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創造主(仮)と異世界日記  作者: 真央
第1章『目覚めは新しい人生と共に』
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第5話 雨と涙 ★

鳩尾の痛みに悶えること数十秒。

ようやく痛みが引き始めたところで立ち上がる。

女の子はフードを目深に被ってさっきよりも髪を見せないように警戒している。

どうしてそこまでして隠そうとしているのかわからない。

きっと聞いても彼女の口からは教えてくれないだろう。

もともと口を開かない彼女だ。

今ので余計警戒されて絶対会話なんてしてくれない。


「えと…あの、ごめんなさい。」


しかしさっきは驚かせてしまった。

髪を隠す為とはいえ、いきなり服を脱がされるなんてそりゃ怖いよね。

だから素直に謝る。

それで許してくれるとは思わないけど。

いわゆるケジメって奴だ。

女の子は反応無し。

もういちいち動揺なんてしない。

彼女はそういう子なんだろう。

無口無表情キャラ。

そう考えれば納得いく。

でも、やっぱり全く反応無しは辛いかなぁ…

マネキンに話しかけてるみたいでちょっとね…

まぁ喋れなんて強制するわけにもいかないし。

僕もそんなことしたくない。

いくらこの世界が僕の作った仮想世界であったとしても。


…仮想世界って言うと、なんだか全てがまがい物みたいで嫌だな。

確かに作られた世界だけど、今僕はここに立っている。

風を、匂いを、音を、目に見える全てを、感じているんだ。

この感覚は偽物なんかじゃない…と思う。

自信ないけど。


そんなこと考えている間にも、彼女は微動だにしない。

なんか怖いくらい無言だな。

これはもうキャラとしての認識だけで良いのだろうか。

喋れないとかその手の病気なんじゃなかろうか。

というかそもそもなんでこんなところにいるんだっけ?

あ、さっきもそんなこと考えてたな。

結局、全然分かりゃしないんだけどね…と、


突然、空から雫が落ちてくる。

それにつられて空を見上げると、さっきまでの青空が、いつの間にか雲の灰色に染められていた。


「あ…雨……」


落ちてくる雫は、だんだんと量と勢いを増していき、瞬く間に土砂降りになる。

急いで帰らないと。

そう思い足を家に向けようとしたところで、未だに立ちつくす女の子に気付く。

雨が降っても動かないの?

君は一体何がしたいのさ!


「君、家はどこなの?」


話しかけるけど、その声は雨が地面を叩く音で散らされる。

それでもきっと届いているはずの言葉にも、彼女は応えてくれない。


「早く帰らないと、風邪をひくよ?」


彼女は動こうとしない。

ただただ僕の言葉に首を傾げるだけ。

…ああもう!


「とりあえずうちに行くよ!!」


考えたって仕方ない。

あまりにも動かないので手を掴んで家に向かう。

彼女は今度は抵抗しなかった。

というより、これも無反応だって考えたほうが正しいのかな?

でもこのまま放っておいたら、ずっとあのまま突っ立ってそうだったから。

そんなの、見過ごせるわけないだろ。

無理矢理にでも連れて帰る。

話を聞くのはそれからでもいい。

そもそも話をしてくれるかどうかはわからないけど。

そんなことだって、帰ってからいくらでも考えられる。

考える前に行動だ。


動かない女の子を連れて、ようやく家にたどり着く。

途中、ぬかるんだ地面に何度も転びそうになったりしたけど、無事に帰ることができた。

お姉さんはまだ帰ってきてないみたいだ。

とりあえず濡れた身体を拭く為に、自分の部屋に行こう。

女の子も一緒に。

どうせほっといたらそのままなんだろ?

じゃあ僕が動かなきゃ。

…まるで保護者だ。

一応、初対面なのになぁ…

なんでだろうね。


自分の部屋のタンスからタオルを取り出す。

まずは女の子の方をどうにかしよう。

彼女の濡れた身体を拭くには、まずローブを脱がさなければならないわけで。

…さすがにまた脱がしにかかるのは気が引ける。

というかまた鳩尾に肘食らうのも嫌だ。


「…頭拭くから、フード外してくれる?」


無反応…かと思いきや、


「……やだ。」


きゃああああしゃべったあああああ!?

とまぁ冗談は置いといて。

…て、あれ、やだって言ったこの子?

彼女はふるふると首を横に小さく振っている。


「そのままだと風邪ひくよ?」


「…いい。」


「駄目だよ?ちゃんと髪乾かさなきゃ。」


「…いい。」


「だから、風邪引いちゃ駄目でしょ?」


「…いい。」


だぁーもー!!

話が進まん!!

こうなったら荒療治だ。

まだちょっと心に抵抗があるけど、無理矢理フードを脱がす。

鳩尾に肘食らうとか気にしてる場合か。

そんなことより目の前の女の子をなんとかすることだけ考えろ。


「……っ!」


女の子は脱がせまいと必死にフードの端を掴んで離さない。


「ちゃんと拭かなきゃ!駄目でしょーが!!」


それをさらに力ずくで引きはがしにかかる。


「…やぁ…!」


彼女はイヤイヤと首を振りながら抵抗する。

……さっきもあったけど、これセクハラでもイジメでもないからね?

だけど、女の子が男子の力に勝てるわけもなく。

再び白銀があらわになった。

女の子は今度は髪を見せまいと両手で頭を抱える。

なんでこんなにも隠したがるのか全くわからない。

両手の間から覗き見える銀髪は、露に濡れて幻想的な色をしている。

こんな綺麗な髪を、なんで?

とりあえずさっさと拭いてしまおうとする…と、


女の子の頬を、雫が伝った。

改めて女の子の表情を見ると、彼女は泣いていた。


…うん知ってる。

僕が泣かしたんですよね?

あんなに無理矢理フード引っぺがしにかかられたらそりゃ泣きますよね。わかります。

ごめんね。そう口にしようとした瞬間。


「……も、やだ…こんなの…」


彼女が、泣きながらそう言った。

最初は僕のことを言っているのかと思っていたけど、どうやら違うみたいだ。

彼女は自分の髪をくしゃりと手で乱す。


「…こんな髪…嫌い…」


最初に見た時の無表情が、今はこんなにも涙で歪んでいる。


「……どうして…?」


自然と口からでていた言葉に、今度は答えてくれた。


「……これ…皆、ヘンな目で…」


とぎれとぎれの言葉に、僕は理解する。

ああ、そういうことか。

今日1日で見てきた村の人達の容姿を思い出す。

彼女は、自分の周りと違うこの髪の色に、コンプレックスを抱いているんだ。

だからあんなにも頑なにフードを外そうとしなかったんだ。

彼女は僕に髪を見られたくなかったんだ。

僕にも周りの人と同じように、変な目で見られるんじゃないかって。

…悪いことをしてしまった。

この子の気持ちを考えずに、理由も聞かず、問答無用で。


彼女はずっと頭を抱えながらぽろぽろと涙を流している。

その姿に、僕は。


そっと、抱きしめていた。


考えてやったわけでもなく、本能的に身体が動いていた。

自分が今どれだけ恥ずかしいことをしているのか、そんなこともわからなかった。

どうでもよかった。

ただ、出来うる限りで彼女を慰めたかった。

この子をこれ以上悲しませたくなかった。


「………!」


女の子は驚いて、僕を押し退けようとしている。

しかし、その両腕に力は入っていない。

僕は、そのまま話しかける。


「もう大丈夫だから。」


その言葉に、女の子は硬直する。

さっきまで押し出されていた両腕もピタリと動きを止める。

さらに僕は言葉を続ける。


「もう誰も君を変な目で見たりしない。そんなこと、僕がさせない。」


女の子が何か呟いている。


「……どう、して…?」


彼女のか細い声がそう言っているように聞こえた。

だから僕は。

彼女の背中に回していた手を、抱きしめていた身体を離し、そのまま両肩を掴む。

緊張でちょっと震えてるのが自分でも分かる。

こんな所でも僕は人見知り効果が起こるのか。

コミュ障が出て来ちゃうのか。

だけど。

これだけは、伝えなきゃ。

もう嫌いだなんて言ってほしくないから。

もっと自分を好きになってもらいたいから。

彼女の目をしっかりと見て、言う。



「だって、僕は君の髪の色、好きだから。」



驚きに目を見開く女の子。

再び翡翠の瞳から涙がこぼれ落ちる。


挿絵(By みてみん)


果たしてそれは悲しみの涙なのか。

女の子はコクリと頷く。


「良かった。…さっきはひどくしてゴメンね?」


さっきは言えなかった謝罪の言葉を口にする。

すると、今度は彼女から抱き着いてきた。

瞬間、体温が急上昇しかけるけど、なんとかそれを抑え込んで静かに両手を彼女の背中に回す。


「……ありがとう」


小さく彼女が言葉にしたような気がした。

良かった。

なんとかなったかな。

そう安心しかけた瞬間。


ガチャッ


「ひゃーすごい雨!急に降ってくるんだもの!マオ君は大丈夫だっ…た……」


リディアお姉さんが帰ってきて、僕の部屋を開けた。

今お姉さんの目には抱き合っている僕と女の子が写っている。

僕はこの状況に身体が硬直している。

女の子はどういう状況か分からず抱き着いたまま首を傾げている。


「………ご、ごゆっくり…?」


パタン

扉が閉じられた。


「ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!?」


この後誤解を解くのに30分かかりました。

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