入学前
魔物の繁殖期の始まりと魔王復活の予知が和の国の先読みの巫女からもたらされたのは、ちょうど学園への入学が決定して自由にいられる残りの余暇をさあ楽しもうかと酒場に行ったときだった。
和の国、元の世界で言う昔の日本。東方の国で独特の文化を持ち、名産の武器である刀や薙刀などで有名な場所とされています。まあ、ギルドの方からの受け売りですがね。先読みの巫女はいわゆる未来視の異能を持った者をさす言葉で、巫女の言葉は一国の王でさえ無碍にはしないほど影響力がある。今回の予知は今までの予知の中でも最凶最悪の部類に属することは私でも解ります。
魔物の繁殖期は何の捻りもなく言葉通りの意味です。これは周期的に起こる出来事なので、特に驚きはありませんが、後者が問題です。過去、魔族の王たる魔王が世界に与えてきた災禍は筆舌尽くしがたく討伐にも多大な犠牲を払う結果が大半。その状況は望ましくない、何か手はないものか。それをテーマに各国の魔法使いや研究者が議論を重ね、辿り付いた答えが勇者召喚。
頭に異世界からの、と補足がつきますが。義理はないけど、お願いしますってやつですね、つまりは。個人的に最低の結論だと言わざるを得ないです。自分達の都合を関係のない異世界の住人に押し付け、勝手に義務を背負わせる。人の生を乱し、その者の可能性を根こそぎ奪った上で本来の正常な生活基盤を破壊し戦いを強要する。
神様曰く日本人は人気者で召喚される確立は全世界的に見てもナンバーワンだそうで、悔しいような悲しいような気持ちになりました。尤も、正義感溢れる好青年だとかチート性能持ちを上手く選定して召喚するから、問題は特にないんだとか。そういう人物は地球に馴染み難く異世界のような環境の方がより適しているらしい。
私もそれにカテゴライズされると追伸が来たときには非常に微妙な気分になりましたけれども。とりあえず、世界規模の危機に直面した各国の上層部の人間は迷うことなく勇者召喚を学園の入学式前に召喚を行い、学園にて経験を積んでもらうと召喚前のしかも協力要請を受理されてないにも関わらず決定し、既にそのための準備を開始しているという。その行動力には脱帽ですが、その行動には失望ですね。
安易に外の人間に頼る態度も、迷うことなく人の運命を壊す行為に手を染めることも、自らの保身ばかりに全力を注いでいることも。さしもの、まともな世間一般で言う賢君の方々も数の利には敵わず、多数決で押し切られた形のようだ。と、まあ私はあの予知を効いた日から政治情勢の観察が趣味になってます。この一年間で出来た伝をフル活用した趣味ですがね。
せめてもの罪滅ぼしか召喚された者には色々と最上級の待遇を与えるらしいです。与えるって上から目線な時点で、もう駄目だと思うけれど一部を除いた愚鈍な上層部の人間は召喚により現れた者は勇者として責務を負うことが当然であると錯覚しているから仕方がない。まともな方曰く幾ら正論を説いた所でやつらに話は通じない・・この諦めの姿勢も減点対象ですね。事実なのでしょうけれど。
「今日も面白い話の提供、感謝する」
「この後は依頼か?」
「そろそろ学生になる身だ。勉強ついでとはいえ、ずっと趣味にかまけていられるわけにもいかないのでな。予知通り、増え始めた魔物の中でも特に酷い子鬼を駆除してくる」
「一年で随分とらしくなったな」
「周囲が良い人ばかりだったのでな。嫌でも成長もする」
「お褒めに預かり光栄だ」
すっかり板についた口調でいつもの受け答えをする。この日常的(?)な会話が好きですね。殺伐とした世界に身を置くと余計にそう感じます。さてと、入学費の支払いで大分手持ちも減ったので、しっかり稼がないとですね。
八津原 湊 Lv23 種族白狼
筋力145 体力150 敏捷170 耐久100 魔力214
Pスキル、身体強化,肉体構造強化,動体視力強化,反射神経強化,魔力増強,徒手空拳
Aスキル、念動力,伸縮自在の爪,爪撃,魔斬爪,凶暴化,狂抉爪乱(凶暴化時のみ使用可),駿狼爪牙