Chapter-6- 初陣 VSボスコボルド戦2
僕が動いた瞬間、ボスを守るように三匹のコボルドが前へ飛び出す。
僕は二歩目も脚力に任せて加速し、斧を構える直前のコボルドに肉薄。
交錯した――刹那、
「がうっ!?」
コボルドが驚きの声を上げると同時に、斧が手首ごとぼとりと落ちた。
次の瞬間、頭・右手・左手・胴の四ヶ所から血飛沫が上がり、コボルドは血泡を吐いて、地に崩れた。
「……役満『四暗刻』」
他の三匹は何が起きたのか理解が追いつかないようで、武器を持ったまま固まっている。
今、僕がやったのは、面・小手・小手・胴を素早く振り抜き、上段に構え直しただけである。ただ、生半可な動体視力だと、『何もせずに四ヶ所を刻まれた』と錯覚するだけだ。
だから、ネーミングが麻雀の役の『四暗刻』と言うわけだ。動作も無く闇に切り刻む一撃必殺と言う意味を込めて。いや、四撃必殺か。
昔、『四連キリキリ舞い』って名前だったのだが、澪に失笑されてこの名前になったのは黒歴史である。
――さて、一匹撃破、残り三匹だ。二匹のコボルドは足をがくがくと震えさせ、ちょっとでも威嚇しようならば逃げてしまいそうだ。
そして、ボスの方は――大きく息を吸い込んでいた。
「ガァルォォォオオオオオオオオオオオオオオン!!」
瞬間、ボスコボルドの咆哮攻撃が地下神殿をビリビリと震わせ、
「いぎっ!!」
二匹のコボルドを卒倒させて、僕の両鼓膜を引き裂いた。
ふらり、と片耳を抑えながら僕は後退する。
――やばい、耳が聞こえなくなった。頭もガンガンする。このままだと……。
「なっ!?」
その変化に気付いた僕は思わず絶句する。
「グルルルゥ……フゥ……フゥ……」
咆哮したボスコボルドの体毛が赤く染まり、熱を発しているのか体全体から蒸気を噴き出している。
――なんだよ、あれ。『狂化状態』って奴なの?
「グルァァァッ!!」
咆哮と共に強靭な脚力で大地を抉り、僕に向かって突進する。
巨体にそぐわぬ速度で近づいて来るボスコボルドを僕は横っ飛びで回避し、体勢を立て直す。
ボスコボルドはそのまま壁に直進し、跳躍。壁を台にして跳び、今度は大剣を振りかざして僕に向かってアタックを仕掛けてくる。
あんな攻撃に当たったら即死だ。
――果たしてこんな奴に勝てるのだろうか。
「……いや、勝つんだよ」
――こんな所で負ける訳にはいかないんだ。
恐怖を払拭し、僕は空中に浮かぶ巨体を見据え、正面に向かって飛び込む。
頭上をボスコボルドが通過し、巨体が着地する衝撃と大剣の振り下ろしで硬い神殿の床が破壊される。
背後に回られたことに気付いていたボスコボルドは、突き刺さった大剣を思いっきり引き抜いて、その勢いのまま背後を横薙ぎに斬り裂いた。
どの攻撃も致死。それはどの攻撃も重いが隙があると言う事。
横薙ぎの攻撃は近ければ近いほど、しゃがんで回避出来る隙間が大きくなる。
そして、しゃがんで回避した先に開ける隙間は――ガラ空きっ。
――さぁ、もう一つ自作の必殺技を見せてやりますか。
「地から天へと斬り昇れ、『下弦月』ッ!!」
僕は下段に構えた刀を立ち上がりと同時に上へ向かって弦状に振り抜き、ボスコボルドの胸部を斬り咲いた。
――浅い、か。
僕の攻撃は胸板を抉っただけで、致死と言うわけではなかった。
ボスコボルドが大剣を振り上げる。胸を切り裂かれた痛みなど無いようだ。
「グラァァァァァッ!!」
――攻撃が重くなる前に、鍔迫り合えッ!!
「イヤァァァァァッッッ!!」
咆哮と共にボスコボルドの大剣が振り下ろされるが、その攻撃直前に刀を入れ、刃と刃が重なり合う鍔迫り合いへと持ち込む。
金属と金属が交錯し、火花が散り、剣と剣は甲高い声で啼き叫んだ。
「ぐうっ!!」
――重い、重すぎる。こんなのまともに受け止めたら骨が折れてしまいそうだ。
相手の腕が伸びきる前に攻撃を入れたと言えど、その筋力は常人を優に超えている。だから、普通に鍔迫り合いをすれば負けるのは目に見えていた。
そう、普通ならばだ。
力が拮抗していれば、それを押し込む為に更に力を入れるのが当然だろう。そして、勝利するのは力が強い方である。すなわち、ボスコボルドの方だ。
――そこに勝機がある。
「グルァァァァッッッ!!」
ボスコボルドが僕を押し込める為に吠えながら力を入れた。
瞬間、僕は腰を入れて両足を右方向へスライドさせ、鍔迫り合いの力を抜きながらボスコボルドの力のベクトルを左方向へ受け流した。
大剣が大地を抉り、バランスを崩したボスコボルドが地面へなだれ込む。しかし、ボスコボルドはギリギリで踏み止まり、首をこちらに向けた。
だが、今まで最大の隙。その体勢ならばもう攻撃は避けられまい。
――これがラストだッ!!
大地を蹴っ飛ばしてボスコボルドと肉薄する。
「天から地へと斬り堕ちろっ『上弦月』ッ!!」
目にも止まらぬ早業の天から地へと堕ちる一閃。
上段からの攻撃を得意とする雛桜夢幻の最高速度で振り下ろされる一撃。
それがボスコボルドの首に吸い込まれ――一瞬の静寂が地下神殿を包んだ。
僕は刀に付着した血を振り払い、刀を鞘へと納める。
「……ナイスファイトだったよ」
ボスコボルドの目を見て、僕は健闘の言葉を捧げた。
「……が、るぅ……」
そう言い残して、ボスコボルドの首が胴体から擦れるように落ちて、ここに勝敗が決した。
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