2
…時間は少し遡り、3月末。柔らかな日差しの降り注ぐ、昼寝しろと言わんばかりの生徒会室にて。
ふたりの男がざかざかと書類を捲っていた。
1月末、3学期になってすぐの改選で生徒会長となった宇佐見亮祐と、同じく風紀委員長となった有栖川皐月である。
ここ、華之宮学園は、中高大の一貫教育を掲げる私立校ではあるのだが、実のところ大学の外部進学率は高い。内部に進学したい学部(医学部など)がない場合はもちろんのこと、師事したい教授がいるならば、むしろ積極的に外部進学を促されるのだ。
当然、カリキュラムも厳しい。外部組は受験対策ということで勿論だが、内部組も、外部入学者に「やっぱり内部進学はヌルい」などと謗られ学園自体が貶められることのないようきっちり仕込む。なので3年生は役職から外され、生徒会を始めすべての役職は1月末で1年生に代替わりする。これは中高とも同じシステムだ。
「…そっち、目ぼしいのいたかぁ?」
「……ようやくひとり」
「いただけマシだ」
宇佐見はそれまで見ていた書類の上に腕を重ね頭を乗せる。くったりとしたその姿勢は「もう寝る、後は頼む」だ。当然、それを許す有栖川ではない。問答無用で頭を叩いた。それも、鼻を机にぶつける方向に。まったくもって容赦ない。口先だけなら誰に対しても穏やかに辛辣なことを言う有栖川だが、物理的に容赦しないのは宇佐見だけだ。
「1-A、和田水流。この子、風紀に貰います」
「先着順はナシ、つっただろ。俺にも見せろ」
彼らが見ているのは、外部入学者の書類だった。
中等部からは9割方内部進学するが、高等部の人数枠は中等部の総数よりやや広く、1クラス分ほどの外部入学枠がある。そこに入ってくる者達の能力値は当然ながら高い。ということで、青田買い真っ最中だったのだが。
ひらりと紙を奪った宇佐見は、眉を顰めた。
「…こいつは生徒会で囲う」
「囲う? 理由は?」
貰う、ではない、自分が発したそれではない理由を有栖川は問い詰める。
「今年度の夏冬共にウチのサッカー部の全道進出阻んでくれた学校あったろ。確証はないけど、名前からして、そこのキャプテンの弟じゃないかと思う」
「名前?」
「和田水渡。今年大学に進学するはずだが。偶然にしては出来すぎだろ」
「…確かに」
"なにか"があってからでは遅いのだ。打てる手は打っておく。認識は共通していた。そして書類を見る限り力仕事に向くタイプとも思えないから、生徒会で頭脳労働を任せつつ、単独行動を防ぐべく会室に囲っておくのが安全だろう。
「じゃあ、持ち上がりの牧嶋志弦は貰いますよ」
「…しゃあねぇな。ま、アレは体育会系だし、そっちのが向いてるか」
「ええ。出来れば和田くんに張り付けておきたいところですが」
「あー、確かになー。騎士には適役か。ふたりともAだし、丁度いいか」
「では、そのように」
そんなこんな。本人の意向はまるっと無視して方針は決定された。
「弓」の志弦が登場です。
ついでに、「夢」の和田くんも名前だけ登場。みなと、です。




