第0話 好敵手
雨雲が立ち込めているせいで、昼なのに辺りはドンヨリと暗い。
鳥の鳴き声や人の声も聞こえない静かな村。
ある屋敷のバルコニーに、1人の女性が見える。
女性は赤い瞳に銀髪。全身に紺色のローブを着ている。
彼女の全身は薄く光り、右手にはエストックと呼ばれる刀剣が握られている。
「……お主を許す訳にはいかない」
女性の名はソニア。
ソニアは屋根の方をキッと睨んでいる。屋根の上には別の女性が。
女性はソニアと同じ赤い瞳の銀髪。髪は長く、服は黒の毛皮のコート。
彼女の瞳は不気味に光っている。異様な事に、女性は浮いている。
――良い眺めだわ。高貴な者を見下すというのは。
女性は薄笑いをしながら、ソニアを見下ろしている。
彼女の後ろには、20本の剣が直立したまま浮いており
翼のような形態を成していた。
「さぁて、今度はこっちの番よ」
女性が手を払う動作をすると、後ろの剣が一斉に動き出す。
剣は鋭い刃をソニアに向け、突っ込んでいく。
ソニアは剣を斜めに突き上げた。
すると、女性が放った剣はソニアの剣の前で弾かれていく。
まるで目に見えないバリアがあるかのように。
「あまく見るでない!」
女性の剣を振り払うと、ソニアは剣を下に向けた。
――フフッ、これだから貴族って馬鹿なのよね。
ソニアの頭上には、女性の剣が10本程集まっている。
しかし、ソニアはそれに気付く様子がない。
女性が右の人差し指を下げると、頭上の剣はソニアめがけ直滑降に落ちていく。
ソニアは女性の挙動に気付き、すかさず上を見る。
辺りに激しい轟音が鳴り響く。女性の剣はバルコニーの石床を貫き
その衝撃で石 床が砕かれ粉塵が舞っている。ソニアの姿は確認できない。
女性は目の光景を見て高飛車に笑っている。
屋敷の2階。薄暗い廊下に、薄く光る3人の男女がいる。
ドア側に男性が1人。反対方向に女性が1人。女性の後ろに1人の男性がいる。
「コイツ等、殴ってもキリがないよっ!」
女性は、複数いる『包帯を巻いた人型』と戦っている。
彼女は青い瞳に金髪。青い帽子を被り、青いコートを着ている。
両手には槍のように長い棒を持ち、それで敵をなぎ倒している。
――ホワイトブレスは通じないし、弱ったなぁ。
女性の名はセーラ。
セーラは正面にいる人型を追い払い、後ろの男性を庇っていた。
「セーラ君、頑張りたまえ! 応援だけなら、今の私にもできる」
「応援なんかいらないよ! クラウスの力でやっつけられないの?」
男性の名はクラウス。
クラウスは緑の瞳に薄い金髪。
背中にベージュのマントを掛け、灰色のトレンチを着ている。
彼は何もせず、セーラの後ろで傍観している。
「すまないが、君等にバリアを施しているので今の私は何もできない。
ただの脇役だよ、ハッハッ……」
クラウスの笑いには覇気が無かった。
全員が光っているのは、クラウスが皆にバリアを施しているからだ。
ドォーン……、鈍い音と共に、廊下が微かに揺れる。何かが落ちた衝撃。
この衝撃により、天井から埃が落ちてくる。音はドアの向こうからした。
ドアの向こうはバルコニーとなっており、そこにソニアがいる。
「何今の音?」
「外からだね。ソニア君の安否が心配だ」
セーラとクラウスがソニアを心配しているのに
もう1人の男性は沈黙したままだ。
セーラは包帯と戦いながら、ドア側にいる男性に呼び掛ける。
「ハヤト~! そっちは終わりそう?」
「ちょいと待ってくれ」
男性の名はハヤト。
ハヤトは先程から『ターバンを巻いた男』と戦っている。
男はドアの前に布陣し、激しい火花を散らしながらハヤトと剣を交わしている。
お互い一歩も引かない状態だ。
――コイツ、さっきから俺の出す所に、剣を出してきやがる。心でも読めんのか?
ハヤトは焦っていた。後ろから迫る敵。ドア向こうの仲間の安否。
目の前の倒せない敵。これらの脅威が、彼の心を押し潰そうとしていた。
ハヤトは一旦下がると、剣を鞘に収めた。
――冷静にならないとダメだ。いつもの戦いをしないと、奴には勝てない。
ハヤトは目をつぶり一呼吸置く。
目を開けると、ハヤトは左手で鞘の根本を握った。
「仕方ねぇ。特技優先といきますか」
ハヤトは右足を少し前に出して、左足を後ろに下げた。
右手は剣の柄を握っている。
――抜刀、風華。
鞘から抜かれた剣は、男が弾く動作をする隙も与えず、男の胸元に放たれた。
ハヤトが使ったのは『抜刀術』と呼ばれるモノ。
ハヤトの抜刀を受け、男の心臓は斬り裂かれた。
胸元は大きく開かれ黒い血に染まっている。それから数秒して男は倒れた。
――よし。
男が死んだ事を確認し、ハヤトはドアに手を触れる。
「危ない!」
クラウスの叫び声を聞き、ハヤトは後ろを振り向いた。
後ろには、今倒したはずの男が剣を構えている。
男は、まさに剣を振り下ろそうとしていた。
ハヤトはすかさず剣を出し男の攻撃を防ぐ。
「コイツ! 斬られたのに何で平気なんだ!」
男は顔色一つ変えずハヤトを睨んでいる。
心臓を斬られたというのに、男は平然としていた。
「俺は確かに心臓を斬ったはずだ……」
男は先程と違い剣を乱暴に振るう。
ハヤトは男を退け、一度クラウスの元に下がった。
「クラウスさんよ。これってアレか、死んでも動くっていう……」
「断定はできないが、恐らく『ゾンビ』だと私は見る」
「人外ねぇ……」
ハヤトの頬に汗が垂れ落ちる。
彼が今戦っている相手はゾンビという架空の生き物で、不死の存在。
しかし、ハヤトは恐怖など抱いていなかった。彼はある事に気付いていた。
――胸に与えた傷はそのままだ。しかし、身体は平然と動く。
つまり、奴の急所はどこかにあるって事だ。それなら……
ハヤトは右の口角を上げ、剣を鞘に戻した。
「頭を斬り落とせば勝てる」
この回は4話に関連する話なので、1~3話には全く関係ありません!
「おい! 飛んだシーンから始めるなら、1話のにすれや!」
と思いの方も多いでしょう。
正直、続編考えるのに専念したいので今更変える気はありません。
てか、知人に講評を貰って0話を作ったので
今更治すのが面倒くさい……