Episode-XI:試行錯誤の末の決断
劣勢を極めた、かなり熾烈で絶望的な戦闘は続く。
(主砲……グラディウス・レイピアが効かないとなると……負けるの?私は……負けるの?)
そんなのイヤ、……とは強く思うものの、最早どうしようもない。
打つ手ナシの状況下、ブリジットは爪を噛む。
(考えろ、考えろ、考えろ!この危機的状況を、いかに乗り越えるかを!)
ガリ、ガリガリ、ブチッ!
爪を噛むあまり、深爪しすぎて血が流れ始めた。
しかしブリジットは微動だにせず、ひたすらモニターに目を向けている。
「敵よりレーザー攻撃を確認!」
「ライト・サイドブースター・フル!かわしなさい!」
「回避圏内に突入……ですが、衝撃波、来ます!」
ヴィーゴのすぐ隣を、赤いレーザーがよぎる。
かすりもしなかったが、その衝撃波だけで、ヴィーゴのグラディウス・シールドが抉られた。
「シールド出力、五・七%軽減!」
「エリアLブロックに火災発生!」
「シールドは捨て置きなさい、どうせ喰らえばひとたまりもないわ!エリアLは、人員の避難を確認後、切り離して!」
「了解!」
的確な指示を次々に出すブリジットだが、内心では窮地に追い込まれていた。
(勝てない……私は、任務を失敗するの?)
「諦めるな。前だけを見据えて、今のコンディションで出来る最高の事をするんだ」
ポンと、肩にエドワードの手が置かれた。
「貴方……エドワード!?座ってなさいと言ったはずよ!?」
「黙れ、聞く耳持たない。いいか、ブリジット大佐。上を見上げたり下を見下したりする事が悪いとは言えないが、だけどそればかりじゃ人は何も成し得れない。窮地に立たされた時……前だけを見ろ。一つだけ聞きたいんだが、今のアンタの敵は……任務か?それともアンノーンか?」
背後から、吐息がかかる距離でエドワードは問う。
ブリジットは振り返り、エドワードの端整な横顔をすぐ近くで見つめ、口元を歪めた。
「……私の敵?決まってるじゃない」
手元のモニターを見据え、ブリジットは声高々に言う。
「当然、あの、腐れアンノーンよ!」
「……いい返事だ」
ブリジットの小さな肩を包み込む様に支え、エドワードは笑顔で提案する。
「そんで、ちょっとした作戦があるんだが……いいか?」
確かにその時、ブリジットは目の前の少年の目の奥で輝く、邪悪な光を見逃さなかった。
「ヴィーゴの武装は……EFP砲門が二六門、155mm砲が三〇門、量子魚雷が二〇門、バルカンが八門、副砲の超電磁砲が二基と主砲のグラディウスレーザーが二基だけど……どうするつもり?」
「いや……そんだけありゃ充分だ。流石は空母クラスだ。足が遅いのがちょいと難点だが、これなら勝てそうだ」
端的に、どうという事もないと言わんばかりにエドワードが呟き、ブリジットは驚愕した。
「見ろ。この宙域には、ガスの集合体が存在する。摩擦でかなりの電磁波を帯びる程に強力な奴だ」
エドワードは、ホログラフで浮かび上がった宙域を指す。
現在のヴィーゴの位置から、左上にある。さほど離れてもいない。
確かにそこには、ガスの集合体が存在していた。
「しかも好都合な事に、ここのガスはとびきりの水素と僅かな酸素!宇宙空間とはいえ、爆破出来りゃあ、かなりの大爆発だ」
「まさか、貴方……」
今度は顔面を蒼白し、ブリジットは呆然と少年を見つめる。
「ここに奴を誘い込む。その方法を今から教える。一度しか言わないから、全てを覚えろ」
心底から楽しそうに、エドワードは告げた。