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黎剣のゼスト  作者: 幻人
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第2話 偽りの革命家 <1st 謎の騎士たち>

 

 

 サロニカを経って2日目。

 ハヤトとセーラはエーゲ王国の北部を占めるトラキア領に入る。

 

 昼前、2人は近くの街で昼食を済ませ正午から再び北上を始めた。

 海賊討伐の報酬残金が残っているハヤトはお金に余裕がある。

 だが、彼はそのお金で馬車や馬を借りようとはしなかった。


『ゼストなんてそこら辺にいるから』


 ハヤトはスラングスの言葉を信じ

 少しでも歩いてゼストに会おうと企んでいた。

 セーラは歩く事に不満は無く、時おり鼻歌を歌いながら道を歩いている。

 

 2人が黙々と歩いていると後ろから馬の走る音が聞こえてきた。

 音にはバラつきがあり馬が1頭ではない事が伺える。


「おい、そこの2人! 止まれ!」


 突然、後ろから声がかかりハヤトとセーラは足を止めて後ろを振り向いた。

 後ろには3人の男が馬に乗っている。

 男達は赤い上着にベージュのズボン、背中に緑のマントを着て

 左腰に剣を帯刀している。

 真ん中にいる男がリーダーで、彼が先程声を上げた人物だ。


「見ない顔だな。旅人か?」


 リーダーの男は鼻を上げハヤト達を見下ろしている。

 喋り方も妙でどこか相手を馬鹿にしているような口振りだ。

 ハヤトは男の態度に動じず素直に答える。


「あぁ。アンタ等は?」


「騎士さ。見て分からないのか?」


 男はキレ気味に答えた。男の態度は喧嘩腰と言える。

 3人は馬を下りる。すると、後ろの1人がセーラに近寄った。


「お嬢ちゃん可愛いな。ねっ、どこの出身?」


「えっ?」


 セーラは呆気に取られ驚いている。

 何故なら、彼女は今までナンパされた事がないのだ。

 仕事柄、オーナー以外に声をかけられる事は少ないので

 セーラが動揺するのは無理もない。

 ハヤトは口に出して言わないが、セーラは美人である。

 そのため、彼女がナンパをされるのは珍しい事とも言えない。

 腕を組むと、ハヤトは目を細め男達を睨んだ。


「騎士ってどこの騎士だ?」


 ハヤトの質問に対し、リーダーの男ではなくセーラの前のナンパ男が答える。


「トラキアさ。てめぇ、そんな事も知らないのかよ」


 ――トラキア? 知らねーよそんなの。


 ハヤトはイラッときた。彼は怒りを抑え鞘に伸びる手を堪えた。

 すると、リーダーの男がハヤトに身体を向け、彼の怒りに油を注ぐ。


「さっさと向こうに行け」


「あっ?」 


 唐突な一言を受け、ハヤトはキレ気味に声を荒げてしまった。

 ハヤトは訳が分からなくなった。

 いきなり絡んでおいて「向こうに行け」と言われても

 それを理解できる者はまずいないだろう。


「お前に用はない。女を置いてさっさと行け」


 ハヤトは男の言葉の真意をようやく理解した。

 男達の目的は端からセーラだったようだ。


 ――コイツ等、セーラと遊びたいだけかよ。無粋な連中だな。


 ハヤトはこの手の輩が一番嫌いである。

 彼はいつものごとく剣を抜き、男達を斬ろうと考える。

 しかし、すぐにそれを思い直した。


 ――待てよ。セーラの奴はこの後どうする気なんだろ。

   面白いからどうなるか少し見てみるか。


 ハヤトは一瞬口元を緩め、横にいるセーラに目を向けた。

 彼は任せると言わんばかりに目でセーラに合図を送る。


「なに? ナンパ? 無理無理無理!

 私そういうのしない人だから!」


 動揺しながらも、セーラは自分の気持ちをちゃんと男達に伝えた。

 それを聞いて男達はゲラゲラと笑っている。

 ナンパ男は姿勢を低くして口を開く。


「お嬢ちゃんにその気がなくても俺等にはあるんだわ。

 悪い事は言わないから逆らわない方が良いって。痛い目見たくないでしょ?」


 ハヤトが面白そうにナンパ男を見ていると、

 正面にいるリーダーの男が剣を抜き、それをハヤトに向けた。


「これが最後の忠告だ。命が惜しかったらとっとと立ち去れ」


 男はニヤけているが目は真剣だ。彼は本気でハヤトを殺す気でいる。


 ――しょうがない、()るか。


 ハヤトは目をつぶると、自然に手を鞘にかけ剣を抜いた。

 リーダーの男はハヤトの剣を受けた。

 彼の右手首は剣を持ったまま胴体から斬り取られ、空中を回っている

 リーダーの腕が落ちて男達は下品な笑いを止めた。


「いでぇぇぇ! 腕がぁぁぁ! 俺の腕がぁぁ!」


「情けねぇ声出してんじゃねーよ。さっきまでの威勢はどうした」


 ハヤトは顔に笑みを浮かべると剣をリーダーの男に向けた。


「命が惜しかったら何だって?」


 男は恐怖に陥り何も答えない。

 先程までの威勢はどこかへ吹き飛び、今は顔に汗を垂れ流している。


「てめぇ! やりやがったなぁ!」


 リーダーがやられた事に反応し

 ナンパ男は剣を抜いてハヤトに襲い掛ろうとする。

 しかし、男は豪快に地面に倒れた。


「足元お留守ですよー」


 男が走り出した時、セーラは突き出した棒を男の足に引っ掛けていた。

 ナンパ男は顎に砂利をつけたまま、立ち上がろうとする。

 セーラは男の背骨の中心に棒を突き立て起き上がるのを阻止した。


「ぐはっ……」


「今良い所だからちょっと静かにしてもらえるかな」


 いつの間にか、セーラがハヤトの行動を見る側になっている。

 ハヤトは剣を鞘に戻すと、リーダーの男に詰め寄った。


「お前等何者だ? 皆同じ格好をしているからお友達って訳じゃないよな?」


「はん! さっきも言っただろう。俺等はトラキアの騎士だ」


「騎士ねぇ…… その割には鎧を着ていないし服装が安物と見える」


 リーダーの男は苦しい笑い声を上げると、突然ハヤトの足にしがみついてきた。


「今だ! コイツを殺れ!」


 男は後にいるメガネの男に命令を放った。

 メガネ男は慌てて剣を抜き、落ち着きのない動作でハヤトに剣を向ける。

 ハヤトはいつもの半開きの目で、メガネの男を睨みつけた。


「どうした? 何怖気づいてんだ。来いよ」


 それでもメガネの男は斬ろうとしなかった。

 彼は後ろから事の一部始終を見ていた。一瞬でリーダーが腕を落され

 得物としていたセーラがナンパ男の動きを封じた様を。

 メガネ男は動揺し剣を振るわせている。


 ――チッ、面倒くせーな。


 ハヤトは顔を強張らせながらメガネ男に抜刀術を放った。

 その時、足にしがみついていたリーダーの男は蹴り飛ばされ地面に倒れる。

 

 「技名は…… 特にないな」


 メガネ男は首を跳ねられ胴体だけが地面に立っていた。

 首からは勢いよく血が吹き出し、ハヤトを除く者達に恐怖を与える。


「えっ? マジ?」


 思わずセーラは口を出してしまった。

 それもそうだろう。たかがチンピラ風情に絡まれただけで

 人の首を跳ねるなど短気にも程がある。

 だが、ハヤトの場合短気という問題ではなく

 こーいう輩が嫌いだという事と『無暗に人を生かす』という

 理念を持ち合わせていないのだ。彼は生かすべき人を選別している。 

 ハヤトは機嫌の悪い表情を取り声を荒げる。


「たく、チンピラ風情が。これだから雑魚は嫌いなんだ!

 相手の力量が分からないのに喧嘩を挑んでくる。

 1人じゃ戦えないから群れを成して威勢を張る。人間のゴミじゃねーか!」


 ――あちゃー、何かスイッチ入っちゃったなぁ。


 セーラはナンパ男を抑えながらも、やれやれとした顔でハヤトを見ている。

 ハヤトの怒りを察し、彼女はメガネ男が死んだ事を流す事にした。

 メガネ男の死を目撃して、2人の男は驚いて口を開けている。


「はぁぁ、化けモンだぁぁぁ!」


 恐怖に耐えきれず、リーダーの男はナンパ男を置いて一目散に逃げ出す。

 ハヤトは逃げる男に身体を向けた。

 

 ――仲間を呼ばれたら面倒だ。


 スイッチが入っているとはいえ、ハヤトは冷静だ。

 彼は走り出すと、後ろから男の心臓を貫いた。男はそのまま地面に崩れ落ちる。

 セーラの元に戻ると、ハヤトはナンパ男に剣を向けた。

 さすがに殺り過ぎと思ったセーラは、すかさずハヤトの制止に入る。


「ちょっと待ってハヤト! 少し殺りすぎじゃない?」


「えっ? 何を言っている。先に剣を向けたのはコイツ等だぞ」


「そうだけどさ…… 何も殺すこと無かったじゃん」


 ナンパ男は口を開けたまま黙って事の顛末(てんまつ)を見守っている。


「コイツを逃がしてみろ。仲間を引き連れて後で仕返しにやってくる。

 お前はそんな物騒な道中で落ち着けるか?」


「うーん……」


 セーラは目をつぶり黙り込んでしまう。ハヤトはセーラの返事を待った。

 数十秒してセーラは答えを導き出す。

 彼女は棒を男から離すと男の頭に棒を振り下ろした。

 男は後頭部に打撃を受け気絶している。


「人殺してばっかじゃ血生臭いでしょ?

 通りを歩く皆の為にも、この辺にしておきましょうよ」

 

 セーラはハヤトを責める事なく、優しい表情で彼を諭した。

 ハヤトは頷くと、死体に目を向けながらセーラに謝罪する。


「悪いな、勝手に手出して。護衛はお前の仕事だったな」


「そーですよー。

 オーナーに無理されると、こっちの調子がおかしくなるんだから。

 以後、気を付けてください、ね?」


 セーラは笑顔でハヤトに念を押した。

 2人は死体を林に移動させ、ナンパ男を木に縛りつける。

 チンピラの整理が終わると、2人は再び旅路に着いた。



このシーンはいるか? と言われればいらないかもしれない。

けど、ハヤトが簡単に人を殺すという描写が

書けた部分だと思うので、あえて書きました。

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