現在の心境
あの始まりから、もう一年が経とうとしている。←途中経過はどうした!?
久しぶりですね、神様。この約一年、色んなことがありました。語るには多すぎますが。この約一年で雑用依頼とそこそこの討伐、採集でお金を貯め、実績を重ねどうにかEランクまで昇級した。奴隷になりかけたこともあったし逆に奴隷商人を血祭りに上げたこともあった。
戦闘能力は総合的に見てCランクの下っ端相当の魔物なら単独で討伐できるかなぁと言った所。実際に受けた事のある最高難度の討伐依頼はEランクのボブゴブリン討伐。代わりに月毎に冒険者ギルドが主催する武術大会のランク別徒手格闘及び自由形の部に毎回参加したから、対人経験はそれなり。
多少ながら門番さんに手解きしてもらい、技術も当初とは比べ物にならないと豪語できる程度には身につき、ついに来年からフラグだらけの学園に入学する。正直、実力不足を感じないでもない。学園という機関は最早魔窟といっても過言ではない・・と聞き及んでいるから。入学資金の方は合計で白金貨二十枚。
お金の単位はカルマで銅貨は1カルマ、赤銅貨は10カルマ、鉄貨は50カルマ、白鉄貨は100カルマ、銀貨は1000カルマ、白銀貨は5000カルマ、金貨は10000カルマ、白金貨は100000カルマ。つまり、入学費用は2000000カルマ。
尤も、支払い自体は卒業後でも構わない。代わりに一年で一割の利息が付く。学園は三年間だから、最終的な支払いは白金貨二十六枚。勿論、私は一括払いした。納金自体はいつでも出来る。しかし、試験をパスしてないため入学は確定していない。もしも落ちたら、きちんと返金される。
創設当初は着服とか汚職がたくさんあったらしいけど、大丈夫だよね。困った時は竜殺しさんを召喚するし。
「神が直々に面会に来たのに今一安定しない地の文で独り語りとは、寂しい子になったね」
「いや、働き詰めなんで頭の回転が遅い所為か口調が定まらないんです。定める余裕ないんです」
「普通にデスマス調でいいと思うだけど」
「はっ、神ともあろう方が環境の変化の恐ろしさをよもや知らぬとは申しますまい。粗野な冒険者の中にほぼ純粋培養の娘っ子放り込むような真似をして、果たし娘っ子は元のままでいられるとでも?ほら、この通り内面は臆病な私も外面は見た目に比例したクールキャラ。口調も地の文と違い意識しないとデスマス調では喋れない。全く、困った事をしてくれたものだ」
「そっちの方が君、饒舌だね。実は鬱憤溜まり過ぎた反動じゃないの?」
「理解しているなら、口を慎め神が!」
「うわぁ、相当キてるな」
ええ、神様。相当キてますよ、私。何たって、ここ三日は残業で不眠不休。Dランクの雑用依頼という超級に珍しいものに好奇心を擽られ、依頼者宅の門を叩いてしまったのが運の尽き。掃除洗濯、料理など基本的な家事からご近所さんへのお土産配り、果ては建築物の解体などなど、一個に対し複数分の依頼内容が盛り込まれたまさにDランクに相応しい依頼。達成難度もDランクの適正に当てはまるほどの体力消費。
皮肉ながら締め切り直前の漫画家の気分を味わえました。嬉しくないし二度とごめんですが。働きぶりを賞賛され追加報酬も合わせると金貨五枚の儲けでしたが、今現在も疲労ゆえにベットの住人です。
「好奇心は猫も殺すからね。幾らギルドを通した正式な依頼でも見極めないと今回と同じ轍を踏むよ。なまじスペックの高い種族だから無茶を可能にしてるけど、普通の人間なら血管がぷっつり逝っても可笑しくない負荷レベルだったから、もっと気をつけるべきだ」
全く、と神様は呆れたように息を吐いた。
「そもそも、君のような境遇の子に第二の人生をプレゼントしているのは確かにこちらの都合もあるが、大部分は幸せを感じ人生を謳歌してほしい、そういう思いを持った上での取り組みなんだ。君は毎日を全力で生き、満足できる生活をエンジョイしてるようだけど、こちらとしては生き急いでいるように見える。焦らなくてもマックスの寿命自体は長めに確保してあるんだから、少しペースを落としなさい。今回はそれを伝えに来た。だから、もう戻るけど、くれぐれも長く生きるように」
「神様は私のお父さんか!」
「悪くないけどね。息子も娘も合わせると百超えるから、ちょっと遠慮してもらいたい」
「ネタふりのつもりだったのに、生返事しないでもらいたいんだが」
「いや、ほんとほんと。でたらめじゃなく本当さ。これでも人間の数億倍は生きてるから」
それが一番でたらめです。まあ、神様だし不老でも不思議じゃないですけど。そうして、苦笑いを貼り付けた神様は煙のように自然と消えた。神様はいつも思い出したように現れる。時々、奥さんも連れてきて。少し話すと直ぐに帰ってしまう。でも、それだけで私は満たされる気持ちになる。それに雑用依頼を受ける中で知り合った人達、門番さんやギルドの受付のお兄さんとの世間話をするだけでも、それだけの事でも同じように満たされる。
みんなは私を心配してくれて、時に叱ってくれる。親切で優しくて、とても暖かい人達だ。
生前の私が知らなかったことを、教えてくれた人達だ。生前の私は生来の理由であまり外出もできず、半ば引きこもるような生活を送っていた。小さい頃は何かと心配してくれた家族も年を負う毎に腫れ物を扱うような態度を取り始め、やがて私は孤独になった。私の世界は与えられた家の一室。
事務的に部屋まで運ばれて来る食事を独りで食べて、与えられた本やゲームで日々の時間を潰す。勉強は通信教育で習った。私は勉強をした後、本を読み終わった後、ゲームをした後、いつもいつも窓から外の風景を眺めていた。悪ふざけをしながら小突きあう同年代の男の子、おしゃれをして楽しそうな女の子。羨望、嫉妬、醜い感情だけが溢れ心を蝕み、何時からか私は優しさなど正の感情を忘れた。
世話をかけていると認識していても家族への不満が募る。アルビノは紫外線対策を講じれば、多少なりと外出は可能なのに何故私はこんな所に押し込められているのかと。来る日も来る日も同じ事の再現をしている気持ちになった。醜い感情が増していく。そんな日々が続いたあくる日、鏡をみると表情の抜け落ちた笑わない自分がいた。それ以来、私から色んなものが抜け落ちた。
家族の顔が解らない。
家族の名前も忘れた。
何で私はここにいる?
何のために?
なんで、
なんで、
なんで、生きているんだ?
抜け落ちた何かが視覚から聴覚から入ってくる現実の認識と齟齬を生み、形容し難い衝動が身体を支配したとき、私は家を飛び出していた。真夏の直射日光が肌を焼いた。肌がひりひりと痛みを発する。その衝動は度々私を支配した。そして、紫外線に犯された私は皮膚癌を発症した。癌細胞はあれよあれよと私の身体を好き勝手に飛び回り、呆気なく私は事切れた。
今の精神状態は正常だと自信を持って言える。でも、異世界生活一日目は多分まだおかしかった。ポーカフェイスじゃなければ、門番さんにも受付のお兄さんにもおかしいと認識されていたと思う。外面クールで内面臆病なのはデフォルトだけれど、あの頃は若干狂気が混じっていたかもしれない。
兎にも角にも、私を治してくれた人達に感謝しつつ異世界生活頑張ります!
八津原 湊 Lv12 種族白狼
筋力68 体力76 敏捷70 耐久52 魔力104
Pスキル、身体強化,肉体構造強化,動体視力強化,反射神経強化,魔力増強,徒手空拳
Aスキル、念動力,伸縮自在の爪,爪撃,魔斬爪,凶暴化,狂抉爪乱(凶暴化時のみ使用可)