猫と幽霊なあたし
あたし、宮元 輝子。幽霊。享年10歳。死因、道路に飛び出した猫を助けようとして車に撥ねられ即死。ちなみに助けようとした猫も一緒に死亡。
死んでから七年。幽霊暦も長くなりあたしも思えば遠くに来たもんだ。
『一向に成仏せぇへんで妹の周りをストーカーのように浮遊しとる不良幽霊がなにいってますねん』
あたしの隣をふわふわと浮かんでいる黒猫が呆れたように尻尾をぴしりとぶつけてきた。
「クロあんたねぇ………妹を見守るやさしい姉心をストーカー呼ばわりとはどういうつもりよ」
『守護霊でもない浮遊霊のくせしてなに言うとりますがね。何が出来るわけでもないのにただひたすら妹さんの側に引っ付いているのはハッキリいってストーカーとしかいえませんどす!』
「クロのくせになまいきだぞ~~~!」
頬を膨らませればクロがぴしりと再び尻尾をぶつけてくる。
クロはあたしが助けようとして一緒に死んじゃった子猫だ。どういうわけだか揃って幽霊になって年の通りに外見が変化していくあたしに合わせてクロも成長していまや立派な成猫だ。
クロははぁ~とため息を吐いて、あたし達の少し前を歩く制服姿の女の子に視線を向ける。
今時の女子高生には珍しい真っ黒な髪を背中まで伸ばした、大人しそうな女の子はあたしの二歳下の妹である湖都だ。
「ああ………今日も可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
死んで何が一番悲しかったって妹と触れ合いができなくなったことよ!!透ける身体で湖都を抱きしめすりすり頬ずりをするあたしの頭の上に乗っかったクロが目茶苦茶冷めた目をしつつぺしぺしと尻尾で後頭部を叩いてきたが気にしない!!妹を愛でるほうが最優先です!
『あんさんなぁ、そんなに溺愛しとっても妹はんももうええ年や。その内彼氏の一人や二人できるで?』
「あたしの可愛い妹に手ぇだす奴は全員呪うわ」
『真顔ドシリアスで怖いこといいなさんなや。ほんまに妹はんに恋人ができたらあんさん怨霊になりそうでこわいわ~~~』
そんなじゃれあいのような言い合いをしつつあたし達はいつもと同じ日々をすごしていく。
だけど、「妹の恋人」なんていうノーサンキューな物体がジリジリと近づいていて、しかもこいつが強い霊能力の持ち主であたしのことを強制成仏させようとすることなどあたしはちーっとも気づかずに妹にべったりと張り付いていたのであった。