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あにまる☆はうす  作者: hibana
序章の序章
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はじまり




 暗闇が世界を包み込み、ついでに静寂と仲良しこよしやりはじめるころ、闇に溶けるような黒髪の青年──金子はんーっと伸びをした。


「お腹すいた……」


 しかしもちろん、そう言ったところで食べ物は落ちてこない。

 空から食べ物が落ちてくればいいのに。飴とか。

 そんな、通常なら小学校高学年くらいで卒業する空想とともに、今宵の寝床を探すことにした。


「ほんと、おなかすいちゃったねー」


 そんな自然な声かけに金子の方も自然に返そうとして我に返る。

 は?

 横を見れば、声は朗らかながら、無表情の男がいた。本当に真横だ。座っている。

 男は驚く金子を視界に入れながらも、全く見えていないかのように穏やかだ。


「こんばんはステキなおちびさん。ボクらよく似てる」


 男の言葉がなんとかいう曲の引用であることも、男がこの言葉を長年言ってみたかったのだということも、金子にはどうだってよかった。

 言いたいことはたくさんある。しかしどれも口に出す手前で消えた。

 誰だお前!

 いや、相手が逆上するかもしれない。本当は知り合い、という可能性もなきにしもあらず。

 警察呼ぶぞ!

 待て。電話も持ってないのに警察なんて呼べない。それに知り合い、という可能性もなきにしもあらず。

 おちびさんってなんだ! 平均値だ!

 いやいや、今はそれどうでもいい。どうでもよくはないが優先順位は低いはずだ。まさかそんな、その部分に一番腹が立っているなんてことはないぞ。絶対にない。

 混乱した脳が誰かに弁解を始めたころ、金子は思考を停止した。

 悩むな。突撃あるのみ。


「誰だお前ぇぇ!?」


 結局、優先順位が高そうなものからいった。

 ガツンっ

 頭突きはスペシャル特典。


「っが」


 男は仰向けに倒れた。見下ろすと、男は緑髪を揺らしながら必死な顔で起き上がった。冷静になって考えれば、どこからどう見ても知らない男だ。忘れているわけじゃない。絶対に。こんな、緑髪で緑の瞳の痛々しい男、どこかで会っていたら忘れるわけがない。

 そう、男は緑の髪に緑の瞳という、V系でもなかなかいないファッションをしていた。年の頃は、二十代後半から三十代前半くらいだろうか。その緑という色をギリギリアウトに見せるくらいの年だろうと推測する。

 アウトだ。アウトな人間に絡まれてしまった。

 金子がとっさに逃げの体勢を取ったとき、男が口を開いた。


「ちょっとちょっと、ひどくない? お父さんにも殴られたことないっていうのに、知らない人に頭突きなんて」


 男は短髪の頭をかきながら言う。朗らかさはどこかに消え、言葉にもアンニュイさが漂っている。

 知らないやつだからだよ、と心のなかで突っ込んでから金子はもう一度「誰なんだお前」と尋ねる。

 それには答えずに、男はしげしげと金子を見た。なんだよと後退りする金子に、男は不意に口を開く。


「ね、うちに来ない?」


 金子はしばらくポカンとして、男を見ていた。イマナンテイイマシタ?

 聞き間違いじゃなければ、家に来ないかと。家ってあれ? ホームのこと? まさか。あれだろ。三重の聞き間違いだろ。それはそれで困るけれども。


「いい顔してるねおちびさん」

「誰がおちびさんだ」


 ちょっとお前のほうが大きいだけで。いや、そんなことはどうでもいい。いきなり家に来いだと?

 あれか? 捨て猫でも拾う感覚かこのやろー。こっちだってそんなに落ちぶれてないわ。ホームがレスしてるだけで。

 もういっそ捨て猫になりたい。


「知ってるかい」

「は?」

「猫は暖かい場所が好きだ。居場所に懐く」

「なっ……!」


 なぜ今、猫のことを考えているとわかった。この男、もしかして人の心が読めるのでは? そう思うと髪も目も緑色なんておかしいし、人ならざるものに違いない。

 そんな金子の怯えた表情を尻目に男は涼しげに笑っている。細い目をさらに細くして言った。


「キミ、猫に似てるねぇ」


 金子はなにも言えずにいた。

 なんだ、それだけか。

 どうやら、自分でも知らないうちに期待を抱いていたらしい。宇宙人ならよかった。ちょっと会ってみたいと思っていたのだ。


「だから一緒に来ないか。キミが望むなら、必要なものをあげよう」


 だからってなんだ、だからって。

 男の言葉は、その意味はともかく圧倒的な魅惑の光を放っているように思えた。ちょっとだけ心が揺れたのは事実だ。

 だが、


「誰も頼んでねぇぇ!!」


 金子は全力で男に頭突きをした。一日に二度もっ! と叫んで男は倒れた。それを無視して、金子は全力で走った。ちらりと振り返ると、男はまだ倒れたままだった。



☆★☆★



 今日もあんまし食べられなかった。

 最近、釣りをしていてもあまり釣れない。時々近くの工事現場で道具を運んだりするので駄賃を貰ったりするが、その時くらいしかたんぱく質をとっていないような気がする。その辺に生えている葉っぱは、あんまり美味しくない。あんまりというか、美味しくない。意外にも金子はグルメであった。

 金子はふてくされて横になる。まだ青空が広がっているが、午後もどうだろう。良いことがあるとは思えない。その逆だ。今日は金子の危機察知能力がウィンウィン警報を鳴らしている。


「なんか……最近ツイてない……。昨日も知らないやつに話しかけられるし……」

「そりゃあ災難だったね。おかしなやつもいたもんだ」


 警報も鳴るはずである。

 そこには満面の笑みをたたえた緑髪の男。その男が、上から見下ろす形で寝転がる金子の顔を覗きこんでいた。昨日も思ったのだが、この男には気配というものがないのか。

 金子は思いきり起き上がってその男に頭突きをした。あうっ、という間の抜けた声がする。

 キミはこれが好きだねぇ、と男は頭をさすりながら言う。別に好きではない。得意なだけで。


「な、ん、で! お前がここにいるんだよ!」

「あははっ。やっと見つけたよ、おちびさん」


 ああわかった。こいつ狂ってるんだ。会話も成り立たない。

 わかりたくなかった事実を前に、金子は頭を抱えた。


「もう会いたくなかったな」

「ああそう? ボクはキミに会いたかったけどなぁ」

「なんで」

「会いたくって徹夜しちゃったよ」


 どこまでが冗談なのかこれっぽっちもわからない。

 徹夜って。真夜中に自分を探して徘徊する男を想像して、金子は笑いそうになった。

 その油断がいけなかったのだろう。


「ってことで」


 気がつけば、体が浮いていた。担がれている、らしかった。


「なにが『ってことで』だよ! 離せ!」

「むーりー」


 暴れてもがいて必死に逃げ出そうとしたが、男の腕はまったく揺るがない。

 こいつ、意外と力強いな。


「ちくしょおぉぉ!!」

 2人の出会いからはじまるハナシ。

 BLではありませんので悪しからず。そしてメンバーは5人。まだまだ出ます。

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