3.雨宮気流子
愛とお金と蛙が友達!
雨宮気流子、蛙の妖精CHA☆N!
っていう自己紹介を音無君にしたら、「お帰りください」って言って扉閉められちゃった。酷いよね、初対面でそんなことしないよ、普通。ママンはそんな風に育てた覚えはありません! そもそもママンでもなければ育てた覚えもないけどっ!
元気で空気が読めないのが私の取り柄。うんうん、気流りん重い空気とかわっかんなーい!
気流りんが音無君の家に流れ着いちゃったのは、なんかもう運命ってことでいいんじゃないかな。デスティニー。そう、神様の悪戯なんだよ。神様なんて信じてないけど。
元々お姉ちゃんとかを探してて、一回家にいってみたらお姉ちゃんは帰ってきてるんじゃないかなーって考えてたんだよね。でも、知ってる道を歩いてたはずなのにココドコー! ってなっちゃった。
とりあえず、見慣れた家がそこにあったからピンポン押してみたけど、中から出てきたのはびっくり、眼帯をつけた少年でした。少年って言っても気流りんと同い年なんだけどね。
もう一つビックリしたのが、玄関で音無君とギャーギャー騒いでたら綾にゃんが出てきたことだね。「あれ? 気流ちゃん?」って言って綾にゃんが出てきてくれたから、気流りんは音無家に侵入することが出来たのでした。
うん、思い返してみても、音無君が上がっていいですなんて言った記憶無いもんね。綾にゃんがいるからいいかな、とか思ってずるずる居続けちゃった。迷惑だったかなぁ? でも、何だかんだ言って音無君楽しそうなんだよね。ノリもいいし。変な子。変な子代表の気流りんが言うんだから間違いないよね。なんか事情があるのかな?
そんなことはどうでもいいや。それよりも今日の夕飯の話だね。
今日の夕飯はカレーだって。
暁ちゃんが「卵一つオッケーですだ!」って騒いでたから、多分音無君の機嫌がいい日なんだね。或いは卵が安かったんだね。
居候が四人になってからか分からないけど、音無君の主夫力は日々進化してると思う。鼻唄混じりにご飯作ったり、洗濯物を干したりする姿って、なんかもう本当に主夫だね。充実したような顔してるし。
「けろっ」
呼ばれた気がしたから綾にゃんの後ろから顔を出してみる。うんうん、なるほど。綾にゃんのご飯を運べばいいんだね。
綾にゃんは昔から左腕がない。だからいつも左腕の袖がぷらぷらしてて、それを悪戯で結んだら怒られた。でも結びたくなっちゃって何度もやるんだよね。懐かしいなぁ。
カレーを運ぶ。綾にゃんは気流りんの隣ね。何となくここでの生活にも慣れてきたけど、やっぱり綾にゃんが居ないと安心できない。本当はお姉ちゃんもいてほしいんだけどなぁ……何処に行っちゃったんだろう。
「ん? 暁ちゃんどうしたの? お腹いたいの? いたいのいたいのとんでけーっ!」
さっきまでカレーだってはしゃぎ回ってた暁ちゃんの様子がなんかおかしい気がする。顔が暗くて、変な汗もかいてるような気がする。どうしたのかな? 折角の卵ありのカレーなのに。
「だからいつも仙人と呼べと言ってるですだ……」
体調が悪そうな様子でも暁ちゃんは何時も通りだ。
でも暁ちゃんは暁ちゃんだよね。仙人ってもっと髭もじゃのおじいさんで、山の中に住んでたりすると思う。確かにここ山だけど、ちょっと違う。なんかこう、もっと修行に向いた険しい山がいいな。
なんて言ってる場合じゃないや。どうしよう、本当に暁ちゃんの体調がよろしくなさそう。これは音無君に言った方がいいかな。
「音無君ッ!」
おっとなっしくーんーーって呼ぼうとしたら綾にゃんに先を越された。あれ、でもその呼び方は普通の呼び方じゃない。
なんで? と思ったのかどうか分からないけど、私は咄嗟に上を向いていた。見れば、幾つもの岩が突然現れ、落ちようとしている。こんなのが直撃したら只ではすまない。
守らなきゃ。
私がみんなを守らなきゃ。
私の力は、これからはそのためにあるはずだから。
この岩たちを何とかするには、『消滅させる』か『軌道を思いきり横にずらす』か『砕く』かのどれか。消滅させるのは私の力では出来ないから、軌道を横にずらすか、砕くかのどちらかなんだけど……ここ室内なんだよね。
なんて考えてる場合じゃないや。考えた時間も一秒にも満たないと思うけど。
というか、考えながらも私の体は既に動いてたんだけど。
跳んで、その勢いを利用して岩を思いきりぶん殴る。細かい塊になった方が危なくないよね。
ここで魔法でも使ったら多分もっとひどいことになるから、ただただ、拳を振り回して砕く。
拳だけで足りなくなったら足も使う。岩程度なら平気。私は力持ちだから。この程度、なんてことはない。
「ーーあ」
突然、後頭部に重い衝撃が走った。ああ、多分岩が降ってきたんだね。
私は床に叩きつけられて、動けなくなる。
一回砕いたからと思って油断しちゃってたな。雨みたいに降ってくる可能性を考えてなかったや。
あーあ、やっぱりうまくいかなかった。