない。床は揺れるだけじゃすまなくて、バキバキとものすごい音をたてて割れ出した。何が起きた何が起きた何が起きた。
割れ出した床は次に盛り上がって、ものすごい熱風と共に何かが出てくる。
「仁王くん!」
「あ……えっと、雪乃、さん……?」
「よかった! 早くこっちに来て。脱出するわよ」
「え、あ、はい」
それは一体のドラゴンと、その背に乗った雪乃さんだった。否、雪乃さんだけじゃない。その背には肩から血を流す小坂お兄さんと、それを心配そうに見つめる気流子おねーさんもいて、ドラゴンの足にはそれぞれ葉折さんと音無さん、猫さんと昼夜のお姉さんがいた。あれ? 仙人さんがいないような……。
「仙人ちゃんはこのドラゴンそのものだよ」
『ですだぁぁぁぁ!』
ええええええええええええええええッ!?
足から話しかけてきた猫さんの言葉と、ドラゴンの雄叫びのような仙人さんの言葉に、ぼくはただただ驚くことしかできなかった。
選択をした先にこんな展開があるなんて予想できるわけないじゃん。




