プロローグ 理想と現実
アニメというのは、ゲームというのは、現実には出来ない事が出来るという所が魅力的だ。
男というのは、アニメや特撮で見たようにヒーローや主人公になって、敵をバッサバッサと倒して市民を助けたり、強力な魔法や剣を駆使して魔王を打ち倒し、世界を救ったり。世界観は様々だが、結果的には悪を滅ぼし、正義が勝つ。
シンプルだが格好良い、そんなイメージを小さな頃に持って成長していくものだ。
なんだか偏見な気もするが、間違ってはいない気がする。
少なくとも俺が幼稚園や小学生の頃は、男子はこぞってごっこ遊びでヒーロー役になりたがるものだった。
俺、一ノ瀬真央も、勿論その枠に当て嵌まるごく普通の少年だった。
それが10数年経った今、高校生にもなってゲームを愛し、アニメの世界に魅了され、現実という毎日をなんとなく無気力に、怠惰に貪り生きる人生になっていた。
俺はアニメの世界に魅了され過ぎた。
年齢も弁えずゲームの世界に夢を抱き続けた。
そんな俺が密かにやっている事。
ファンタジー小説の執筆。
それも、文才なんてなく、ほとんど執筆できていない駄作。
設定を考えるのだけは得意だった為か、内容が全く構成されていない癖に無駄に細かい世界観だった。
こんな世界があればいい。
そう勢いのままに世界を生み出していく感覚は最高だった。
ストーリーの内容は、田舎の村に住んでいた少年がとある少女と出会い、冒険者養成学園に入学。
そこで出会う同じ道を歩んでいく同志達と共に自身を高め合い、成長していく異世界青春物語である。
単純に魔王を倒すだけじゃ物足りなかったので、日常モノみたいなのを取り入れてみたり。
しかし、いくら細かく物語や設定を構成できても、それを文章として書き綴れる程の文章力や国語力というものが足りない。
表現したいことも表現出来ない。
毎日パソコンと向き合っては悶々とする毎日だった。
でも、諦めて投げ出したりはしなかった。
なぜなら、自分の生み出したこの世界は、自分の理想そのものだったからだ。
だから、書けなくとも毎日、この小説と向き合う時間を作る。
つまらない現実より、この世界を覗き込むことの方がよっぽど自分としては有意義だ。
しかし、やはり毎日毎日進展もなく、それが数ヶ月も続けば、さすがに辛くもなるだろう。
今日もまた、一文字も書くことができず、溜息をつきながらベッドに倒れ込む。
作業していたのが深夜だったからか、全身から力が抜けた瞬間、一斉に眠気が押し寄せてくる。
ベッドの側に置いてある時計を見ると、時刻は既に3時を回っていた。
明日は土曜日。別に寝過ごしても大丈夫だろう。
それよりも小説だ。
どうしたら上手く執筆できるのだろう。
やっぱりいろいろな小説を読んでみることが大切なのだろうか。
明日は久々に本屋にでも行ってみようか。
でも本を読み漁るのもなんだか遠回りな作業に思えて、あまり効率が良い感じがしないな。
頭の中で様々な考えが出ては消えるを繰り返す。
嗚呼、いっそのこと…
「小説の世界に入ってしまえば、見たものありのままを書き綴れるのかもしれないのにな…」
考えていたことがいつの間にか口から出ていた。
だがそんなことを気にする間もなく、睡魔に全身を支配され、意識は闇の奥深くへと沈んでいった。