表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽物娘のSex Change  作者: 青烏賊するめ
偽物娘 現実世界編
4/7

Prologue-3- スウェズ世界

 手術中のランプが煌々と光る。


 病院の窓の外は既に暗く、真っ白い壁が不安げに闇を吸い込んでいた。


 澪の手術が始まってからもう五時間が経過している。


 降り注いだ鉄骨は、澪の頭部と臀部に直撃し、頭蓋骨は陥没、寛骨を一部損傷する致命傷を澪に与えた。


 例え、手術が成功したとしても、後遺症が残る可能性があり、成功でも最悪の場合は『脳死』してしまうと医者から説明された。


「………………」


 手が震え、涙が止まらない。だが、こんなの澪が今感じている痛みに比べたら……。


――僕が傍にいると周りが不幸になる。


 言葉通りじゃないか。何が「今は幸せです」だよ、僕のせいで澪は……澪はっ。


 そんな事を考えていると、こつこつと複数の足音がこちらに近づいて来るのに気がついた。


 頭を上げると、二人のスーツを着た男女が僕の目の前にいた。


「貴女が佐世川澪君のお友達の雛桜夢幻ちゃんね」


 スーツ姿の年齢は二十代前半、黒髪を三つ編みにした眼鏡の女性はバインダーを片手に、僕に話しかける。


 しかし、この女性……委員長に似ているような気がする。


「はい……そうですが……?」


 涙を拭いて、その人の問いに答える。サングラスに髪型はオールバックの男性の方は依然黙ったまま隣にいるだけだ。


「単刀直入に訊くわ。……貴女、命を賭けてでも澪君を助けたいって気持ちはある?」


 女の人の質問の意図は汲めなかったが、僕は即答で答える。


「ありますっ。僕の命で澪の命が助かるなら、いくらだって差し出しますっ」


 澪の命が明日までなら、僕の命も明日まででいい。


「それはどうして?」


 すると、女性の瞳がすうっと赤く染まり、何かを見抜くような目つきになる。


 それが不自然な現象だと僕は感じず、僕は女性の言葉に返答した。


「澪は、僕の人生の、命の、恩人だし、従弟だし、家族だし、親友だからですっ」


 ふぅむ、と女性は僕を見つめると、


「嘘は言ってないようね。貴女の人生に彼がどれだけ深く関わってるかは見当もつかないけれど……合格よ。貴女に彼を救うチャンスをあげるわ」


「澪を救うチャンス……って、どういうことですか?」


 よくわからないまま合格と言われ、僕にチャンスを与えると言う。


 全く持って意図が読めない、この人はいったい僕に何をさせたいのだろうか。


 そして、次に言うこの女性の一言は、


「そうね、簡単に言ってしまえば、『命を賭けたゲーム』に勝てば『どんな願い』でも叶えてもらえる……そんなゲームに参加する権利を貴女は得たのよ」


 まるで御伽噺のような、信憑性の薄い怪しい話だった。


 バカバカしい、と一言で片付けられるが、援助交際で培った人を見る目が、この人は嘘を吐いている表情ではないと言っていた。


「信じるも信じないも貴女次第だけ――」


「信じます。それで僕はどうすればいいですか?」


 言葉を遮っての即答だった。


 僕のその行動が意外だったようで、女性も目を丸くして一瞬ぽかんと口を開けたが、すぐにくすりと笑って。


「ふふふ、初めてよ、こんなにすぐ信じる人は。これぐらい適応力があれば……或いは。まぁいいわ、質問と説明に入る前に、自己紹介をするわね」


 一旦区切って、女性は言う。


「私は魔術協会関東支部部長の橋爪乙香(はしづめいつか)よ。それでこっちの寡黙なグラサン男は魔術協会記憶管理局隊員の橋爪佑(はしづめたすく)。私の旦那さん……ってこんな情報は要らないわよね」


 魔術協会、記憶管理局。ファンタジーな固有名詞が出てきたが、僕の頭は混乱することなくその全てを飲み込む。


 何故ならば、僕は――この世には不思議な能力を持つ者が存在することを知っていたからだ。『魔術協会』とやらが存在したことは知らなかったが。


「魔術協会ってことは、魔術が使えるんですか?」


「もちろん、と言っても私は異能力者だから――」


「人の心を読む?」


 なんとなくだが先ほどの乙香さんの赤い目は僕の心を見透かしていたような気がする、と言った理由だったが、果たしてそれは正解だった。


「え、えぇ……もしかして、貴女、魔術や異能力に理解があるの?」


 乙香は僕の発言に驚きながら、質問する。


「いえ、僕自身は魔術や異能力の知識はありませんが、昔の知り合いが時間操作を扱う子だったので……」


 あの事件よりも昔の小さい頃に遊んだ狐耳を生やした金髪の女の子の事が浮かぶ。


「その子の名前は……?」


 乙香が尋ねる。


「クルミ・ウルノス。異世界を放浪している十尾狐の女の子です」


 澪が紹介してくれた女の子で、よく秘密基地で一緒に遊んだ思い出が蘇る。


「……異世界人ってことは私達側の人間じゃないってことね。まぁ、良いわ。異世界の存在を知っているとなれば話が早くなるし」


 乙香はそう言ってバインダーに何かを記入する。


 異世界の存在を知っていれば話が早くなる、命を賭けたゲーム。そこから導き出される答えはだいたい想像出来た。


「そうね、ここまで言ってしまえば勘が鋭そうな貴女なら予想が出来るかもしれないけれど……貴女がこれからするのは『異世界を冒険する』ことよ。異世界を冒険し、ポイント数で決まるランキングの上位100位以内で生き残ることが出来れば、願いが叶えられる。貴女が参加するのは、そういうゲーム」


 異世界を冒険、ポイント、ランキング、上位100位以内で生き残れば願いが叶えられる。


 彼女の説明は要点を掻い摘んだだけで、詳しいことがわからない。


 もう少し具体的に聞いてみようとすると、


「……おい、乙香。詳しい説明は基地に戻ってからだろう。それに口頭だと伝わり難い」


 グラサンの男、佑がやっと口を開く。見た目通りの男らしい声だ。


 どうやら、ここで説明するべき話ではなかったらしい。


「あ……そうだったわね。ごめんなさい、ちょっとここでは話せ無いから場所を変えましょう」


「えっと……何処へ、行くんですか?」


 ついて行くことに恐れは無いが、一応聞いてみた。


「この病院の地下にある記憶管理局の支部よ、そこに異世界へと繋がるゲートがあるの」


 そう言って乙香と佑が歩き出す。


「ついてらっしゃい」


僕は立ち上がって、その後について行くのだった。


----


 病院の非常階段を下った先に、それはあった。


 薄暗い広間のような部屋の中は、連立する無数の黒い巨大なボックスがLEDランプを明滅させながら、口から触手の配線を吐きだしている。初めて見たが、これがスーパーコンピューターと言う奴だろう。


 床を這う蛇のような配線は、最奥にあるパソコンとアーチ状の謎の機械に繋がれ、そのアーチは液状のような薄い膜が不思議な光を発光しながら、圧倒的存在感を醸し出していた。


「ここが魔術協会記憶管理局の東京支部よ。今は異世界ゲートとスパコンがあって狭く感じるけれど、普段はもっと広いのよ。そして、そこの椅子に座っているのが――」


 乙香が指差す方向に高級そうな回転椅子があり、その椅子がくるりと回って、幼い女の子の声が上がる。


「乙香さんも佑も、遅いよっ。何やってんのっ」


 暗い部屋の中でも目立つ純白でもこもことした髪の毛、だぼだぼの白衣に身を包んだ赤い眼鏡の幼女。超絶可愛い、と僕は抱きしめたい衝動に駆られた。


「記憶管理局東京支部長の十余二向日葵(とよふたひまわり)よ。ちなみにアレでも三十才過ぎてるから、注意してね」


 最期の部分を乙香は耳打ちする。


 あれで三十過ぎとは……どんな魔法を使っているのだろうか。


「あたしはヒマワリだってばよーっ!! よろしくね、夢幻ちゃんっ」


 にぱーっ、と明るい笑顔でヒマワリは出迎える。見た目と同様な精神年齢に見えるが、年齢と肩書きが本物ならば、と乙香の忠告に従って礼を欠かないように挨拶する。


「……よろしくお願いします」


 僕がお辞儀をすると、ぴょんとヒマワリが椅子から飛び降りた。


「ここに来たってことは、命を賭けて冒険に参加するってことでいいんだよね?」


 ぱたぱた、と近づいてきて、ヒマワリは僕の目の前で立ち止まる。


「はい、澪を救えるなら僕はこの命を捧げますっ」


 んー、とヒマワリは夢幻の顔を橙色の瞳で凝視し、小さく呟く。


「……『記憶視(メモリーサイト)』」


 何かの能力だろうか、ヒマワリの目を見つめていると頭の中がぼやぁっとする。


 意識が遠のいていく感覚、だが、変な感覚だがとても心地が良い。


「……夢幻ちゃん、いや、夢幻君か、心がかなり病んでるのねぇ。無理して元気でいるって感じがするよー?」


「えっ」


 唐突に指摘されたことで意識がはっきりとする。


 いや全然、僕は元気なんですが……。何を根拠にそんなことを――。


「消してあげよっか、妹を殺したお父さんのことも、クラスの皆にいじめられたことも、気持ち悪い中年教師にレイプされたことも、嫌な記憶を全部ね」


「なっ!? なんで、そのことを」


 僕の驚く様子を見て、白い白衣の幼女はにやり、と可愛らしい自慢げな笑顔をみせる。


「ふふふ、君の記憶を読ませてもらったよ。夢幻君は中々壮絶な人生を送ってきたみたいだねっ。まぁ、消したら澪君に助けてもらった記憶も消すことになるから、それはしないけどー」


 あの一瞬で僕の記憶を読んだのか。そして、その記憶を消せる、と……。


 彼女はそういう能力者らしい。まぁ、記憶管理局の支部長なのだから、そういう能力を持っていてもおかしくはないだろう。


「さってとー、あたしの記憶操作能力を自慢できた所で、本題というか、ルール説明と行きますかーっ」


 驚いてるのも束の間、メーターが振り切れた高いテンションでヒマワリは言う。


「一応、乙香さんから、触りは聞いてますが……」


 僕がそう言うとヒマワリはちっちっと指を振り、意図ありげに否定する。


「のんのん、そんなんじゃ頭に入らないでしょー。ルールはきっちりと頭に刻み込まなきゃ、駄目なんだよー?」


 記憶操作能力。頭に刻み込む。それが意味するのは、


「いや、あの、何する――」


「それじゃあ、夢幻君。命令です、『頭を下げろ』」


 何を、と思考する前に、視界がいきなり床だけになる。


 僕は命令されるがまま、頭を下げていた。


「ごめんねー、ちょっとした記憶操作を使った催眠術だよ。大丈夫、一時的にしか操れないから安心して……あと、これから記憶に介入してルールを頭に刻むから、ちょっと痛いけど我慢してねっ」


「――――っ」


 ヒマワリに反論しようとも言葉が出ない、言葉を喋る命令が下ってないからか。


「それじゃあ、いくよーっ」


 柔らかい手のひらが僕の顳かみを包み込み、


「対象の記憶に介入し、施術、改変する――『記憶改変(アップデート)』」


 ヒマワリが詠唱した瞬間、バットで殴られたような衝撃と激痛が脳内を走り、同時に脳内に記憶にない知識が流れてくる。


----


~スウェズ世界に挑む冒険者の心得~


1.冒険者は世界を自由に行動して良い。悪行を重ねるもよし、神に挑むもよし。ただし、全冒険者の行いは全知全能の世界神スウェズ様によって監視される。


2.冒険者はソウルポイントによって順位付けられる。ソウルポイントや順位は各冒険者に配布される『マナカード』で確認出来る。


3.ソウルポイントは狩猟・探索など様々な経緯で得られ、全て世界神スウェズ様によって平等に与えられる物とする。不平等は有り得ず、不平不満は認めない。


4.ソウルポイントは両者の合意があれば譲渡可能とする。冒険者間の通貨とするもよし、金銭と交換するもよし。


5.冒険者を殺害した際、トドメを刺した冒険者にソウルポイントが与えられる。殺害した者が冒険者ではない場合、殺害した者に冒険者のソウルポイントが蓄積される。


6.ゲームの経過年数が十年を超えた場合はそこでゲームは終了し、上位100名の願いを叶える権利と冒険者の世界へ帰還する権利を与える。上位100名以外はこの世界に永住することとする。


7.冒険者の残り人数が100名以下になった時もゲームは終了し、願いを叶える権利と冒険者の世界へ帰還する権利を与えられる。


8.冒険者が一定数減り、世界神スウェズ様が隠した特殊条件を満たした場合、特殊ルールが追加で適用される。


9.スウェズ世界と冒険者の世界では時間の流れが異なり、おおよそ冒険者世界での一日はスウェズ世界で二年となる。


10.世界神スウェズ様との戦いに勝利した者はゲーム終了前に願いを叶える権利と冒険者の世界へ帰還する権利を与えられ、世界間を自由に行き来する権利を与える。万が一にも有り得ないだろうが。


以上の十項目を全知全能の世界神スウェズ様が平定する。


----


「はっ」


 気がつくと僕はヒマワリに頭を下げた状態で硬直していた。


 確か、「何をするのか?」と聞いた気がするのだが、何故、僕は頭を下げているのだろう。


 僕は頭を上げて、ヒマワリに尋ねる。


「あの、僕に何かしました?」


 その言葉を聞いて、殊更何も無かったかのように、さらっと言う。


「うん、ちょっとルールを頭に刻み込んで、少し記憶をイジったよー」


 ルール……そういえば、今まで知らなかったスウェズ世界のことが、冒険者の心得が頭の中に刻まれている。


「スウェズ世界……。その世界で上位100名に入れば澪が救える……」


 僕にそんなことが出来るのだろうか。いや、やるんだ。やらなきゃ、澪は救えない。


 ルールの5番を見るからに、人間を殺すことが前提とされたゲームだが、願いを叶える代償としてこの手を血に染めることくらい容易い。


 ただ、一つ気がかりなことがある。


「あの……質問なのですが、これって死んだらどう処理されるんですか?」


 死んだ場合、こちらの世界ではどういう風に処理されるのか。


 先ほどの心得は、スウェズ世界でのことしか言及していない。


「向こうの世界で死んだら、こっちでの生きていた形跡が消滅する。一応、世界概念が自動で関わった人物の記憶を改変するけれど、穴があったら記憶管理局が動いて、跡形もなく消される」


 後ろから乙香が言う。


 つまり、死んだら僕と言う存在が消えてしまうのか。


 そしたらもう、誰も澪を助けることができない。


「そう、ですか……あともう一つ聞きたいんですが、スウェズ世界ってどんな世界なんですか?」


 僕が尋ねると、ヒマワリが首を横に振って、その問いに答える。


「ごめんね、スウェズ世界の知識は与えられない。それは自分で向こうの世界で調べ、身につける物だから。ここで教えちゃったら他の冒険者との差が出てちゃうし」


 答えられない……か、ここで何か収穫を得られればいいと思ったのだが、もう少し聞いてみるか。


「それじゃあ、どうやって戦うのか、とかも教えられない、と?」


 戦いの方法。剣や弓などの近接武器を使って戦うのか、それとも魔術協会の名前の通り、魔術などを使って戦うのか。


「いや、それは教えられる。というか、スウェズ世界に行く前に欲しい武器を申請してもらうから、その時に説明しようと思ったけど……今、説明しちゃうね。

 スウェズ世界では、主に武器と魔法で戦うことになるの。その為に初期武器として冒険者の好みに合わせた物が選べるんだけど……ちなみに、どんな物でもOKだよ。でも、初期の武器だから能力は期待しない方がいいかな……さて、夢幻君は、って聞くまでも無いかー」


 最初から武器は貰えて、それが自由に選べるとなれば、剣道をやっている僕が選ぶのは一つしかない。


「僕が選ぶのは……刀です」


「だよねー。全国中学校剣道大会の個人戦二位だもんね、君が選ぶのは『刀』だって知ってたよ。……そういうことだから、乙香さん、書類には『刀』って書いておいて」


 ヒマワリが指示すると乙香がバインダーに挟んだ書類に『刀』と書き込む。


 しかし、良い情報を得た。スウェズ世界は武器と『魔法』を使って戦う、と言った。向こうに行けば『魔法』を使うことができる、と捉えていいだろう。


 だが、肝心な魔法発動の方法は未だ不明だ。僕は魔法や異能力について何も知らない。


 何も……知らない? あれ、今までの話と何か矛盾しているような、なんだろう。


 そんな訝しげな表情をしていると、ヒマワリが不意に尋ねてくる。


「そうそう、夢幻君って魔法や異能力を見たことある?」


「いえ、今日、初めて魔法や異能力の存在を知りました」


 その答えを聞いて、くすりと笑うヒマワリ。僕、何かおかしなことを言ったかな。


「ふふふ、そうかー。それじゃあ、楽しみにするといいよ。スウェズ世界では魔法や異能力を身を持って体感することが出来るからね」


 これもまた良い情報だ。向こうの世界には異能力もあるらしい。異能力というのは、乙香とヒマワリの目の様な物だろう。わざと明かしてくれているのだろうか。


 あと不安な所はあるか、いや、もう大丈夫だろう。スウェズ世界の情報を聞き出せない時点で、他の詳細な情報は聞き出せまい。


「それで……僕はいつ、スウェズ世界に行けるんですか?」


 話を進める為に僕はヒマワリに尋ねる。


「えっ、あっ、そうだ、やばっ」


 僕が質問した瞬間、ヒマワリは腕時計を確認し、表情に焦りが走る。


 僕も時計を確認すると、時刻は18時10分だった。


「話込み過ぎて、ゲーム開始時刻を10分も過ぎちゃった。だいたい一日ずれた感じかな。佑と乙香さん、急いで転送するから、準備してっ」


 一日で二年進む世界で10分の遅刻は大きい。


「はい」「……了解した」


 二人はパソコンのモニターの前に座り、何やら入力をし始める。


「夢幻君はゲートの前に立って、あたしらが合図するから、そしたらゲートに入っちゃってー」


 ヒマワリに指示され、僕はゲートの前に立たされる。


 神秘的な淡い光を放つゲートは、目の前で見ると更に不思議で、真珠の様な色めきが波状に揺らめき、その先を見ることは叶わない。


 このゲートをくぐればその先は異世界。現実味は無いが、この現実世界から逸脱したゲートを見れば、そのことが紛れもない事実だと告げている。


 そう思うと、心が不安と希望が入り混じる。だが、澪を助けるって決めたんだ。


「彼女の情報を入力完了」


 乙香がそう言って僕の方を向く。


 今、僕のことを『彼女』と言ったな。そういえば、乙香には僕が男だと説明するのを忘れていたが、まぁ、誤解したままでも問題は無いだろう。


「転送準備完了――異世界転移ゲート起動。いつでも、行けるぞ」


 佑の方も準備が出来たようで、それを確認したヒマワリが僕に合図を出す。


「それじゃあ、夢幻君、ゲートに飛び込んでっ!」


 不安な気持ちを覚悟を押しつぶし、僕はゲートに一歩踏み込んだ。


「健闘を祈ってるよー」


 明るい声が耳に届くと同時に僕はゲートの膜に身体を包み込んでいた。


 ゲートの眩い光に思わず目を瞑り、一瞬だけ足元が無くなって浮遊感が僕を襲う。


 そして、すぐに視界は真っ暗になり、ふわぁっと落下する感覚が身を包む。


「あれ……これ大丈夫なの?」


 慌てて目を開けると僕は、暗い神殿のような場所の中空に転移していた。


----


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ