~seven~ギャップとパーカー
目が覚める。
周りを見渡すと、白い壁に2つのベッド
式場より温度が温かく、ホッとする。
ここは多分、保健室だ。
起き上がり、靴を履いて立ち上がる。
眩暈がして、ベッドに座り込む。
私は、なにしてたんだろう。
憧れの学園に入れたことで、自分はもう平凡で地味な女の子じゃない。
勝ち組になれたかもしれない
なんて思っていたかもしれない
咲月と話して、いい始まりができた。これからも仲良くなれたらいいな なんて夢見て
Artemisともいい感じになれて、これからの学園生活最高じゃんなんて思っていた。
自分に酔って
自惚れて
儚く壊れた一炊の夢。
私はなにしにきたの?こんな思いしにきたの?
違う。
私は、平凡じゃなくなるなんて甘い夢見て
堕ちたの。
平凡以下に
まだ、あの頃の方が幸せだったのに
負の感情が体から出てくるのがわかる。
学園から出る、そう考えたけど、今更戻れる学校もない
期待している親になんて言うの?
無理。
私は、
この学園から逃げられない__
「…進藤さん?」
突然の声に戸惑いながらも振り返る。
そこにいたのは、Artemisの小田原 日向だった。
焦る。
震える。
なんか、される、の?
思わず目をぎゅっと閉じる
すると、慌てた声で小田原は言う。
「ああ、ごめん。怖がらせちゃったかな。大丈夫、僕はなんもしないよ」
疑心丸出しの顔で小田原を眺める
「…信じてくれないか」
小田原は困ったように半笑いした。
「僕はね、生け贄制度が好きじゃないんだ。でも、否定することもできないから…。ここで君の様子を見てこようと思って」
確かに自ら進んでいじめをやらなさそうだ。
でも、生け贄と関わりを持たなさそうな人だと思っていた。
こんな積極的なんだ。
安心して私は言う。
「そう…ですか。ごめんなさい、私…。疑うような態度をして」
「はは、仕方ないよ。それより大丈夫?」
爽やかに笑って小田原は私を癒す。
「あ、はい。全然大丈夫です。ありがとうございます」
すると優しく私の頭を撫で、よかったと呟いた。
「へ…?はい?」
間抜けな声を出してしまった。
驚いて硬直していると、
ははっと爽やかに笑って保健室を出て行った。
…なにいまの。
さっき生け贄地獄の入口を通過したばっかの私にこんなことってある!?
しかもArtemisの一員にだよ!?
自分でも顔が赤いのがわかる。
あんな優しく撫でられたのは初めて。
しかも小田原も整った顔をしている
さっきの笑った顔、無邪気で子供っぽかったな…。
ダメだ私。落ち着かないと…
深呼吸をして改めて部屋を見渡す。
白い壁には時計があった
今は…11時35分。11時半!?
式が終わったのは10時くらいだろう。
1時間半も爆睡してたのだろうか。
それに私は生け贄として狙われているのに…。なんて無謀さだ。
慌ててベッドから降りて、部屋から出た。
すると勢いよく尻もちをついてしまった。
誰かとぶつかってしまったようだ
その子は淡い黄緑色のパーカーを深くかぶっていた。
そこから覗く白い肌、サラッとした髪。
その髪は落ち着いたブラウン色。
顔は見えなかったけど可愛らしい顔をしているだろう。
「あの、ごめんなさい」咄嗟に私は謝る。
するとその子は黙って私を避けて保健室の中に入った。
そりゃそうだよね。生け贄なんかに関わりたくないよね…
「進藤 緑さん」
突然名前を呼ばれて振り返る。
今日は突然名前を呼ばれることが多いな
「辛いと思うけど、頑張ってね。私も、あなたと同じだから」
そう言うとその子はベッドの方へ行った。
「え、それってどういう…__」
すると、その子はそれ以上は語らないという風に、
ベッドへの入り口カーテンをサッと閉めた。
私と同じ。
それは生け贄という意味ではなくて、いじめられて教室に行けないとか、
なんか理由があって楽しく過ごせないってことかな。
私と、同じ。
あの子がそう思ったなら同じなんだろうね
閲覧ありがとうございました!