表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

Episode-VII:愉快で不快な追走劇

「アンノーン、距離二〇。接触まで後二五秒」


「端的に呟いてないでテメェも何とかしろ!」


爆走する軍用バギーの荷台で肩を並べるエドワードとアンドロイドの少女のやり取り。

それに張り付く様にアンノーンが追走している。

「了解。実体化モジュール起動、チェーンガン精製。撃ち方、必中」


ビル間をカーブする際にHIMSを起動、壁を削り取り少女の手には巨大なチェーンガンが一丁。

明らかに少女の身体より大きい。

「ま、さか……」


エドワードが口にした瞬間、

ドルルルルルルルル!!

凄まじい勢いで三〇ミリ弾が射出された。

三〇ミリだ。

当然、凄まじいのは威力だけではない。

マズルフラッシュや銃声はエドワードの視覚と聴覚をとにかく刺激し、衝撃だけでスイカが割れる程のチェーンガンの反動が少女の身体とバギーを通じてエドワードに襲いかかる。

「弾切れ、次の攻撃に移行します」


不意にチェーンガンから奏でられる爆音が途切れ、エドワードが少女を見た時にはすでに巨大なチェーンガンの姿は見当たらない。

代わりと言っては何だが、グレネードランチャーと予備弾が五つ、確認出来る。

急いでバギーの後方を見つめるエドワード。

アンノーンの姿は相変わらずで、数えるのが億劫な程、追走してきていた。

「おい、まだ入出港には着かないのかよ!?」


エドワードが運転席めがけて叫ぶ。すると、

「もう少し待ってくれ!あと少しで着くから!」


運転席から男の叫び声が返ってきて、

「うるせェ!!ガタガタ言ってんなクソガキ!ブチ殺すぞテメェ!」


助手席から女の叫び声が返ってきた。

「ンだと……勝手に人拉致っといてよくそんな事言えるなこのクソアマ!」


「騒ぐなっつってんだろ!ガキは黙って大人に着いてくりゃいいんだよ!任務じゃなかったらテメェみてェなガキを助けるかっての!」


「誰も助けろなんて言ってねェだろうがこの年増野郎!!」


「と、年増……いい度胸だ。今すぐその口黙らせてやる!」


助手席の窓から女が身を乗り出し、エドワードに向けてリボルバー拳銃でスナイプする。

それとほぼ同時にエドワードもオートマティック拳銃をスナイプ。

「いい加減にしないか二人とも!」


という怒声が不意に運転席から聞こえた。スナイプした状態で固まる二人。

「ベルナデッタ、君も冷静になれ!彼を殺してどうするつもりだ!?」


「わ、私は別に……」


女の声が急に大人しくなる。先程までとは比べ物にならない程小さい。

「それに、エドワード君、君もだ。窮屈な立場かも知れないが、もう暫く我慢してもらえないか!?子供じゃないんだ、そのくらいも出来ないのかい?」


「なっ、……むぅ……」


「色々と言いたい事もあるかも知れない。だが、僕らの艦に着いたら事情を話す。必ずだ。だから、今のところは……頼む」


「……分かったよ」


渋々といった感じでエドワードは冷たい荷台に座った。

と、口論のせいで気付かなかったのか、アンドロイドの少女はすでにグレネードランチャーの弾頭を使いきっていた。追っ手はかかっていない。

フゥ、とため息を一つ吐いてエドワードは物思いに耽る。

何でこんな事になったものか――




時を遡る事、五分前。

「で、アンタら何者?」


少女の背から降りながら、それが、デパートから脱出したエドワードの開口一番。

「あっ、あぁ……」


目の前に立っていた男は困惑気味にエドワードと少女を見比べた。無理もない。

男はまだ少し混乱しつつもエドワードに告げる。

自分はステア・サイファス小佐である事。

エドワード・ヘンデルトの身柄を保護しに来た事。

決して怪しい者ではない事。

そして、どうか一緒に来てほしいという事。

全てに措いて信用する要素はなかった訳だが(実際、少女は終始警戒していた)、エドワードとしては一刻もアンノーンの巣窟同然のデパートから離れたかった訳で、さらに男達は軍用バギーを所有していたからエドワードが走るよりは早く安全圏に行ける訳で。

結果、エドワードはとりあえずステアを信用する事にした。

ステアが

分隊撤退(エスケイプ)!」

と叫ぶと同時に彼の隊のバギーはそれぞれ散らばって撤退し、エドワードと少女がステアとベルナデッタのバギーの荷台に乗り込んだ瞬間にアンノーンらがエドワード達の逃走に気付き、必死のカーチェイスが始まり今に至る。




過ぎ行く景色を眺めつつ、エドワードは虚ろに思う。

いつも遊び歩いていた街。見慣れたハズの、生まれ故郷。

いつの間にか平穏は崩れさり、友は亡く、見慣れたハズの街は凶々しく歪んでいる。

彼の全ての崩壊は、紙屑の様に儚く、脆すぎた。

ぼんやりと、そう思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ