始まり話しかけ
五時間目、蛍奈は教室に戻ってこなかった。
だがそれをとやかく言う人は、先生を含めていない。それぐらい、この光景は珍しくないことだ。
「……」
ふと、アイツと初めて話した時を思い出した。
あれはそう、私がクラス委員になった一年生の時、担任の先生に、
「水野葉に話しかけてみてくれないか?」
と言われたのが始まりだ。その時はまだ、一クラスメイトぐらいにしか見てなかった蛍奈、私は言われた通りに話しかけると、
「次はアナタなの?」
いきなり疑問をかけられた。
「どういうことですか?」
あの時はまだ蛍奈に対して敬語だった。
「なるほど、ワタシをクラスに馴染ませようと話しかけた。クラス委員としてではなくて、先生に言われたからね」
う、何故それを……
「ふふふ、何故ならワタシはマッドサイエンティストだからよ」
狂った科学者?
いやそれ答えになってないし……じゃなくて、
「そんなことないよ、ただ私は水野葉さんと友達になりたいだけだよ」
とりあえず話を繋げないと。
「ふぅん……珍しい人ね、ワタシと友達になりたいなんて」
「でね、水野葉さん」
「蛍奈でいいわ、友達なら名前で呼び合うのが普通じゃない? それにタメ口で結構よ」
お? 意外と脈あり?
「分かったわ、蛍奈。私は竹鳥説子」
「竹鳥説子……ふむ、分かったわ」
「え? なにが?」
「取説よ」
……はい?
「取り扱い説明書がどうかしたの?」
「アナタのあだ名よ、たけとりせつこ。真ん中を取って取説」
あー、なるほどなるほど。
「友達だもの、あだ名とかつけあうのが普通でしょ?」
それから……
「っ!!」
思わず立ちあがってしまった。
「どうかしたか? 竹鳥」
「あ、いえ……なんでもないです」
謝って座り直す。
……蛍奈と友達になってからというもの、アイツの作った発明に振り回されてばっかりだ。
中には、思い出しただけで授業中でも関わらず立ちあがってしまうようなものもあった。
……はぁ。
誰にも聞こえないようにため息をついた。
それと同時に、授業終了のチャイムが重なった。
教師が出て行き、生徒達が各々の行動に移り始めた中、
「せっちゃん、さっきはどうしたの?」
藍沙が私の所へときてくれた。心配してくれるのは助かるけど、
「なんでもないの。ありがとね藍沙」
「そう、でも、悩み事ならわたしでよければ聞くよ?」
「ありがとう、藍沙」
そうよ、友達というのはこういうのを言うのよ。
「できたわ」
こう、いきなり現れて実験の手伝いをさせるようなのは友達と呼んでは……て、
「あ、はーちゃん」
「こんにちは真崎さん。取説をお借りするわよ」
現れた蛍奈は、私の席に何か妙なものを置いてから藍沙に挨拶した。
「わたしも行っていいかな?」
「ワタシは止めないけど、取説はどうかしら?」
こちらを見て聞いた。
「……」
今席に置かれているものが、蛍奈が作った発明。今までの物では本当にいろいろなことが起こったし、他者に見られたくないものがあったのも少なくない。
「……ごめん、藍沙」
「そっかー、ううん。気にしないで」
……本当にごめん、藍沙。蛍奈の発明は何が起こるか想像が出来ないから、おかしなことに巻き込んじゃうかもしれないのよ。
藍沙を見送ってから、
「さぁ、行くわよ」
教室を出ていく蛍奈の後に続いた。
おそらく次回、蛍奈の作った発明で取説が……
さて、どうなることやら。