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始まります、狼生

暗転した視界が開けてくると、そこは両脇を森に囲まれた一本道だった。身体の状態を確認する。装備は麻の布で出来た言うなれば、村人の服だろうか?靴も質の悪い革靴。ザ・貧民って格好。次に肌、真っ白い。でも、以前の日に焼かれる痛みは感じない。神様のくれた日光への耐性のお陰。最後に体よく見つけた水溜りに映る自分を見る。純白の髪、雪の肌、淡い雰囲気のそれらの中で自己主張する紅玉。そして、ぴくぴくと動く狼の耳。


背後に手を回すと臀部より延びる棒、否尻尾。神様は有限実行する方だ。ランダム選択した結果、種族が白狼となり人間の耳は消え去り、頭部に代わりが出現。臀部からは極上のふさふさ感を持つ尻尾が延びている。髪型はウルフカットで固定されている。そう、固定されてます。後ろで束ねようとすると不思議な強制力が働き規定値(ウルフカット)に戻る。神様、安直です。まあ、好きですがウルフカット。


ところで。神様曰く私が送られた世界は剣と魔法の世界、簡潔に言うと戦争や殺し合いがある世界。またファンタジー小説によく出る魔物・・人外の怪物が棲息している世界。ならば、武器は何処に?まさか丸腰で猛獣を相手にしろと、おっしゃるわけではありますまいな?少々、時代錯誤な口調なのは臆病な私なりの感情表現で真剣にびびってます。


思いは神様に届いたのかどこからともなく一枚の手紙が宙に出現して、ひらひらと落ちてくる。それを拾い確認する。


白狼という種族は並外れた身体能力を有する一族で戦闘手段は近接戦闘、主に格闘技。要するに殴る蹴るだね。種族の特性で爪も伸ばせる。硬度と切断力は折り紙つきだよ。

どうしてもというなら、ショートソードを進呈するが、どうだろう。


試しに爪を伸ばして手近な木の幹を一文字になぞってみる。抵抗感は微塵も感じずに切り裂けた。確かに下手な武器よりも爪の方が強い。うん、これでいこう。では、街を目指して出発・・したいけど、どっちに行けばいいか皆目見当も付かない。そんな時、天から舞い降りる一枚の用紙。


追伸,君の現在地からなら、どちらに行こうが距離は変わらないよ。あと、どの国も初めて王都に入るときは門の前で身分証明と一定の料金を支払わないといけないからね。自分証明書と料金、サービスで二日分の宿賃もつけてあげよう。頑張りたまえよ、異世界初心者君


読み終えると、空から硬貨と金属板が降ってきた。硬貨は銅製のものが十枚、銀製のものが二枚。多分、銀貨の方が宿賃だと思われる。身分証明書とやらは金属製なのに計量で名前と出身地、犯罪歴などの項目にそれぞれの該当事項が刻印されている。そして、私は十四歳らしい。神様(あちらさん)の事情かな。一通り確認が済んだ。


いざ、行かん。新天地へ。



・・・六時間掛かった。新しい身体は想像以上にハイスペックで六時間歩き通しでもぴんぴんしてる。前世の私だったら二時間歩いて疲労困憊、翌日は全身筋肉痛で絶対ベットの住人になってた。兎にも角にも漸く見えてきたのは城壁で実用性重視のどっしりとした門構え。あれ、街じゃないっぽい。


「入府希望者なら身分証明書の提示と料金10カルマを支払ってもらうぞ」


そんな疑問を余所に気骨隆々の門番さんに声をかけられた。ひぃ、怖い。私の表情筋はぴくりとも反応してないですがね!ていうか入府って、都・・王都ってこと!?神様の追伸に込められてた意図はこれか。気持ち呆然としながらもポケットから銅貨十枚を取り出して門番に渡し、身分証明書も提示する。


「犯罪歴もなし、料金も確かにもらった。入っていいぞ。王都ゼノスにようこそ、クールな嬢ちゃん」


「クールな嬢ちゃん?」


「自分で言うのも何だがな。強面の俺を見て、びびらなかったやつは初めてだ。俺の顔に動じる様子もなかったから、クールな嬢ちゃんさ。まあ、嬢ちゃんは笑ってた方が若造共にモテると思うがね」


「若造?」


「ん?嬢ちゃんは十四歳だろ。来年の学園の入試に向けて上京してきたんじゃないのか?若造ってのは魔法学園の男共のことだが」


学園とは、あらゆる分野の優秀な人材発掘を目的とした教育機関で昨今は戦士や魔法使いの育成に力を入れているらしい。背景に魔物の繁殖期が近いことが上げられるらしい。らしいらしい、って続けるのは全部伝聞だから。門番さん、超新設。でもまあ、神様は学園に通えと暗に言ってるわけだ。


そうなると、一年で入学費用も揃えて、生活基盤も整えないと。


「実は親が不幸にあって・・頼れる人もいなかったから、特に目的もなく、ここまで来たんです。手持ちも宿賃二日分くらいで。学園に興味も湧いたので、お金を稼ぐ手段を教えてくれませんか?」


「そうか、嬢ちゃんも苦労したんだな。金、か。冒険者になって、依頼をこなすのが手っ取り早いといえば早いが相応の危険も無きにしも非ずってな。もし冒険者になるんなら、このまま真っ直ぐ行くと冒険者ギルドって建物があるから、そこで登録することだな」


「親切にありがとうございます」


「いいってことよ。あと、登録には銀貨一枚掛かるぞ」


門番さん、最後に大きな爆弾を投下しないでください。金、金がない。あれよあれよと異世界に送られて六時間歩いた先が金欠。碌な人生ならぬ狼生じゃない。


「先立つもんがないんだろ?やるよ」


ぽんと渡されたのは金貨。今回も気持ち呆然。


「こんなにm」


「貰えないなんて言ってくれるなよ。将来有望そうな嬢ちゃんに先行投資さ。登録と装備を整えな。見たとこ狼系の獣人だろ、嬢ちゃんは。身体能力が優れてるのは分かるが、さすがに麻の布で冒険させるわけには行くまいよ」


「じゃあ、ありがたくお借りします。余裕が出来たら返すので、待っててください」


「別にいいんだが、嬢ちゃん結構律儀だな」


「恩は返すものです。仇で返す人もいますが」


違いねぇ、と門番さんは豪快に笑った。私は再度、お礼を行って冒険者ギルドに足を向けた。先立つものは必要だからね。ギルドはなんか如何にもな建物だった。中は時間帯の所為なのか閑散としていた。人見知りの私はこれ幸いと受付にダッシュ。ああ、身体が軽い。


「あの、登録したいのですが」


「登録料として銀貨一枚を頂戴します・・はい確かに頂きました。では、こちらの用紙に名前、年齢、種族、特技をご記入ください。情報はギルドが責任を持って管理しますので、ご安心ください」


「特技というのは?」


「例えば、魔法がお使いになられるなら、得意な属性や魔法を。剣術がお得意なら、そのままご記入ください。尤も、特技の欄は必ずしも必要ではありません。ご記入されれば、それを加味し依頼を斡旋することもあるかもしれない。そんな程度のものなので」


「じゃあ、一応徒手空拳と」


「次にこちらの水晶に血を一滴垂らしてください。水晶が身体情報を読み取り、ギルドカードに結果を刻むので」


言われた通りにする。伸ばした爪で指先をツンと突けば、じわりと血が滲んできた。


「はい。こちらの作業は時間が掛かるので、先に依頼などについての説明に移らせて頂きます。といいましても、大して説明することもないのですが、聞きますか?」


「お願いします」


「まず、ギルドランクについてです。これは依頼実績と素行を合わせ見た上での信頼度を表します」


「実績はともかく、素行は何故ですか?」


「ギルドランクはSランクを筆頭にAからGまであり、C以下までなら実績だけでも昇級できます。しかし、Bランク以上は貴族や、それこそ国から依頼が来るランク。揉め事や犯罪行為すれすれの行動を取るような冒険者にそのような依頼を斡旋したとあれば、ギルドの沽券にかかわる大問題なので、素行も考慮されます」


「なら、Cランクの冒険者はそれ以上のランクの依頼は受けられないんですか?」


「そう言うわけではありません。素行も考慮すると言いましたが、引っかかる者はそうそういませんし国や貴族から依頼が来る場合は大抵指名なので、ギルドの仕事は渡りを付けるだけです。それにご指名以外の依頼事態は実のところランクは関係なく受けることは可能なのです。けれど自らの力を過信する輩がいますので、明かされていない事実です」


「私に話してよかったんですか?」


「あなたはご自分の実力にあった依頼であるかどうか冷静に判断できるかと思いまして。何より、あのデュクトさんに将来有望そうだと言わしめたのも大きいですね」


「デュクトさん?もしかして、門番さんですか?」


「ええ。あなたとの会話を出勤途中に小耳に挟みましてね。あの方は凄いですよ。結婚を機に門番へジョブチェンジされましたが世界的に見ても少ないドラゴンキラーですからね」


竜殺しの門番!?非番の日に稽古でもつけてもらえないだろうか。


「それはともかく、続きまして依頼についてです。依頼は討伐、護衛、配達、採集、雑用の五つに大別されます。実績として一番評価されるのは討伐系です。難度はギルドランク同様Sを筆頭としGまであり、ギルドランクに対応しています。最後に奥の施設についてです」


私もそれが一番気になっていた。依頼が張られている掲示板は入り口付近から右側の可部を伝い受付の横まで、ずらりと続いている。そして、受付の左側には二階への階段と奥に続くドアがあるのだ。


「この奥には魔物から剥ぎ取った素材や迷宮から持ち帰ったアイテムの換金を行う受付と闘技場があります。闘技場については冒険者同士の争い事を円滑に解決するための血統上となっています。以上で説明は終わりです。どうやら、ギルドカードもちょうど出来上がったようですね。ちなみにギルドカードは魔法具の一種でレベルや能力値、スキルが記載されており、自動で情報は更新されていきます。また稼いだお金をチャージすることで財布の代わりにもなります。尚、なくした場合は再発行に銀貨二枚を支払ってもらうことになるので、お気をつけください」


「ご丁寧にありがとうございました」


「いえいえ、仕事ですから」


この笑顔や立ち振る舞い、受付の尾人さんはまさにできる男って感じだ。うん、早速依頼を受けようか。何を受けるか悩んだが雑用系の依頼にした。王都を見て回るついでだ。依頼用紙を掲示板から取り、受付に持っていく。


「雑用系を受けてくださるんですか?助かります」


「やっぱり人気ないんですね。ところで受付はお兄さんだけでやってるんですか?」


「いえ今日は急用で欠勤していますが、あと二人いますし、一階の受付では主に登録と受理の作業しかしていません。依頼の報告などの処理は二階で行われています」


「なるほど。最後に質問良いですか?」


「どうぞ」


「お勧めの宿屋及び武器屋はどこですか?」


「宿屋も武器屋もギルドを出て、左に直進した所に隣り合ってありますよ。特に宿の方は雑用依頼の依頼主です」


「ありがとうございます」


こうして、私の狼生は始まった。


八津原 湊 Lv1 種族白狼

筋力25  体力35  敏捷30  耐久25  魔力50

Pスキル、身体強化,肉体構造強化,動体視力強化,反射神経強化,魔力増強,徒手空拳

Aスキル、念動力,伸縮自在の爪,爪撃,


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