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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
火種
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6.琴博桜月

「今日からこの第一部隊は本格的に活動を開始する。また、それに伴い、囚我(とらわれ)先生率いる第二部隊も我々と合同して動く」

 僕の所属する第一部隊の頭、司令官は何時もと代わりない凛とした表情でそう切り出した。それを、僕たち八人は各々の面構えで静かに聴く。

 ちなみに、司令官は『囚我先生率いる第二部隊』と言ったが、正確に言えば第二部隊の人間は囚我先生ただ一人だ。ただし、囚我先生は研究と創造欲の塊みたいな人だから、数多くの作品たちが存在する。その作品たちが人と変わりない性能で動く戦闘用のお人形ばかりであるから、部隊として数えられているのだ。

 普通そういったお人形は使い捨ての兵士のはずなのだけれど、囚我先生が妙に凝ってくれたお陰で使い捨ての兵士レベルの強さではなくなっている。笑えない話だ。僕が嘘誠院音無の立場だとしたらーーいや、あんな糞みたいなやつの立場になる必要はないか。

「今日、既に第二部隊よりアリスが向かった。軽い小手調べと、嘘誠院音無側の者達の能力も見るのが目的だ」

 へぇ、早速アリスさんが行ったんだ。

 僕も何度かアリスさんと手合わせをしたことがあるけど、お人形達の中じゃ一番苦手だな。彼女は土でできている人形遣いとしての性能を持っていて、操る人形には自分も含まれているから。土さえあればどんなに破壊しても復活するのが一番厄介なんだよね。

 だからこそ、一番に向かわせたんだろうけど。

「また、甲骨(こうこつ)五樹(いつき)、あとは九十(くとお)姉妹も把握しているだろうが、()()が第三部隊と共に動き出している。現在、月明の長男、()()()()がスパイとして嘘誠院音無の家に潜入中だ。定期的にこっちに戻るそうだから、その際に小手調べでは得られなかった情報を共有し戦闘に備えるように」

 司令官は続けてそう言った。

 五日前、僕が行ったときには月明のは見当たらなかったけど……もしかしたら、隣の家にいたのかもしれないな。一応、あの家も嘘誠院音無側として数えられているのだし。

 それにしても、なんであいつらはあんなところに住んでるんだろうね。あんな、隔離された山の中に住んで何が楽しいのやら。嘘誠院音無に楽しくされると腹が立つからいいんだけどさ。

 それにしても、家の中にスパイがいる生活なんてどうなんだろうね。月明の正体と目的を知ったときが楽しそうだなぁ。絶望に叩き落とされればいいのに。


 こんな感じで司令官の話は終わり、僕たちは解散した。これからは指示が飛ぶまで自由に動く。尚、嘘誠院音無に勝手にちょっかいを出すのは禁止だ。つまらない。

 なんてね。

 僕は、こんなささくれ立った心を癒すべく時雨(しぐれ)さんの元へ向かった。さて、彼女はどこにいったかな。


 (むらさき)時雨(しぐれ)

 この“組織”の中で、唯一にして無二の僕のパートナーである女の子。

 常にキャップを被った上に白いパーカーのフードを被っている。また、赤いヘッドフォンを首にかけているが、彼女がこれを本来の用途で使用したところを僕は見たことがない。そもそも、それが使うものであるという概念が時雨さんにあるのだろうか。

 アリスさん達を囚我先生の作品だと言うならば、紫時雨は囚我先生の最高傑作と言うべきだろう。

 そう、彼女もまた、囚我先生に作り出された女の子なのである。

「あ……さくらつき……」

 時雨さんは僕を見るなりそう言ってトテトテと近寄ってきた。何処にいたのかは分からない。いつの間にか僕が見つけられていた。

「どこ行ってたの、時雨さん」

 司令官の話を聞いていた姿は見たのに、終わった瞬間姿が見えなくなったのだから不思議でならない。本当にどこに行ってたのだろう。

「ろーるけーき……」

「ロールケーキ?」

「たべたい」

「ああ、探してたんだね」

 じゃあ一緒に部屋に行こうか、と僕は時雨さんの手を引いた。時雨さんは途端に顔を輝かせて僕について来る。癒されるなぁ。

 作られた子であるが故、時雨さんは知能がとても低い。見た目は十四歳ぐらいだが、中身は三歳児とかそのぐらいだろう。

 アリスさん達は元々あった魂を吹き込んだから外見年齢相応の知能があるけど、最高傑作の時雨さんは魂ですら作ったらしいから。どうやったのかは知らないけど、それが禁忌に触れそうなものであるくらいにはとんでもないことは分かってる。そんなこと出来る人がいなかったから禁忌にされていないのだろうけど。

 囚我先生は天才だからなぁ。その分中身もヤバイけど。お陰で司令官が苦労している。

「やぁ時雨ちゃん、桜月。来るだろうと思って二人にいいものを用意しておいたよ」

 部屋に入ると、そこには黒い髪を後ろでひとつに括った、男とも女ともとれる中性な顔立ちの人物が僕たちを出迎えた。

 風見(かざみ)(じん)。戦闘に特化した第一部隊の中で、唯一戦闘を得意としない男だ。

「はい、新作のロールケーキとチョコケーキ。早く手を洗っておいで」

「ロールケーキ!」

「ほら時雨さん早く洗うよ!」

 風はこうしてたまに僕たちにケーキを買ってきてくれる。本当にいい奴だ。

 嘘誠院音無への恨みで感情が黒く塗りつぶされそうなときもあるけれど、この二人がいるから僕は今まで楽しく、健全にやってこれたんだと思う。

 復讐心に囚われすぎてもいいことはないよね。

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