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黎剣のゼスト  作者: 幻人
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第1話 ゼスト志願者 <2nd 海賊討伐>


 真夜中のエーゲ海。漆黒に包まれた海の上を、1つの船が駆け抜けていく。

 船は大きく3本のマストを持ち

 帆に水兵帽を被ったドクロの絵が刻まれている。

 そう、船は海賊船だ。


 船員は薄汚れた者ばかりだが

 全員被っている水兵帽だけは真っ白に綺麗である。

 しかし、1人だけ水兵帽を被っていない男がいた。

 男は中年で青い瞳に短い白髪。顔は不精髭が目立つ。

 身体は他の船員より大きく背中に大きな斧を背負っている。

 男は舵の前で腕を組み、仁王立ちしている。彼はこの船の船長だ。


「砦が見えてきたな。野郎共、もう一踏ん張りだ!」


 船長の一言で船員達は活気付く。

 船の向こうには砦が見える。

 しかし、夜のせいで全貌は確認できず(ともしび)しか見えない。

 砦の灯が、灯台の役割を持っている為、彼等は砦を見失う事がない。

 船長は甲板の前に移動し砦を覗う。彼は早く帰りたくてたまらない様子だ。


 海賊ゴルシャート。実は、彼がそのゴルシャートである。

 エーゲ海を荒し、地中海の5つの海賊の1人になった男。

 彼はそれにふさわしい風格を持っている。

 ゴルシャートはニヤニヤしながら右手で不精髭を撫でる。

 彼は早く砦に戻り、酒が飲みたくて仕方なかった。

 すると、マストの上にいる見張りから声が掛ってくる。


「船長、変です! さっきから合図を送っているのですが

 砦から返答がありません!」


 ゴルシャートは部下を呼び寄せて双眼鏡を奪い取る。

 彼は双眼鏡で砦を眺めた。砦は幾つかの灯が光っている。

 しかし、合図のような点滅や新しい光などは見られない。

 灯があるというだけで砦が沈黙しているのは明らかだった。


 ――これまで砦を襲われた事はあったが、こんな事は初めてだ。


 この事態を受けて、船員達に不安が広がる。


「もしかして、軍の奴等にやられたんでしょうか?」


 双眼鏡を奪い取られた部下が、我慢できずゴルシャートに尋ねた。


「だったら、もう少し賑やかなはずだ。何かがオカシイ……」


 ゴルシャートの言うとおり

 軍が砦を襲っていれば砦に変化が起きているはずだ。

 しかし、1つを除いて砦に変わった様子はない。

 砦に軍が隠れているという可能性もあるが

 ゴルシャートはその可能性を否定した。


「船長、砦に戻ってよろしいので?」


 操舵手が、心配そうな顔でゴルシャートに問い掛けた。


「このまま砦に向かえ。何があったか調べる」


 ゴルシャートは深刻な顔で舵手の所に戻っていく。

 船員に緊張が走った。

 ゴルシャートは普段こんな顔をする男ではない。

 彼は略奪をする時も、人を殺す時も常にニヤけている。

 それがゴルシャートという男なのだ。しかし、今は違う。

 船員達は静かに、迅速に行動し、上陸に備えた。




 船は砦の桟橋に着いた。

 砦は岩を削ったような作りをしている。

 桟橋の向こうが砦の港口となっており、無数の樽と箱が置かれている。

 砦には人の動く音や声も聞こえない。ただ、波の音が聞こえるだけ。

 辺りには妙な空気が張りつめている。全員が、その異変を感じ取っていた。

 それを分かっているせいか、誰1人船から降りようとしない。

 すると、その異変が確信のモノとなる。


「おい! 誰か死んでいるぞ!」


 船員の1人が、港口にある死体に気付き声を上げた。

 それに反応し、ゴルシャートは船の先端に駆け寄る。


「なんだコレは……」


 ゴルシャートは言葉を失った。彼に釣られ、船員達も港口に目をやる。

 そこには凄まじい光景が広がっていた。

 辺りには海賊の死骸が複数散らばっていた。

 幾つかの死体は大きな斬り傷が見られる。しかし、これ以外が惨かった。

 首が斬り落とされた者。胴体が斬り取られた者。あまりにも衝撃的な光景だった。


「どこのどいつだ!」


 ゴルシャートは怒りに震えた。

 彼は斧を持ち船から身を乗り出そうとする。その時だ。 


「うわぁぁぁ!」


 ゴルシャートの後ろから突然悲鳴が聞こえてきた。

 彼が後ろを向くと船員が1人倒れている。

 船員は背中から血を流し何も言葉を発しない。船員は一瞬で殺されていた。


「誰がやった!」


 ゴルシャートは怒りの腱膜で、悲鳴を上げた船員に問い詰める。

 しかし、船員は「何も見ていない」と言う。

 ボトッ……、甲板の後ろで鈍い音がした。

 その音に気付いて全員が後ろの方を見る。

 甲板の後ろには1人の船員が倒れている。

 彼もまた血を流し動き1つ見せない。

 先程の船員と同じく一撃で殺されている。


「何かいるぞ! 気を付けろ!」


 ゴルシャートは怒り収まらぬまま周囲を警戒した。

 船員達は目に見えない何かに怯え、剣を振るわせている。

 夜、死体しかいない砦、目に見えない何か、船員達の恐怖は絶頂を迎えていた。

 しかし、誰1人逃げない。

 何故なら、全員が『逃げられない』と悟っていたからである。

 ゴルシャートは左右に目を向けながら襲撃者を探した。

 何回かその動作をしていると、彼の瞳に見知らぬ男が映し出される。

 男はマストの近くに立っている。船員達は男の存在に気付いて、身を少し引いた。

 そこにいる男はハヤトだった。


「貴様か! 俺の部下を殺したのは!」


「……」


 ハヤトは何も答えない。


 ――こんなハズじゃ無かったんだがなぁ……



 数時間前、ハヤトは砦に潜入する為

 羽織と鞄を岩場に置いて、泳いで砦の港口に入った。

 その際、そこにいた海賊達を片付け砦に潜入。

 ハヤトはゴルシャートを探したが、どこにも見当たらない。

 その最中、彼は海賊に見つかってしまい

 海賊全員を港口に誘導して、全員を返り討ちにしたのだ。

 そのため、港口に海賊の死体があふれていたのである。


 

 今のハヤトは黒い和服と下衣の黒一色。

 服は濡れているが風である程度乾いており(しずく)は垂れていない。


 ――ただの偵察じゃ無くなっちまったな……


 ハヤトは目をつぶり、ボリボリと頭をかいた。


 ――俺の部下を殺しておいてこの態度。許せねぇ!


 ゴルシャートは、ハヤトを襲撃者だと判断すると

 ハヤトめがけ斧を振り落した。


「避けやがった!」


 ゴルシャートの一撃は目標を見失い甲板に向けられた。

 その衝撃で甲板に穴が空いている。


 ――周りの雑魚が邪魔だな。


 ハヤトは先に弱そうな海賊達から片付ける事にした。


「ぐわっ……」


 ハヤトの剣が海賊達を襲い、悲鳴や断末魔が聞こえる。

 ハヤトは駿足で異常と言えるほど速かった。

 あまりの速さで全身がボヤけて黒い塊として見える。


 仲間が死んでいく中、ゴルシャートは冷静になっていた。

 彼は目を細め船内を見渡す。

 ゴルシャートは斧を持ち直すと、一点めがけ斧を振り落した。


(とら)えたぞ!」


「へぇ、付いて来れんだ」


 ハヤトはゴルシャートの斧を弾いて剣を鞘に収めた。


「やはり、アンタがゴルシャートか。少しはやるようだな」


「貴様、ただで死ねると思うなよ!」


 ゴルシャートは左手を突き出した。手には何かが握られている。


「貴様がどんな異能者かは知らんが、コレがあればそれも使えまい」


「天装か」


 天装とは、天装具の略称で異能の力を持つ道具である。

 この世界には銃が存在しない。

 その代わりに、この天装が武器として使われている。

 天装は、異能者が適当な道具に力を込める事によって誕生する装身具だ。

 そのため価値が高く常人が持てる代物ではない。

 しかし、海賊であるゴルシャートには簡単に手に入る物のようだ。


「コレは無の天装。あらゆる能力を無効化する。

 これでもう、貴様は高速移動が使えない!」


「自分の弱点教えていいのか?」


「弱点? 無の天装は無敵の代物。弱点になんかならねぇ」


「では試してみろ」


 ゴルシャートは自信満々の様子だ。

 彼は先程の怒りをどこかに忘れハヤトに勝てるという自信が彼を支配している。

 ゴルシャートは部下にハヤトを囲ませ逃げ場をなくす。

 彼は渾身の一撃をハヤトに放った。


 ――抜刀、朧月。


 次の瞬間、誰も予想していない光景が目に映った。

 なんとゴルシャートが倒れている。

 その後ろにはハヤトが移動しており、鞘から剣が抜かれていた。

 そう、ハヤトは抜刀術を使ったのだ。

 彼は斧が届く前に剣を抜き、ゴルシャートを斬り抜けたのである。

 船員達はゴルシャートの勝利を確信していた。

 何故なら、ハヤトの高速移動が無の天装で封じられたと思っていたからだ。

 しかし、天装はハヤトの力を無効にできなかった。それもそのはず。

 ハヤトは元々異能者ではない。

 能力を持たない者に、能力を無効化させても無意味だ。


 ゴルシャートは右胸から左腹に掛けて斬られている。

 左腹に関しては、背中まで剣が届いていた。

 ゴルシャートは口から血を吐きながら、手を動かそうとしている。

 彼は必死に斧を掴もうとしているのだ。

 ハヤトは勝敗が決したかのようにゴルシャートを見下し、口を開く。


「俺の動きを追えた事は褒めてやる。だが、身体が付いて来てない」


 この言葉の最中ゴルシャートは絶命した。

 船員達はゴルシャートの敗北を目の当たりにして一斉に海に逃げ出す。

 ハヤトは船員には目を向けず、身体をゴルシャートに向ける。


「これが5つの海賊の1つ、ね。まぁこんなモンか」


 ハヤトは剣を鞘に収める。そしてマストに寄り掛かり、そこに座り込んだ。


 ――少し無理しすぎた。


 ハヤトは昨日街に着き眠らずにこの砦を訪れ、そして海賊達を倒した。

 彼の疲労はピークだった。

 海原の向こうには朝日が。海鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 ハヤトは鞘を肩に掛け、そのまま浅い眠りに着いた。




 朝。空には薄雲が見えるものの、天気は快晴だ。

 定刻通り、エーゲの討伐軍は岬砦に攻め込む。

 しかし、砦は閑散としていた。

 砦の入り口は開いており、中には人の姿が見えない。


「こりゃ、どうなっているんだ……」


 ヤニスは不安になった。これから攻めるはずの砦が

 もぬけの殻で海賊が1人もいない。


 ――もしかして、全員逃げ出したのか? いや、罠という可能性もある……

    だが、ここは岬だ。隠れる場所なんてあるのか?


 ヤニスがゴルシャートの部屋を捜索していると部下から伝言が入る。


「軍曹。下層でゴルシャートの海賊船を発見しました!」


「本当か!」


「はい…… しかし、無数の死体がありまして……

 あまり良い光景ではありません」


 ヤニスは部下を引き連れ、急ぎ下層に向かった。

 下層に着くと港口に無数の死体がある。ハヤトが殺した海賊達だ。


「これまた凄い殺され方だな……」


 ヤニスは口を押え死体を見ながら船に向かった。

 船に乗ると、見覚えるのある男がマストの所で座り込んでいる。


「……やっと来たか」


「兄ちゃん!」


 寝不足のせいか、ハヤトは酷い目付きをしている。

 普通、死体の傍で寝ようとする人間はいない。

 まして、死臭があるのなら尚更だ。

 しかし、ハヤトは眠さに負けこの空間でも寝る事ができた。


「コレ…… 全部、兄ちゃんの仕業かい?」


 ハヤトは(うなず)くとゴルシャートの死体をヤニスに見せた。


「本人で間違いないか?」


「あぁ…… 大手柄だよ!」


 ――よし。これで良い宣伝になったな。


 ハヤトは起き上がると首を(ひね)り軽い柔軟を始めた。

 兵隊達は港口の死体を片付けている。

 多くの兵士は嘔吐をしながら、死体を袋に入れていた。


 ――ご苦労さん。


 ハヤトは悪びれる様子もなく、その光景を見ている。


「うーん、兄ちゃん。ちょっといいかな?」


「なんだ?」


「実はさ。ウチのボスに兄ちゃんを紹介したいんだが、この後時間貰えるかな?」


「構わないよ」


 ヤニスはハヤトの肩を軽く叩いた。『ありがとう』という仕草なのだろう。


 ――ボスか。どんな奴なんだろ。


 ハヤトは何かを期待している。それは自分でも分からない。

 砦の整理が終わると、ハヤトは討伐軍と共に砦を後にした。


「あっ……岩場に荷物置いたままだ」



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