6
お久しぶりです…
「有栖川先輩…」
いやはやまったく、できることなら会いたくない人だ。そっと窺えば内藤も微妙に顔を引きつらせている。
当のご本人はやわらか~な笑顔(まず間違いなく営業用)で、おばちゃんに話しかける。
「日替わりの味噌汁と付け合せ、なんですか?」
「わかめと豆腐、切り干し大根とひじきと大豆その他のごった煮。メインは豚生姜」
「じゃ、日替わりで。あと生野菜サラダ下さい。食券はこの従者が持ってきますので」
「はいよ」
「だからなんで俺従者認定ーっ!」
内藤が涙目で訴えるも、このひとに見込まれたなら諦めるしかないだろう。合掌。明日は我が身だ。
「とりあえず、ココ塞いでると邪魔だから移動ね」
着いて来ることをまるで疑ってない背中。そんなもんが本当にあるならこれがそれだ。やはりドナドナ。何故に憩いの場であろう食堂でこんな目に。
本来は券売機で食券を買ってそれを出して注文、という流れなのだそうだが、人が少なくて直で受けられる時や顔パスな有名人は、こうした声掛け後出しもアリなのだとか。そんなことを歩きながら問わず語り。
更に。
「ファンクラブだか親衛隊だか、まぁ連中がどう名乗ってるのかはどうでもいいとしても。ひとりでいるとそーゆーのが群がってくるんだよね。で、あっちの奥の一角は通称『有名人御用達』。あそこにいればとりあえず外は静か」
つまりは『有名人』の内輪でうるさい、ということだろう。
と思ったのが顔に出たのかなんなのか。
「君も『有名人』だから、基本的にココ使って」
…サトリかこのヒト。
「なんで俺が」
「君には責任ないんだよ、周りが騒ぐだけ」
和田水流。
まるでアナウンサーが言ったかと思って、ハっとした。
そして見た綺麗なカオは、それすらも折り込み済みだということだ。
「そう、サッカー部。お兄さん。だから君に責はない」
「責はないけど、とばっちりはある、と?」
「君が越境入学してきた理由、こちらからは訊かないけど。言いたくなったらいつでもどーぞ」
多分ねぇ、と。
いやもう絶対その言い方『多分』じゃないでしょ!
「良くも悪くも騒がれるから、覚悟して」
だから生徒会ね、と決定事項で味噌汁を啜る。
「それで風紀会長が御自ら、てか生徒会入れなら会長でしょそこにいるんだし!」
それなりには抑えたのだろう声で、けれど指したふたりを強く睨む内藤と、綺麗な可愛い子の二人連れがいた。