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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
開戦
30/104

9.雨宮雪乃

 それは土砂降りの雨の日のことだったわ。

 私は何度目かもわからない家出をしていて、そして家をなくし、綾と気流子とはぐれた。何なのよ、私たちの家が他人の家になってるってどういうことなのよ。

 イライラしながらその辺のカフェで時間を潰そうとした。生憎そこは閉店していたらしく、誰もいなかったけれど……まあ、雨宿りができればなんでもよかったわ。流石にびしょ濡れになるのは嫌だったもの。

 これからどうしようか、なんて考えていたら窓の外に見慣れた金髪をみた。そう、それが私の愛しい親友。猫神綾よ。


 綾は音無少年の家で居候を始めた。そしたら私の愚妹、雨宮気流子も居候に加わった。それからガチホモ乙女と脳筋バカの忌まわしいチャイナ服。となりの家にいたジャージ君まで加わったわ。お陰で綾と全く会えなかった。元々、避けていたから良いのだけれど。でもちょっと気に食わないわね。

 そんなことはどうでもいいわね。

 忌まわしいチャイナ服が綾に手を上げてから、私は頻繁に音無少年の家周辺を監視するようになったわ。これ以上綾になにかがあったら許せないもの。いつかあのチャイナは再起不能にするわ。それだけの罪を犯したのよ。償わせないと。

 でも綾にバレると絶対にあっちへ引きずり込まれてしまう。あの家で一緒に住むなんて冗談じゃないわ。絶対に嫌よ。だから私は綾が嫌がる蛙をつかって監視していた。なのにあの愚妹ったら……蛙だからなのもそうだけど、多分私って半分確信してるわよね。家の中まで追い回すなんて……! お陰でジャージ君やガチホモ乙女に蛙に対する警戒心を植え付けられたから良いけど。まったく、もう。


 そんなことをしていればあの『Alice』って女よ。音無少年は一体何をやらかしたっていうの!

 あのまま放置してれば綾や気流子に何があるか分かったものじゃないから、仕方なく脳筋チャイナを呼んであげたわ。感謝してほしいものね。

 でもとても私のストレスになったから、ちょっとだけ解消させてもらったわ。ふふふ、あのアホ面。何度思い出しても笑っちゃうわね。這いつくばった姿を写真におさめなかったのは失敗だったかしら。無様な姿は残しておくべきよね。今度幻覚で再現してあげようかしら。


 なんてことを思っていたら、脳筋チャイナが綾とガチホモ乙女と空美って子を連れてバカみたいなスピードでこっちへ向かってきた。なんで一直線にこっちに向かってくるのよ!

 とりあえず感覚を惑わせるしかないわね……今は会いたくないわ。そして今後も。

 幻術で私をつくってそこに置き、本体()はその場を離れる。少し歩くといつも寝起きしている洞窟について、何時ものようにそこに隠れることにした。絶好の場所なのよ。

「……た……す、け……」

「…………え?」

 洞窟のなかに入って数歩。いつも私がいる場所に、見知らぬ少年がボロボロの姿で倒れてこちらを見ていた。

 何時入ってきたのよ。私がここを離れて向こうにちょっと行って戻ってきたのなんてほんの数分よ? しかもなんでこんなにボロボロになってるの。今にも死にそうじゃない! 誰よ、こんなことしたの!

 思わず少年にかけよって、だきかかえる。

「あなた、名前は?」

「……に、おう……」

 ボロボロの少年に今聞くことでもないわね。なんで聞いたのよ、私。名乗ってくれたから良いけれど。

「どこか痛むところは……血は、出てないわね……」

 でも全身土まみれだし域も絶え絶え。早く手当てをしてあげた方が良いのに代わりはないわね。

「……ッ!!」

 もう、次から次へとなんなのよ! なんで幻覚を見せて感覚を惑わせてるのにここまでまっすぐ来て私の目の前に辿り着くのよ! 化け物なの!?

 突然森から出てきた脳筋チャイナ一行のお陰で私は一気に混乱した。そして思いきり、一番強い幻術をつかって四人を眠らせた。こんなところで力を使いたくなかったわ……。

『だららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららららッ!!』

 幻術世界では、いち早くそれに気づいた綾と脳筋チャイナが何やら会話をして、そして地面を物凄い勢いで殴り始めた。いやいやいや、力技で幻術が破れたら苦労しないでしょうに……。

『やっぱり君もそう思う?』

「ッ!!」

『あ』

 ナチュラルに私の心の声に反応してくる親友。反則過ぎるわ。

 というかやめて。私の幻術を破らないで。ここであなたたちに対面したら一緒に暮らさなきゃいけなくなるじゃないの。

 気流子にもどんな顔をして会えばいいかわからないし……変なのと一緒に暮らすのもごめんよ。だから避けてたし蛙だって使ったんじゃないの。察して頂戴。

 正直なことを言えば、綾だけ回収してこの場を立ち去りたいぐらいだわ。それができないから幻術が効いてる間に逃げたいのだけれど。

 でもこの少年を連れていくわけにはいかない……。さっさと彼らに見つかってあのジャージ君に治療を任すべき? でも嫌よ。行きたくないわよ。

『君がこれ以上意地を張り続けるなら、僕は君とぜっ』

「ッ、黙れ!」

『み、つ、け、た! ですだぁぁぁぁ!』

「あっ」

 綾の言葉にまんまとかかってしまった。でも、綾なら有言実行しかねないのよね。

 絶交。

 その言葉をどうしても聞きたくなくて、思わず力が入ってしまった。でもそれが仇となってしまい、脳筋チャイナが大きく動いた。足が私の顔目掛けて飛んでくる。

「ーーッ!!」

 ビリビリと腕がしびれる。私はその蹴りを右腕で受け止めるのが精一杯で、避けることなんてできなかった。

「来るな!」

 それでもとりあえず、抵抗をやめるわけにはいかないわ。察して頂戴、綾以外と馴れ合うのはごめんなのよ! 帰って! 失せて!!

「よう、やっと会えたですだな嘘つき」

「黙れ、お前なんか綾の手助けがなければ出られなかったくせに! お前らなんかずっとあのまま寝てれば良かったのに!」

 そうしたら私は逃げられたのよ! 貴方みたいな奴の顔なんて見たくなかったわ! 出来ることならいますぐぶん殴って再起不能にしてやりたいぐらいよ。よくも、綾を!

「とりあえず落ち着いたらどうだい? 何を言ってるのか僕にはさっぱりなんだけど……」

「黙れガチホモ乙女。お前とは同じ空気を吸いたくないのよさっさと消えて頂戴」

 こいつはなんで本当にここにいるのよ。一緒に馴れ合いたくない理由ナンバーワンに近いぐらいに貴方の存在があるわ。一々下らないことで綾に絡んだりもして……誰に対してブスだなんて言ってるのよ変態。どんなご身分よ。同じ生物ってだけで吐きそうだわ。

 休まず私は岩を投げる。そろそろ転がってる岩がないわ。ちょっと動かないと……。

「けっろーん!」

「げ」

 そこに今最も聞きたくなかった声ナンバーワンが響き渡った。最悪だわ。何しに来たのよ! 貴方に顔を会わせたくないから私はこそこそしてたんじゃない!

「帰れ!」

 素早く動いて一番大きな岩を確保。両手で持ち上げて、何故か突然森から飛び出してきた緑の塊に()()()()()

「ていっ!」

 右腕で砕かれた。一撃だった。流石は私の妹ね……。

「頭を!」ひとっとびに私の目の前まで来た気流子は思いきり私の頭をつかむ。ちょっと、まさか、やめ「冷やせ!!」

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