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黎剣のゼスト  作者: 幻人
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第2話 偽りの革命家 <2nd トラキア革命軍>



 翌日の昼。

 ハヤトとセーラは古都セルディカに到着した。

 セルディカはトラキア地方最大の都市で

 同地方を統べる総督府が置かれている。

 歴史は長く古い建造物がある事で有名だ。

 街の入り口には検問が敷かれている。

 ハヤトはこれまで色んな街を巡ってきた。だから、検問には慣れている。

 しかし、その検問で問題が起きる事には慣れていなかった。


「土地の者ではないな。通行料を出せ」


 ハヤトとセーラは警備兵に呼び止められた。

 財布を出しながらハヤトは警備兵に問いかける。


「一応俺外交官なんだけど、それでも通行料出さないとダメか?」


「外交官?…… その勲章、お前エーゲ軍だな!」


 警備兵はハヤトの胸の勲章に気付き声を上げた。

 その一言を聞いて他の警備兵達が集まってくる。彼等は鞘から剣を抜いた。

 警備兵はエーゲの軍服を着ている。見る限り彼等はエーゲの軍人だ。

 しかし、彼等はエーゲの軍人であるハヤトを敵視している。

 ハヤトはとっさに左手を鞘に当てた。表情を引きつらせ彼は舌打ちを鳴らす。


「一体どうなってやがる」


「我々はトラキア革命軍。エーゲからトラキアを解放する戦士だ」


 ――トラキアを解放? 訳が分からない。


 革命兵からはナショナリズムが感じられない。

 彼等は無表情で目が虚ろ。口だけが唯一の感情と言えた。


「エーゲは我々の敵だ!」


「上等だ。相手になってやる」


 ハヤトは戦う気満々で、既に抜刀の構えを取っていた。

 すると、突然前にセーラが現れる。


「何かよく分からないけど、オーナーに手出しさせないよ」


「お前もそいつの仲間か!」


 セーラは頷く。それを見た革命兵は彼女に襲い掛った。

 走り出すとセーラは棒を手元で回転させ革命兵に突進した。


「旋風、爆砕衝!」


 セーラは棒をバトンのように回転させ革命兵の首やミゾを強打する。

 彼女の技を受け兵士達は気絶していく。ハヤトはその光景を見て驚いていた。


「ほぅ、頼もしいな」


 ハヤトはセーラが戦う姿を始めて見る。

 彼女の実力を知りハヤトは心の中でセーラを賞賛した。

 セーラの奮戦により、辺りにいる革命兵はたったの2人だけ。

 彼女は迷わず残りの兵士に向かって行く。


「秘技、足払い」


 セーラはふざけた口調で2人の兵士の足を払った。

 兵士は勢いよく地面に倒れ込み気を失う。

 革命兵を掃討したセーラは自信満々の顔でハヤトの元に戻ってきた。


「どうお? 私強いでしょう」


「自画自賛かよ…… まぁ、ホントの事だから良いけど」


 ハヤトは呆れつつもセーラの行動を評価した。

 セーラは倒れている兵士の顔を覗く。


「ハヤト、この人達何か変だったよ? まるで人形みたいだった」


「あぁ。口以外は人間性を感じられなかった」


 2人は革命兵の異変に気付いていた。

 セーラと戦っている最中、革命兵は大きな叫び声を上げず

 逃げる事もしなかった。


「どうするの?」


「うーん…… とりあえず街に入ろう。中で何か分かるかもしれない」


 革命兵を退けた2人は何事も無かったかのように街に入っていく。


 ――革命軍か。ちと、情報を探る必要があるな。




 街に入ると、ハヤトとセーラは大通りを避けて路地に入った。

 セルディカの街は白と赤レンガの建物が多い。

 ほとんどの建物が3階以上で典型的なヨーロッパの街並みと言える。

 だが、建物の作りは古く時代を感じさせた。


 ――人がいないな。


 数分歩いても路地に人の姿は見えない。

 2人が路地を曲がると、ようやく通行人と遭遇できた。

 通行人の男性は老人で、頭に帽子を被り杖を突いている。

 ハヤトは老人に声をかける。


「ご老人、ちょっと尋ねたい事があるんだが」


「なんだね?」


「革命軍の事を教えてくれないか?

 俺等街に着いたばかりで何も知らないんだ」


「そうだなぁ……」


 老人は悩み込む。あまり言いたそうな表情ではない。

 間を置いて、老人はハヤトの顔を見て口を開いた。


「彼等は1週間前突然現れた。

 街の兵士を次々に仲間に引き入れ

 3日前総督を追い出してこの街を支配している」


「奴等の目的は?」


「トラキアの解放だと言っている。

 エーゲ王国からこのトラキアを分離独立させると抜かしておったわ」


「独立運動という訳か」


「それはどうかな。わし等は豊かなエーゲの恩恵を受けている。

 普通の者なら不満は抱かない。

 だから、トラキアを解放するなんて誰も考えない事だよ」


 ハヤトは手を口元に当て考え込む。


 ――不満がないのに何故独立を目指す?


 革命軍の目的はトラキアの解放。

 しかし、老人の話からはその理由が見当たらなかった。


「火のない所に煙は立たないか……」


「ハヤト。それ、どういう意味?」


「革命軍には違う目的があるって事。そいつを調べないとな」


 ハヤトは老人を解放し歩き出そうとする。

 すると、セーラが不満そうな顔をしていた。


「どうした?」


「私は護衛だからあまり口出しちゃダメなんだろうけど……

 こーいうお国の事情に首突っ込むのはマズイんじゃないかなぁ」


「俺は一応エーゲの軍人だ。

 紛争の火種があるのなら、それを調査する義務がある」


「でも、今はドラクロに行く事が先決じゃないの?」


 セーラの言う通りハヤトの目的はドラクロに行く事。

 こんな所で油を売っている場合ではない。

 しかし、ハヤトは軍人としての自覚を持ち、この件を調査する気でいた。

 ハヤトはセーラがノリ気じゃない事に疑問を抱く。


「随分とノリ気じゃないな」


「……昔、ちょっと大変な目に会ったんだよ」


 セーラはボソっと言うと顔を横に向けた。

 

「せっかく街に入ったんだ。もう少し付き合ってくれ」


「分かりました。セーラさんは貴方に付いていきますよー」


 セーラの同意を得てハヤトは情報収集を続けた。

 2人が路地での聞き込みを継続していると大通りが騒がしくなっていた。

 ハヤトはセーラを連れ大通りの様子を見にいく。

 すると、1人の男性が革命兵に拘束されていた。


「待ってくれ! 私が何をしたと言うんだ!

 こんなの、あまりにも横暴じゃないか!」


「黙れ! 貴様がルタクス様の事を調べていた事は明白だ!

 今更白を切っても遅い!」


 通りにいる人々は哀れみの目を向けているものの

 誰一人男性を助けようとはしない。皆自分の身が大事なのだ。

 しかし、そんなの気にしない男性が兵士に話しかける。


「随分と世紀末な事をしているな。まるで、どこかの親衛隊みたいだな」


「うん? 何だ貴さ」


 兵士が喋っている間にも関わらずハヤトは剣を抜いていた。

 彼はこの場にいる3人の兵にみね打ちを浴びせ気絶させる。

 いつもの彼なら斬っている所だが、ハヤトは人の目を気にし

 また兵士達が正常でない事を配慮し刃を出さなかった。


「助かったよ、ありがとう。 君達は一体……」


「ここでは人目に付く。とりあえず別の場所で話そう」


 ハヤトは男性を連れ人気のない路地裏へと入った。

 この男性は30前後の年齢で総督府に勤めている。

 彼は革命軍の事を鮮明に教えてくれた。


「革命軍を動かしているのはルタクスという男だ。

 彼は以前、街のあちこちでトラキアの独立を促す活動をしていたんだ」


「活動?」


「あぁ、ルタクスは革命思想家なんだ。

 半月前、彼は武装集団を結成した。それがトラキア革命軍。

 革命軍は総督府を奪い取って現在街を支配している。

 彼等は商人や旅人から金銭を徴収し刃向う者を捕縛している

 ……私の友人も捕まってしまったよ」


「気の毒に……」


 セーラは男性に同情し棒を強く握った。


「だから、私はルタクスが何を企んでいるか調べる事にしたんだ。

 けど、あまり良い情報は見つからず彼等に気付かれてしまったけどね」


「その、ルタクスって奴の目的は何なんだ?

 トラキアの解放ってのは嘘なんだろ?」


「独立運動というのは確かに嘘だ。

 奴の目的は自身の独裁国家を立ち上げる事。

 そこに、トラキアの解放や人権なんてモノはない」


「独裁国家ねぇ…… そんな事を考える奴だ。

 エーゲの海賊なんかよりは、よっぽど厄介な相手なんだろうな」


 3人が話に夢中になっていると奥から声が届いてくる。


「この辺りにエーゲの密偵がいるはずだ! 探し出せ!」


 ――チッ、もう嗅ぎつけてきたか。


 革命兵の声を聞いて男性は動揺する。

 しかし、その気持ちを察してハヤトは男性を(なだ)める。


「安心しろ。俺とセーラが通りに出て囮になる。

 だから、ホトボリが冷めるまではここにいろ」


「でも、それだと君達が」


 ハヤトは男性に軽く頭を下げるとセーラを連れて大通りへと出た。



セルディカは、ブルガリアの首都ソフィアの古名です。

トラキア地方というのは、ブルガリア一帯の名称で

ローマ帝国時代に使われていたものです。

今使われているかはよく知りません。

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