Episode-IX:戦略級の存在理由(レーゾンデートル)
久しぶりの投稿です。正直、専門用語が多すぎる……というのが僕の感想DEATH……。
……やばい。何人の読者が途中で読むの止めるかな?(´∀`;)ゝ
マドカ・ハーゲンシュタイナー。
彼女は幼なじみであり、遠縁の親戚でもあり、親友でもあった。
元はイギリスの家系であるヘンデルトの一族は、宇宙開発による多民族交流の影響を受けて、ドイツの血も混ざり、今ではヘンデルト一族とハーゲンシュタイナー一族の関係は円満に築かれている。
マドカの母親はジャパニーズらしく、彼女の中にはイギリス・ドイツ・ジャパニーズと三種類の血が混ざっている。
合理主義のドイツ、独創主義のイギリス、共和主義のジャパニーズという噛み合わない民族主義の混血、その象徴だったマドカは、ヘンデルトからもハーゲンシュタイナーからも煙たがられる存在だった。
更に両親の早死。彼女がどれだけ絶望の縁に立たされたのか何て、想像もつかない。
そして、そんな彼女に初めて――イジメ以外で初めて近付いたのは、紛れもなくエドワードである。
親類縁者の反対を押し切り、一族の同年代の子供からは裏切り者扱いされ、それでもエドワードはマドカに近付き、よく遊ぶ様になっていた。
熱意ある説得により、彼女はエドワードの家に引き取られ、幼少時代を過ごす。
だがある日、彼女は一族の謀らいで施設に送られた。
エドワードはそれ以降、逢っていない。
どこに行ったのか、何故行ったのかを知ったのは、士官生になってからだった。学校のネットワークを駆使して探し、軍にいる事を知った。
ただの九歳の少女は、同い年だと言うのに、軍人になっていたのだ。それも空母クラスのオペレーターに。
彼女は、幼なじみであり遠縁の親戚であり親友であり、そして――初恋の人でもあった。
「戦艦級アンノーン、α-PEACEを離脱!ヴィーゴを追ってきています!」
「十二時方向に旋回、それと155mm砲を十六門射出!何とか足を止めなさい!」
「了解!155mm砲、十六門射出!四番から十番、弾幕包囲!AFCS XXII自動射撃統制システム起動!パルスIよりパルスIII解放、サプレッサー冷却!」
「撃ち方、照準合わせ!」
「火器制御システム(FCS)オールグリン!どうぞ!」
オペレータが叫ぶ。流石にエドワードの表情が強ばる。
「発射!」
ブリジットのかけ声と同時、けたたましい爆音が響く。155mm砲が、綺麗な軌跡を描いてアンノーンに飛来する。
着弾した瞬間、小さな爆発が起こる。
が、やはりというか何というか、ダメージどころか足止めにすらならない。
「ッ、次!量子砲弾を全砲門用意!主砲の準備も同時にしなさい!」
「了解!量子砲弾用意!FCSオールグリン!」
「撃てェ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!
僅かだが艦体が揺れる程の衝撃と同時、量子砲弾が発射される。
「主砲、エネルギーチャージまで後120秒!」
マドカが叫ぶ声を、エドワードは聞き逃さなかった。
と、視界の端から光が弾ける。
量子砲弾がアンノーンに着弾したらしい、エドワードは向き直る。
「ダメージがあるのかどうか……まるで分からないわね……」
ブリジットが神妙に呟く。
アンノーンは僅かに速度を落としたものの、再び追ってくる。
周りに漂う避難カプセルには目もくれていない(もっとも、目なんてない訳だが)。
そこが、エドワードにはどうしても引っかかる。
(どうして……本当に、アイツの目的は何なんだ……?)
衛星都市内での行動もそう。今もそう。目的がまるで見えてこない。
(……目的?バカな、アレはただ単に菌と水の塊だ。目的なんてある筈がない)
そんな知能ない、とは思うものの、不安は拭えない。
エドワードはバカじゃない、どころか天才と言ってもいい。彼は気付いていた。多分、……ただの推測に過ぎないのだが、多分、アンノーンの目的は――。
エドワードの思考を遮る様に、オペレーターが叫ぶ。
「アンノーンより高エネルギー反応を確認!熱源、中心部からです!こちらを狙っています!」
「六時方向に旋回!振り切りなさい!」
「主砲、チャージまで後七八秒!」
また、エドワードはいかなる事態でもマドカの声を聞き漏らさない。
「敵主砲、来ます!このままではかわしきれません!」
「サイドブースター、全速力で回避しなさい!」
「了解!サイドブースター放射、緊急回避!乗員はショックに備え――うわぁ!」
オペレーターが言い終わる前に、ヴィーゴのサイドブースターが火を噴く。
艦が大きく揺れ、移動したと同時に、先程までヴィーゴがいた宙域を黒いレーザー光線が走る。
ヴィーゴのグラディウスシールドを掠めただけに終わったのは、ほとんど奇跡だろう。
「被害報告と戦闘員の状況を報告しなさい!」
衝撃に唇を噛みしめていたブリジットが叫ぶ。
「被害報告!グラディウスシールド出力、4%低下。レーザー攻撃の余波により、電子機器の異常を確認!戦闘に差し支えはありません!」
「<バトルアクス>部隊及び<アーバレスト>部隊、出撃準備整いました!出撃許可を!」
「行け!」
ブリジットが命令すると同時に、ヴィーゴから勢いよく飛び出していく宇宙用戦闘機の数々。
「戦斧と強弓とはまた、安直な……」
エドワードのぼやきは、誰にも聞こえない。
正直、エドワードは圧倒されていた。つい半日前まで
「実戦に立っても生き延びれる」
と笑っていたが、とんでもない。
自分の様な素人が戦場なんかに出たら、活躍どころか足手まといでしかない。
無力を、改めて痛感する。
(今の俺に出来る事は……何もないのか?)
恐らく、いやきっと、ない。
この戦闘に参加できない自分に嫌気が差す。
幼なじみの少女ですら、戦っているというのに。
彼はまだ、気付いていない。
自分の存在が如何に、戦略的存在であるかを。