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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
火種
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7.猫神綾

 異変に気づいたのは、知らない誰かの違和感ある思考が混じっていることに気付いたときだ。


 前々から一人、ここには居ない誰かの思考が紛れ込んでいるのは知っていた。家の中には居ない。でも多分、近くにいる。

 僕はその紛れ込んでいる思考の流れに覚えがあって、その主を度々探していた。僕の読心術は、明確に読もうとせずにそれが誰のものか、人ごとに分けて大雑把に見ることも出来る。これなら読んじゃいけない領域を読むこともなく、自分が嫌な思いをすることもない。気になる思考があったらそこを集中的に読むけどね。

 しかしまあ、なんというか、思考の主はどうやら僕の力について詳しいようで、のらりくらりとかわされ続けている。逆にそれが本人の正体を突き止めるための鍵になっちゃうんだけどね。

 さて、今日はどこにいるのかな、なんて僕は思考の流れを読み始めた。

「……あれ?」

 今日もやはり、知らない誰かの思考が混じっている。でも、それは何時もの奴じゃない。

「誰だ、これ……」

 何時もと違う思考に意識を集中させて明確に読もうとする。ぼやけていたものが次第にはっきりしていくところを見ると、相手は全く僕の力について知らないみたいだね。本当に誰だろう。


『ああ楽しいっ! 召喚士って本当に面白いなー。いろんなのいっぱい出てくんじゃん』

『ナイフは持たなくても動くんだね。だからジャグリングなのかなぁ。ま、全部弾いて固めちゃえばいいよね』

『はい、むーだっ。アタシ相手にナイフっていうのがそもそもダメなんだよねぇ。斬れるわけないっつーの』


「これ……っ!」

 流れてきたのは楽しそうに戦いながら相手を観察する女の子の心の声。相手は圧倒的不利な立場に立たされているみたいだね。そして多分、この相手ーー召喚士は音無君だ。

 斬ることが出来ない、ナイフを固めることが出来る。ここから察するに、彼女は人間でないか、身体全体を魔力で覆って強化できるかのどちらかだ。どちらにせよ、厄介なのは確かだね。

 猫の姿でどれだけ役に立てるか分からないけど、助けにいかなくちゃ。

 音無君は多分、力はあってもその使い方を知らない。


『あははははッ! トランプが刺さったすっごーいっ!』

『えーっと……記録しとかなきゃハイトとシイナにがっかりされちゃうね。

 【回宙刃(ジャグリング・ナイフ)】嘘誠院音無の周囲に五本から七本のナイフを召喚し、それらを使ったり操ったりする。操っている場合の動きは単調だが数が多いので注意。手に持ったものは盾の役割も果たしている。

 【四神姫札(アリス・トランプ)】嘘誠院音無が腕を振ったときに無数のトランプのようなものが放たれる。ナイフよりこちらの方が殺傷能力は高い。生身の人間が対峙する場合は即死の危険性アリ』

『アタシはどうやっても死なないけどねー』


 本当に不味いね。遊ばれつつ冷静に分析されちゃってる。音無君はしっかり当ててはいるんだろうけど、全く効いてないんだね。使っている技は大分凶悪っぽいけどさ。

 多分、その子みたいなタイプは僕や気流ちゃん、あとは仙人ちゃんみたいに、まるごと魔法で包む技がないとどうしようもないんじゃないかな。一番いいのは気流ちゃんかな……でも、気流ちゃんは頭数に入れちゃダメだしなぁ。

 っていうか、どうしてこう肝心なときにアイツの気配がしないのかなぁ! どう考えても、何時もいる方はアイツしか居ないよね! こういう時こそいてよ! 何してるんだよ!!

「……っ、はは。合流させない対策もバッチリだよ」

 とりあえず外へ向かって走り出したところで、窓の前に立っていた土の人形と対峙した。僕はこいつを倒さなきゃいけないってことかな。

 はてさて、猫の姿でどこまで出来るのかな。この人形が仙人ちゃんみたいな強さじゃないことを祈るばかりだよ。

「『氷雨(ヒサメ)』」

 家の中だからあまり派手に暴れられない、なんて思いながら僕は魔術を発動させた。自分の上に魔力を集中させるイメージで術を作り上げていく。

 猫の姿で不安だったけれど、なんとかそれは上手くいき、五センチほどの長さの氷柱が土の人形に降り注ぎ、当たっては弾けた。

天乃剣(アマノツルギ)』が斬ることを目的とした雨だとしたら、『氷雨(ヒサメ)』は固めることを目的とした雨だ。降らせ、相手にぶつけ、そして砕けるように弾けていったそれらは少しずつ相手の身体を浸食し凍らせていく。

 大体、自分の身体が凍っていると気づいた頃にはほぼ全身が凍ってるかな。

 案の定、ほぼ全身が凍ってからその事に気づいた人形は、それから逃れようとまだ凍ってない部分を分離させようとした。多分、それを媒体に再生するつもりなんだね。

「させないけどね。『宿り氷(ヤドリヒ)』」

 僕はそれに追い討ちをかける。人形にまとわりついた氷はまるで自我を持ったように、さながら寄生虫のように動き、分離させようとした部分へ伸び、そして捕まえる。

 捕まれば最後、人形はもう成す術もなく凍るだけ。

「うん、思いの外動けたね」

 簡単な術なら普段通り使えるみたいだしよかったよかった。

 さて、気流ちゃんが心配だな。あのバカが居ないかもしれないってことは、今頃気流ちゃんは一人でいるよね。

 僕は気流ちゃんの気配を追って走り出した。

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