7.源氏蛍仁王
ぼくはずっと逃げてたんだ。
それはもちろん、ぼくの力を利用しようとする大人が多いのもあるけど、それよりも、ぼくがそうするべきだと思ったから。
んー、違うかも。
ちゃんと言うと、ぼくの力がそうした方が良いって言ったからなんだよね。
「ん……うるさいぃ」
寝てたのに、うるさい声が聞こえてきてぼくは起きた。人が寝てるときは静かにしましょうってお母さんに言われなかったのかな。ぼくは言われたよ。だからちゃんと守ってる。
「ん? ああ、悪いな。でも目が覚めてよかったぜ。大丈夫か?」
「えっと……?」
ちゃんと目を開けると知らないお兄さんがニコッて笑いながらぼくに話しかけてきた。大人のうす笑いとは違って、すごくやさしい感じがする。このお兄さんのこと好きになれそう。
身体を起こしながら回りを見てみると、お兄さんの後ろには他の人もいた。
髪の毛が長くて目が隠れてるお姉さんと、全部緑色のお姉さん。二人ともぼくのことをふしぎそうな顔で見てる。なんでだろ。
でも多分、ぼくもおんなじ顔をしてると思う。だってお姉さんたちもお兄さんも知らない人なんだもん。誰?
「お前は……あー……拾ったやつがまずわかんねーからアレなんだけど、ボロボロの状態で倒れてたんだよ。んで、拾ったやつと一緒に回収してここに来たんだ。手当て以外はなんもしてねーから安心しろ? つっても良くわかんねーよな」
「……ありがとうございます?」
「ん、それだけ言えりゃ上等だ」
ちゃんとぼくは洞窟に逃げてった筈だから、多分そこで倒れちゃったのかな。良くわかんないけど、ぼくのこと治してくれたんだね。お兄さんが説明しづらそうにしてるのは良くわかんないけど、良いことしてくれたんだからありがとうだよね?
「それで、聞きたいんだが。お前は誰だ?」
「んと……ぼくは源氏蛍仁王です」
知らない人に簡単に名前を教えちゃいけないって言われたけど、このお兄さんは怪我を治してくれたんだしいい人そうだし、教えちゃってもいいよね。ってことでぼくは名前を言った。「すげぇ名前だな」って言われた。何がすごいのかな?
良くわかんないけど、お兄さんはその発言のあとに「俺は戸垂田小坂だ」ってお兄さんも名乗ってくれた。お兄さんこそ変な名前だねってぼくは言わなかった。言ったら怒られそうな気がしたんだ。
「わ、私は昼夜空美、です……」
「気流りんは雨宮気流子だよ。気流子おねーさんと呼びたまえ少年!」
「気流子おねーさん」
「けろっけろっけろっ」
小坂お兄さんの後ろにいたお姉さんたちも名乗ってくれた。 ぼくは言われた通りに気流子おねーさんを気流子おねーさんって呼ぶと、気流子おねーさんは嬉しそうに笑ってた。カエルみたいな人だね。
そんなことよりも、昼夜って名前の方が気になった。なんか、どっかで聞いたことがある気がする。それもすごく大事なことだったかも。なんだったっけ……?
でも思い出せないってことはどうでもいいことなんだよって誰かが言ってた気がする。
まあいいや。
ぼくが今しなきゃいけない話はそれじゃないみたいだもんね。むしろ、そこには触れちゃいけないみたい。昼夜のお姉さんに何があるんだろ?
そう思いながら、ぼくは一つの選択をした。
「聞いてください」話の前後がおかしいって良く言われるけど直そうと思ったことはない。言うべきだっていう選択肢をとるために、ぼくは喋るんだから。「ぼくには一つ、能力があるんです」
そう、ぼくには力がある。これを何て言って説明したらいいのか良くわからないんだけど……んー、我殿のおじさんはこう言ってたっけ。
「ぼくは『最善の選択肢』をとることが出来るんです」
我殿のおじさんのことはあんまり好きじゃないからあんまりこの力の話しはしなかったんだけど、でも確か、そう言ってた気がする。
良くわからないんだけど、ぼくは『どうするのが一番いいのか』っていうのが分かるみたいなんだ。言った方がいいのか、言わない方がいいのか。何をしたらいいのか、どこを目指したらいいのか。それが全部わかる。
未来が見えるわけじゃないから、その選択がどうなるのかは分からないけど、ぼくが生きていく上で一番いい未来にいくための能力だよって言われた気がする。
そして、この話をすれば大抵の大人はぼくを利用するために守ってくれるって。
ぼくがここにきたらしなきゃいけないこと。それは、『この家の人たちに守ってもらうこと』みたいだから。
「……へぇ?」そんなぼくの話を聞いて、小坂お兄さんは首をかしげた。それから、「よくわかんねーけど大変そうだな」なんて言ってくれた。あれ? 興味ないの?




